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王妃の宝石  作者: 桐生初
9/10

平和の証

ふと見ると、ボルケーノ王は、よろよろと起き上がっていた。


アレックスは、マリアンヌをダリルに預けると、アデルに歩み寄った。


「兄上、いつからそこに?」


「ずっと上空から見ていた。助けに入ろうかとした所で、王妃が来たので、暫く様子を見ていた。」


「ーマリアンヌがあのまま死んでしまったら、どうするおつもりだったのですか。」


「半々だと聞いていた。」


「ー誰から。」


「聖魔導士は、アンソニーだけでは無い。王妃の宝石が聖なるもののままなら、ボルケーノは浄化され、王妃の命も聖石のご加護で、助かる可能性があるとな。」


「可能性じゃないですか。助かるという確証は無いのに、放っておかれたんですか。」


「俺には王妃の命がどうなろうが関わりは無い。」


「関わりの無い人間の命は、どうでもいいとおっしゃるんですか。」


「アレックス、何を怒っている。王妃は助かり、ここもボルケーノも浄化された。俺が助けに入らなくても、上手く行ったじゃないか。」


「俺は兄上の心持ちの問題を言っているんです。兄上は、本当は愛情深い優しい方のはずだ。何故そう偽ってまで、冷酷無比を貫かれる。」


「お前には関係無い。そんな甘い事を言っていては、国家元首は務まらない。早くとどめをさせ。」


「その前に話をさせて下さい。」


「話?まあ良かろう。早く済ませろ。」


アレックスは、ボルケーノ王の傍に片膝をついて話しかけた。


「何故大火砕流をあなたが止められなかったのかが分かりました。」


「何故…だったのだ…。」


「10年前の世界中で起きた戦で、沢山の不浄の血が大地に流れ込み、神の力が弱まり、石は自らを守る為、地中から逃れ、人に入り、そして、地中の不浄を一気に噴出したのが、あの大火砕流と噴火だったのです。

あなたに制御できるものではなかったんだ。

でも、そのお陰で世界を黄泉の力から守る石が無くなったにも関わらず、世界はまた平穏に戻り、地中から不浄が出て来る事も無かったが、それに寄って、あなたは多くの物を失った。

神の裏切りとお思いになっても、致し方ないかもしれない。」


「なるほど…。そうだったのか…。神も待った無しだったのだな。そのご神託を聞き逃したのは私の方だ…。」


「ご神託があったのですか。」


「うむ…。それを聞いた今にして思えばだが…。この地を捨てて逃げよというご神託があった。しかし、私は自分の力を過信していた。何があっても火山を操る事で守れると。あの犠牲は、私の過信故だったのだな。神の裏切りなどではなかったのだ…。」


