ドラゴンの決意
湖に着いたら、まず様子をうかがう。私の体は大きく、影も大きいものが出来るので、魚たちは逃げ惑う。一部、地球でいう兎型の実はサメな生き物のように魚に見えないのもいるけど、一応味が魚なので魚の括りに入れておく。
暫く動かないでいると、魚たちも落ち着きを取り戻し、通常通りに戻って行く。そして、魚たちが私のそばにも来るようになり目当ての魚が寄ってきたら、そこで素早く手を突っ込んで捕まえる。
前に電撃魔法を撃ち込んだり、氷魔法で凍らせたりしたこともあったんだけど、上手く行かなかった。
電撃魔法は広範囲過ぎて沢山の魚がプカーッと浮いてきて処理に困ったし、氷魔法は氷の上に乗らないと目当ての魚の部分を切り取れなくて、かといって私の巨体では氷が割れて散々な目に合ったので、今では大人しく魚の方から近寄って来るのを待つようにしている。餌はないが、釣りに近い要領だ。
そして、無事魚を仕留めた。今日の収穫はサメ型なシャケとタコ型なイカである。
タコ型なイカにはスミを掛けられそうになったので、すかさず地面に投げつけた。これで私はスミを被らずに済み、イカは気絶するので持ち帰るのが楽になる。スミを被るとピリピリするのだ。多分、毒か何かの成分が入っていると思う。
なかなか乱暴な方法だが、ここの魚や動物たちはそれなりに凶暴なのでこういう方法が一番手っ取り早いのだ。
巣に帰ると、既に魔物たちは帰ってきており、獲物を前にしてお座りして待っていた。犬型や豹型などは尻尾も振っている。みんな揃って“待て”をしているのは見ていて可愛い。魔物だけど。
私は人間と会って決めたことがある。一度この森を離れようと思う。戻って来ることはあるのか、戻れるのかはわからないけど。
だから私にとっては、今回の弁当は魔物たちのために作る最後の(になるかも知れない)弁当で、お別れパーティーも兼ねている。
私の中だけで決めたことだけど。
人間に会いたいとずっと考えていたのに、自分がドラゴンだからとかまだ完璧に変身出来ないからとか、戻ってくるなと言われたからとか、結局は色々自分に言い訳をして現状が変化することを怖がっていたんだと思う。
ドラゴンに生まれ変わって、会話は出来るけど同族の仲間とか家族はいなくてぼっちのつもりでいたけど、お爺さんはいつもそばにいたし魔物たちも頻繁に訪ねてくれた。
だから、本当の意味でぼっちではなかったと思う。中途半端に人間の意識が残っていたからドラゴンになりきれなかった。今でも時々、これは夢で目が覚めたら家にいるんじゃないかとか考えることもある。
一人で旅をして、この世界に骨を埋める覚悟ができる位、ドラゴンとしての自覚ができればいつかまたこの森に戻ってきたいと思う。ドラゴンの寿命は長いし、戻れるとしてもいつ戻れるかも分からない。
その時ここはどう変化しているだろう。何も変わらないかも知れないし、魔物たちやお爺さんも居なくなって、知っているものが何もなくなっているかも知れないけど。少しでも自分に変化をもたらしたい、変わりたい。
そう思ったから、私は森を出ることにしたのだ。弁当への期待に溢れた目で私を見つめる魔物たちを見ながら、改めて決意した。