五章 十話 つながる道
底を圧縮し続けてさらに四時間が経った。
そして…五時間目の途中で魔力切れを起こした。
自分の中の何かが抜けたように、
そのまま前のめりになった。
地面に手をつき、気持ち悪い感じがした。
「あー……やっぱり慣れないな……」
つい声が出てしまう。
「まあ、そんなものだ。
慣れるまで我慢しろ。
ココも頑張っていると思うぞ?」
ため池の外にいたのに私の声が聞こえたのか。
メリイの言葉を聞き、「そうだな」と返す。
すぐに返事が返せるくらいだ。
ココちゃんほど限界まで魔力を使えていないんだ。
ルカが心配するだろうし、個人的にはこれで良いとは思うけど、
ココちゃんのことを考えたら複雑な気持ちだった。
「おにいちゃん。だいじょうぶ?」
小さい木材をもって、ため池の穴へ。
そして私のすぐ後ろに、木材を地面に置いてくれた。
「ありがとう、ルカ。」
笑顔でお礼を言ってルカが置いてくれた木材の上に座った。
「無理してない?」
座って顔を伏せている私の表情を見るように、
覗き込んできた。
「してないよ。むしろもっと頑張らないと。
ココちゃんに負けていたら恥ずかしいからね。」
私の言葉を聞き、首を傾げたルカ。
「ルカ、心配しすぎるのも、良いものじゃないぞ?
スキルを使う上で、魔力切れを経験するのも大事なことなんだ。
心配する気持ちは分かるけど、もっとミノリを信用しろ。
ため池が出来るころには慣れる。」
ため池の穴に入ってきたメリイが、
ルカに諭すように優しい声量で話した。
「うん……そうだね。
ごめんね、おにいちゃん。」
寂しそうに私にあやまったルカの顔。
その表情を見て、少し心が痛んだ…
「ルカ。落ち込まないで。
ルカの気持ちは嬉しいよ。
でも、メリイの言う通り経験するのは大事なことだと思う。
ならこれで良いんだ。
ルカを心配させるのは嫌だけど、
スキルと魔力に慣れるために私は頑張らないといけない。
だからさ…ルカも、一緒に慣れていこうね。
私にはルカが大切で必要な存在なんだから。」
最初はしぼんだ花の様な表情が、私の最後の一言で
「うん!」
花が咲いたような、かわいらしい笑顔になって、
元気な返事をしてくれた。
しばらく休んでいると、メリイが私の名前を呼んだ。
「ミノリ、トトさん達が見えたぞ。
穴を掘りながら戻ってきている。」
その言葉を聞いて、まだ少し怠い体を起こして穴を登った。
そしてメリイの視線の先を追うとトトさんが、
ものすごい勢いで穴を掘りこちらの方に向かっていた。
でもココちゃんとカカさんは見えない。
それにしても、まっすぐため池に向かっているようには見えない。
私たちのことは、トトさんも見えているはずなのに…
緩やかにため池の方向に向かってきていた。
むしろ意図して少しずれて進んできたように見える。
トトさんの姿がだんだんと大きくなってくると、
後ろの方にはカカさんとココちゃんも見えてきた。
カカさんが先を進んで、掘られた水路を整えるように、
溝スコップで掘っている。
そのすぐ後ろでココちゃんがヒザをおり、
圧縮を続けているようだった。
少し進んだカカさんはすぐにココちゃんの元に戻り、
何やら声をかけている。
その声に笑顔を返しているココちゃん。
それぞれが自分の役割をこなす……子供も労働力か。
頭では分かっているんだけど、このシビアさは私には難しそうだ。
トトさん達を見ていると、自分の考えの甘さがよくわかる。
いや…ルカやソエルもそうだ。
子供とは思えない。
どんな作業でも、笑顔で嬉しそうにこなしている。
そしてそれが当然のように見守るサウロさんとマローネさん。
私も負けないようにしないと……
しゃがみこんで見つめながらそう考えていると、
緩やかに曲がりながら掘っていたトトさんが、ついにため池へと到着した。
圧縮してない地面とはいえ、硬い地面。
それを信じられない速度で掘り進む。
ココちゃんといい、トトさんといい、ドワーフってすごいんだな。
ため池まで掘り進めたトトさんは、
一息ついて、私に一言声をかけてきた。
「お前は魔力切れか?」
少し心配する様子にも見えた。
「ええ、そうですね。お恥ずかしながら。」
少しふがいなさを感じ、言葉のトーンが少し落ちていた。
それを察したのかトトさんが笑顔を見せて話しかけてくる。
「お前は魔力というものになれとらんじゃろう?
仕方がないことじゃよ。
それでもお前はやり遂げようとしとる。
そう落ち込む必要もあるまい。
ただ感心はせん。
折角のスキルがあるのなら、男なら育てておかんか。」
私は厳しい言葉の中にも温かい気持ちを受け取り、
有難い気持ちと自分のふがいなさを感じながらも、
トトさんへ答える。
「ええ。これからは村の為にどんどんスキルを使っていきますよ。」
「男はそうでなければのう。
ワシも陰ながら応援しとるぞ。」
豪快に笑いながら私のお尻を叩きながら励ましてくれる。
その何気ない言葉と激励が嬉しかった。
「それにしても、ココには驚かされたわい。」
と呟いた。
私はそれが気になって、聞いてみた。
「ココちゃんのスキルのことですか?」
私に視線を向けて話すトトさん。
「それもあるんじゃが、昨日は魔力切れを起こしたじゃろう?」
私は無言でうなずく。
私が頷いたのを見たトトさんは、
視線をココちゃんに戻して話を続ける。
「昨日のココを見て、ワシは今日も倒れると思うとった。
じゃが、ワシがちょっと話をしたらあれじゃ。」
昨日のことが信じられないほど元気に固め進めるココちゃん。
私は気になって、ココちゃんに何を言ったのか聞いてみた。
トトさんがこちらに振り向き話してくれる。
「何かを固めるにはのう、限界があるんじゃよ。
十しか固まらんものに百を込めても意味がないと教えたんじゃよ。
そしたらあれじゃ。
今日は魔力切れを起こすことなく、ここまできおった。
鍛冶では出来とったが、普段使ってこなかったスキルまで、
昨日の反省を踏まえ、少し助言を与えたらあれじゃよ。
流石ワシの子じゃ。」
再びココちゃんに視線を戻すと、感心するように話すトトさん。
心から嬉しいという感情が、背中からでも伝わってきた。
ゆっくり進んでくるココちゃんとカカさんを見て、
これからスキルを使っていく私にとって、
とても勉強になる話が聞けたことを、
トトさんに感謝するのだった……