「もうこんな事はなさらない?」


「しない。竜国に従おう。」


アレックスはアデルに向かって言った。


「そういう事ですので、ボルケーノ王のお命まで取る必要は無いかと思います。」


アデルは鼻で笑った。


「やはりな。来て正解だ。お前は甘いんだよ。こいつは火山を持ってるんだぞ。いつ謀反を起こすか分からん以上、生かしておいては危険なんだよ。」


「ボルケーノ王は、神に仕える神官です。約束は違えない。」


「さっきまで悪魔に魂を売ってたじゃないか。」


「改心なさいました。」


「信じられるか。」


「ではお聞きしますが、ボルケーノ王を滅ぼした後、火山はどうなさるのです。ボルケーノ王以外に火山を制御出来る人間は居ません。」


「探せばいるさ。」


「……。」


「早くやれ。それでお前の仕事は終わりだ。どうしても嫌だというなら、こちらでやってやっても構わないが?」


「全面降伏すると言っている丸腰の人間を殺すなど、竜国の騎士のする事ではない。」


アレックスはアデルに向かって大剣を構えた。


「アレックス、兄に刃向かうか。」


「納得がいきませんので。」


「ならば容赦はしない。」


アデルも剣を構え、アデルの後ろに控えた騎士達も剣や槍を構えた。


マリアンヌは焦った様子で、アンソニーのマントを引っ張った。


「なんとかならないのですか。」


「んー。まあ、アレックス様が勝ちますから。」


「だからって、ここでまた血を流したりするのは。それに、兄弟で争うなんて。」


「うーん。あ?」


アンソニーは何かに気付き、ニヤリと笑った。


「なんとかなりそうですぞ。」


「え?」


キョトンとしているマリアンヌの耳にも、大鷹の風を切る羽音が聞こえた。


頭上を見ると、大鷹と大フクロウが飛んで来ていた。


大鷹の方は、輿を掴んでおり、神殿に近付くと、ドスンと乱暴に置いた。


「もう少し丁寧に置けと言うておるだろう、エディ。ああ、疲れた。遠かった。」


降りてきたのは、クルクルと癖のある金髪の男性だった。

お爺さんには見えないが、腰をさすっている。


「父上?!」


その男性に向かって、アレックスが叫んだのを聞き、驚いたマリアンヌは、大フクロウから自分の父親が降りたのを見て、更に驚き、言葉も出ない。


「アレックス、早くバッサリ真っ二つにせんか。アデルなんか要らん。」


手で汚い物でも払うかの様な仕草をして言う。

見るからに不機嫌そうな顔になるアデル。


「ご老体は静かになさっていた方が宜しいのでは?父上。」


「アデル。」


元国王、エミールは、アデルをギロリと睨みつけた。


「お主はまっこと!器に無いのう!」


「何を申される!私のお陰で竜国は大きくなったのですよ!?」


「血を血で洗う戦で、力づくでな。ワシとリチャードが交わした停戦条約は何の為と思うておるか。これ以上の血を流さぬ為のものじゃった。それをお前は、獅子国と戦をせねば良いとばかりに、他国に攻め入るから、このリチャードもやりたくもない?かどうかは分からんが、汚い手を使って、他国を配下に収め、守らねばならなかったのだぞ。」


「……。」


「もう戦はやめじゃ。領土拡大も終いに致せ。」


「父上の指図は受けません。」


エミール元国王は、ニヤリと笑った。


「ならば今ここでワシと一戦交えるか。」


「はあ?父上とですか?お望みならお相手して差し上げても良いが、そのお身体では、負けるのは父上の方ですよ。」


エミール元国王の背後から、リチャードが不敵な笑みを浮かべて言った。


「それはどうかな?」


そう言うと同時に、獅子国の軍勢が大フクロウから降り立ち、ずらりと並んだ。

上空にも空が暗くなるほど居るのが、吹き抜けの神殿から見えている。


エミールが続ける。


「お主が連れて来た軍勢の凡そ3倍は居るぞ。それにアレックスじゃ。お主の方こそ勝てるかね。」


「くっ、敵国と勝手に同盟を結ぶとは!」


悔しそうに言うアデルをエミールは鼻で笑った。


「同盟では無い。友情じゃ、この愚か者め。」


エミールは、輿を従者に担がせ、ボルケーノ王の側に寄せた。


「ボルケーノ、ワシらのしでかした戦のせいで、火砕流が起きたと聞いた。本当に何と詫びれば良いか。申し訳なかった。」


「いや。あの時代は、アレキサンダー王が亡くなり、混沌とした時代であった。お主が戦を厭うておったのは、私も知っている。攻め入れられれば、国と国民を守る為、戦わねばならぬ。私とて同じ事。多くの将兵を火山で死なせた。」


「もうこれからはそんな事の無いように、仲良くやろう。」


「そうできるのか。」


エミールは振り返り、アデルをじっとりと睨みつけた。


「出来るな?アデル。お主を国王に戴いた老臣達はもう居ないぞ。戦続きで、民も兵もお主から離れつつある。出来ぬと申すならば、お主をここで始末して、アレックスに継がせるが?!」


アデルは大きなため息を吐くと、エミールを睨み返しつつも頭を下げた。


「戦はもう致しません。平和且つ、友好的に他国と付き合いましょう。」


「よーし、こっちは終わった。リチャード、どうするね。」


「うーん。」


リチャードは、顎髭を触りながら、アレックスに歩み寄り、右手を出した。

アレックスは慌てて大剣を収め、その手を取り、握手を交わした。


「リチャードだ。」


「アレックスです。」


「アレックス、本当の名前は、アレキサンダーであろう?この世界を1つにまとめた偉大なる王と同じ名だ。」


「……。」


「どうかね。私は、子はマリーしかいない。マリーを娶って、獅子国を継がぬか。」


「ーは!?」


「悪い話では無いと思うが。」


アレックスは笑い出した。


「いや、それは御免こうむります。政は向かない。」


「うーん、残念だな。そうなると、人助けの賞金稼ぎを続けるか。まあそれも良かろう。マリーを頼んだぞ。」


「ーえ…。」


「命懸けで自由にしてくれようとしたのではないか。ちゃんと全部、最初から最後まで見ておったぞ?んふふふふ。」


いやらしい笑いに赤面しつつ、思わず一歩引きながら答えた。


「自由にしたかっただけです。貰う気は…。」


「気に入らない?」


「そんな事はありません!」


「好きな男の元に嫁ぐ、これも平和の証。」


「あの…。全て見てらしたと仰いましたが、マリアンヌがご心配では無かったのですか。」


「うん。実は、うちの聖魔導士がな。マリーの幼い時から、マリーは勿論、マリーの石も見てきた。何で入ったのかは、この事件が起きるまで分からなかったが、常日頃から、石がマリーに感謝していると言っていた。今思えば、聖なる石のままで居られるのは 、マリーの美しい心のお陰だからだろうと言ってな。だから、ほぼ間違いなく、全てを浄化し、マリーは生き返るだろうという話だったのでな。」


