第39話 モフモフの芽
僕はエルフの監視をエリシアさんたち抵抗勢力に任せ、怪獣のもとへ急いだ。
怪獣のことなので、あまり心配はしていないが、やはり様子は気になる。
大岩に戻ると、エレナとリアナが怪獣たちを集めて待っていてくれた。
その中央には、ピグモーが陣取っている。
「ブモモゥッ!」
「ブモモッ、ブモモッ!」
ピグモーたちは元気に鳴き声を上げている。
相当なダメージを受けているはずだが、それよりも勝利したことが嬉しいようだ。
四体とも魔導ゴーレムに殴られた跡があり、身体にアザが目立つものの、重症ではなさそうだ。
そのすぐ隣には、モグログがいる。
「ヌゴオオオォォォォ……」
モグログは体表が真っ黒に焦げていたが、それでも軽傷で済んでいた。
本人いわく「特に問題はない」らしい。さすがは頑丈なモグログだ。
ただ、かなり疲労こんぱいとのことだ。
確かに今のモグログを見れば、その様子が一目でわかる。
地面にどっしりとしゃがみ込み、上半身が斜めに傾き項垂れている。
そして、それ以上に問題なのが、ホロウホーだ。
まずもって、ホロウホーは氷漬けになっている。
ただ、すでにファイヤー形態ではなく透明化しているため、氷の中でどうなっているのか、よくわからない。
確認のため、エレナに念話で呼びかけてもらう。
「氷の中にいるんだよね? 大丈夫?」
「はい、ちゃんといますよ。ホロウホーは大丈夫なのでこのままでいいと言っています。そっとしておきましょう」
「そっか。気になるけど、そう言うなら仕方ないか」
心配ではあるが、ホロウホーの言葉を信じ、希望どおりそっとしておくことにした。
ホロウホーの方は、羽根のあちこちから白煙を上げている。
焦げた部分だけ透明化されず、まだら模様のように見えている。
せめてモフモフにくるまって、なるべく早く回復してほしいと思う。
だが、ホロウホーはモフモフに触れるとファイヤー形態になってしまい、モフモフがその熱に耐えられない。
そのため、ホロウホーだけはモフモフの回復効果を受けることができない。
困ったものだ。
二体のホロウホーには、上空から戦場全域をカバーしてもらったというのに、何もしてあげられない。
すまない、ホロウホー。なにか方策を考えておこう。
最後に――最大の問題はモフモフだ。
後方で回復役に徹していたモフ美(特大)は、特に目立ったダメージもなく、いつも通りのんびりしている。
その様子を見る限り、心配はいらないように思う。
だが、前線で大岩の周囲を守り、敵を引きつけていたモフ菜(大)は違う。
全身が真っ黒に焦げで、ピクリとも動かない。
どの程度のダメージなのだろうか。
先ほどからリアナが念話で呼びかけているが――
「モフ菜はどう?」
「うーん、返事がないなー」
「えっ……! へ、返事がない!? まさか、大丈夫じゃないってこと!?」
怪獣のことだから、なんだかんだで大丈夫だろうと思っていた。
しかし、もしかしたら僕の認識が甘かったのか。
「どうかなー、この感じは……明日かなー?」
リアナの言葉どおり、今はもう夕暮れ。
今夜がヤマで、明日まで様子を見るしかないのだろう。
僕はがっくりと肩を落とし、近くに座ってモフ菜(大)の様子を見守る。
すると、しばらくして陽が完全に沈む頃、モフ菜(大)は何の前触れもなく、サラサラとした灰になり消え去った。
なんということだ。
「モ、モフ菜が……」
あまりの衝撃的な光景に、言葉が続かない。
ただ呆然とする僕へ、エレナとリアナが声をかけてきた。
「レオン様、今日はお疲れでしょうし、もう休みましょう」
「そだよ、レオっち。今日は早く寝た方がいいよ」
僕は怪獣王として、モフ菜(大)を守れなかったことを激しく後悔しながら、モフ美にくるまった。
頭の中でいろいろな思いがぐるぐると渦を巻いていたが、ふっかふかなモフ美の癒し効果は高く、いつのまにか眠りについていた。
――どれくらい眠ったのだろう。
目を覚ました僕は、慌てて身体を起こす。
どうやら想像以上に疲れていたようだ。
すでに陽は高く、すっかり翌日になっていた。
僕はモフ美から飛び出し、あたりを見渡す。
そして、目に飛び込んできた光景に、思わず息をのんだ。
昨晩、モフ菜(大)がサラサラの灰になった場所から、植物を思わせる謎の芽が顔を出していた。
真っ白な新芽が六本、陽に向かってまっすぐに伸びている。
「えっ、なに、この芽は?」
「あ、レオっち、起きた? これはね、【モフ芽】だよ」
「モフ芽!?」
「そう、モフ芽だよ。どうなるかなーと思ってたけど、すぐに芽が出てきたね」
モフモフは、そんな生態だったのか。
まさか灰から芽が出てくるとは、思わなかった。
もっとも昨晩の僕は動揺していたので思いつかなかったが、よくよく思えば怪獣のことなので、あり得なくもない。
「で、このモフ芽は、これからどうなるの?」
「モフ芽はね、花が咲いたあと、モフモフになるよ」
「――!? 花が咲いたあと、モフモフに!?」
「そだよ、何日後かなー? 楽しみだね。あとね、モフ菜たち、モフ芽になるのも久しぶりだなぁって言ってたよ」
なんと、モフ芽の状態でも念話ができるのか。
「へぇ、そうなんだ。っていうか、この状態でも念話ができるんだね」
「うん、今は寝てるけど、みんな陽を浴びて元気だよ」
「そっか、それなら良かった」
リアナの話を聞いて、やはり怪獣は適当な生態だなとも思ったが、僕はそれで良いやと納得する。
なにより、モフ菜(大)が死んでしまったわけではなかったとわかり、ほっと胸をなでおろした。
さらに、もう一つの懸念も解決していた。
氷の中からモフ芽を見たホロウホーがファイヤー形態になり、覆っていた氷を溶かして復活した。
かなりテンションが高く、このあと花が咲いたらどうなってしまうのか、むしろ心配になるほどだ。
そうして、モフ菜(大)とホロウホーの無事を確認し、ようやく落ち着いた。
だが、ふと気がつくと、エルフ魔導兵たちがまだ撤退していない。
撤退する時間はあったと思うが、どういうことだ?




