第8話 牛豚怪獣ピグモー登場
僕はエルフ魔導兵一個大隊を蹴散らした。
その後、獣人形態に戻ってリアナと一緒にしばらく歩き、森のはずれまで退避する。
牛豚怪獣ピグモーにもリアナが声をかけて、僕らと一緒に退避させた。
今、僕の目の前にはピグモーがいる。
獣人形態で下から見上げると、とてつもなく巨大に感じて迫力満点だ。
「ブモモモッッ!」
そのピグモーが鳴き声をあげた。
いったい何だろうか。
「レオっちに『助かりました。ありがとうございます』と言ってるよ」
「え、そうなの?」
念話を使って、リアナがピグモーの言葉を通訳をしてくれる。
しかし、僕には本当にそんなことを言っているようには、全く見えない。
なんと言っても、見た目が牛と豚と猪だし。
ただ、この場所に来るまで僕らの後ろを大人しくついてきたので、リアナの念話が通じていることは間違いない。
不思議な感じはするけれど、どこの世界でも見た目で判断してはいけない。
そもそも僕自身が最も変な生き物だ。
自分の中で状況に納得した僕は、さっそく念話をリアナに頼む。
「なんでエルフに追われていたのか、聞いてみて」
すぐにリアナは念話を始め、ピグモーの方を見ながら「うんうん」と頷いている。
そして、念話した内容を教えてくれる。
「ピグモーはね、ここから荒野を越えて、湿地帯の先にある大きな川で水浴びをしてたんだって。そしたら、そこでエルフに見つかったみたいだよ」
「ふーん、そんな遠くまで行っていたんだ。それは危ないね」
「うん、二日間も追いかけられてたんだって」
「二日間も! エルフ、しつこいな」
僕らが暮らす広大で深い森の先には、ゴツゴツとした岩場や岩山が広がる、荒涼とした土地がある。
その荒野を越えると、大河の氾濫によって生まれた小さな川や沼が点在する、湿地帯が続いている。
さらに湿地帯の東端には、ゆったりと流れる大河があり、その川を越えた先が、神聖エヴァリス王国の中心部──豊かで広々とした平野が広がる大地だ。
大河からそれほど離れていない場所にも、大きな街がいくつかある。
そんな中心部にほど近く、エルフに見つかりやすい大河で水浴びをするのは、なかなかに危険だろう。
「そだよね。川まで行ったら狙われちゃっても仕方ないよね。ピグモーは美味しいし」
「そう、危ないからピグモーに注意を……、って、えっ? ピグモーは美味しいし!?」
僕はピグモーに注意をしようと思ったのだが、それよりも気になる発言が出てきてしまい、スルーすることができなかった。
「そだよ、レオっちも毎日、食べてるよ?」
「えっ、そうなの? まさか毎日のように出てくる、あの肉のこと?」
「そうそう、ピグモーのお肉、美味しいよねー」
「いやいや、あの牛肉っぽいのも豚肉っぽいのも全部ピグモーなの?」
「そうだよ。今日もわたし、ここまでピグモーのお肉を獲りに来たんだよ」
なんということだ。
確かに何の肉なのか疑問に思っていたが、今、目の前にいるピグモーの肉だったとは。本当にすごく美味しいけれども。
そうしているうちにもリアナは慣れた手つきで、ピグモーのお腹あたりから肉を切り取り、術式が施された保冷バッグへ次々と詰めていく。
好き放題されているピグモーはというと、お肉を切られているというのに、ぼんやり突っ立ったままで、まるで気にしていない。
「この辺のお肉は切り取っても大丈夫だし、美味しいんだよ」
「へ、へぇ、そうなんだ……」
どういう体質なのか不思議だが、少しの出血もなくグロくない。
無反応な様子を見るかぎり、全く痛みもないのだろう。
「ピグモーが美味しく食べてね、だって」
「うん、ありがとう。ピグモーによろしく伝えてね」
それからしばらくの間、僕とリアナはピグモーと会話をしたあと、最後に「あまり森から離れないように」と注意をして、この場を離れた。
ピグモーは良い奴だった。
それに、僕に少し懐いてくれた気がする。
「またね、ピグモー」
「ブモゥッ!」
ピグモーは尻尾をぴょこぴょこと振り、その鳴き声はどことなく楽しそうに聞こえた。
そうして、ピグモーと別れ、リアナと二人でのんびりと森の中を歩く。
すると――。
「ね、レオっち、今から一緒にパンの材料を採りに行こう!」
リアナからの提案だ。
普通なら小麦畑に行くところだと思うが、たぶん違うのだろう。
「いいけど、どこに?」
「【モフモフ】のところだよ。レオっちに会って欲しいし」
「モフモフ!?」
パンの材料に会うという時点で全くおかしいわけだが、モフモフとはなんだろうか。
◇◇◇
⭐︎怪獣豆知識コーナー⭐︎
【牛豚怪獣ピグモー】
体長二十〜三十メートル。容姿は猪の顔、豚の体型、茶色をベースに牛のような黒い模様。性格は温厚。広大な森を含め、周辺地域に四、五体程度の個体が存在している。
この怪獣の最大の特徴は肉が美味しい。部位によって牛肉風味、豚肉風味の二つの風味を楽しむことができる。ハムにしても美味しい。千キログラム程度であれば削りとっても翌日には回復しているため食糧庫として最適。栄養も満点でレオンの食卓における常連。