エミールが意地悪く笑って口を挟んだ。


「またまたー。んな事言って。マリーちゃんの息が吹き返さなかった時、大泣きしていたではないかー。」


リチャードはエミールを一睨みすると、思い切りわざとらしい咳払いをした。


「じゃ、エミール、帰ろうか。」


エミールはまた腰をさすりだした。


「いや、もう無理。」


「無理って…。」


「腰痛い。疲れた。動きたくない。」


「エミール、相変わらずのその根性無し…、どうにかならんか。」


「ワシは病気じゃ!」


ボルケーノが笑いながら言った。


「ならば温泉に浸かって、養生されてみてはいかがか。ここはこの通り、外でもこの暖かさだ。お身体も良くなるであろう。あなた方も。せめてものお礼がしたい。」


そう言って、アレックスとマリアンヌを見た。


エミールはニヤニヤといやらしく笑いながらアレックスの上着の袖を引っ張った。


「良いのう。温泉でハネムーンかあ。」


燃え盛る火のように、一瞬で真っ赤になったアレックスは怒鳴った。


「父上!真っ二つになられるか!」


もう大剣は抜かれている。


「お主はその喧嘩っ早さがなければのう。」


エミールは悲しそうに、すっかり元に戻った衛兵達に連れられ、温泉に向かい、アデルは一言も発せず立ち去った。


落ち着いたところで、ダリルがアンソニーに聞いた。


「あの宝石はどこに行ったんだ?」


「それは人が知ってはいかんのだ、ダリル。世界のどこか、地中深くに戻っただけの事。」


「ふーん…。まあ、確かにあそこまで美しいと、それが元で血が流れそうではあるな。」


「その通り。」


「で、元々は誰が埋めたんだ?」


「それは知らん。恐らく誰も知らない。」


「へえ…。不思議な事もあるもんだな。」


ボルケーノの衛士や獅子国の兵士、ダリル達が仲良く語らっているのを見ながら、ボルケーノ王は、アレックスとマリアンヌの手を取った。


「大変なご迷惑をお掛けした。本当に申し訳なかった。」


アレックスは何も言わなかったが、マリアンヌは、ボルケーノの手を小さな手で包み込んで言った。


「お辛過ぎたのでしょう。もうお1人にならないで下さいね。」


リチャードが嬉しそうにマリアンヌの頭を撫で、ボルケーノに言った。


「友がここにも、温泉にも居る事を忘れないでくれ。」


ボルケーノは照れた様子で笑い、嬉しそうに頷いた。


リチャードは、神殿の庭に2人を連れ出し、アレックスに囁いた。


「こういう事は男のほうから言えよ?」


「ーえっ!?あ、あの!」


「俺が許してやってんだから、さっさとくっつけ。でないと、ボンクラカールがしゃしゃり出てくるぞ。さ、俺も温泉に入って来よう。」


リチャードが行ってしまうと、マリアンヌと目が合った。

思わず不自然にバッと逸らす。


視線を逸らした先に、露に濡れた淡いピンクの薔薇が咲いていた。

雑貨商のオヤジが言っていた様に、マリアンヌそのままだった。

可憐で、儚げで、可愛らしく、美しい。


「マリアンヌ。」


「マリーとよんでくださいな。」


「う、うん。」


「何でしょう。」


アレックスは珍しく、後ろを向いたままモゾモゾと言った。


「俺はその…。城も持たないし、屋敷すら持って無いし、好き勝手をして、無責任に生きている男だ。」


「そんな事ありませんわ。」


きっぱり断言されてしまい、また言葉に詰まる。


「だって、竜国の騎士として信念を貫いて、生きていらっしゃいますもの。決して無責任ではありませんわ。国を持ち、城を持っている方でも、無責任な方は大勢いましてよ?」


「そ、そう…。」


「それで?」


「えー、それで…。」


「……。」


「……。」


アレックスは小さなナイフを出し、ずっと見ていた薔薇を一輪切ると、棘をとり、振り返って、マリアンヌの亜麻色の髪に挿した。


「俺に恩を感じて返事はしないでくれ。」


「はい。」


「ずっと…、死ぬまで…、俺の側に居てくれないか…。」


マリアンヌは嬉しそうに微笑んで、アレックスに抱きついて、恥ずかしそうに返事をした。


「はい。」


マリアンヌを抱きしめて、はたと気付く。


繁みの中で『やった!やった!』とコソコソと喜ぶ声が20名程。


「ダリル、アンソニー、盗み聞きとはいい度胸だな。」


ダリルとアンソニー他、20名の騎士がバツが悪そうに小さくなって出て来た。

大剣を抜かれる前に話を逸らすしかない。


ダリルは開き直って、満面の笑みで言った。


「おめでとうございます!早速式の準備を!神官も丁度良くおりますしな!」


この機を逃してなるものかと、アンソニーを筆頭に全員で乗った。


「そ、そうですな!では早速!ああ、デニー!前陛下を温泉から引っ張りあげねば!」


「承知致しました!」


あれやこれやとバタバタと動きだし、サーッと居なくなってしまった。


「全く…。」


「貴方の事が大好きなのですね。」


「マリーの事も好きだからだよ。」


「私もあの方達が大好き。貴方と知り合えて、大好きな人や物が沢山増えました。」


「もっと増やして、ずっと笑顔で居てもらう。」


「はい。」


仲睦まじく寄り添う2人を、イリイとミリイが見守っていた。







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