第37話 怪獣王の力
「レオン様なら大丈夫、安心して行ってきてください」
「レオっち、王様っぽく頑張ってねー」
「うん、さくっと終わらせてくるね」
謎の自信に満ちた僕は、大岩から飛び降り、そこから何歩か前に足を踏み出したあと、怪獣形態に変身する。
ボワンッ。
全身が煙に包まれる。
その立ちこめる煙の中から姿を現したのは、体長およそ四十五メートルの異類異形の巨大な怪獣。
やはり怪獣形態になると、全身にみなぎる力が違う。
人間形態や獣人形態とは、まるで別物だ。
この姿であれば、負ける気がしない。
そんなことを思いながら、僕は悠然と周囲を見回した。
高い目線から、視界に広がる戦場。
そこにはエルフと人間、それに怪獣たちが入り乱れ、大地に砂塵が舞っている。
僕はエルフ魔導兵の大軍がいる方へ向けて、大きく足を一歩踏み出す。
ズズーーーーーンッッ!!!
いつものように地面に亀裂が走り、大地が揺れて、破壊音が周囲に響き渡った。
そして、さらにもう一歩。
ズズーーーーーンッッ!!!
再び周囲に衝撃が広がる。
轟音と振動、突如として現れた異様な気配に気づいたのだろう。
エルフと人間たち、戦場にいるその全ての者が、次々とこちらへ視線を向けた。
僕の五感にざわめきが伝わってくる。
「な、なんだ!? あの怪獣は!?」
「突然どこから現れた!?」
「あれが村を襲ったヤツか!?」
エルフたちは驚きの声をあげ、身体を硬直させていた。
「あの怪獣がレグオン殿か!」
「ついに現れた!」
人間たちは喜びの声をあげ、腕を大きく振り上げた。
「ブモモモオゥゥ!」
「ヌゴオオオォォォォ……」
「ホゥゥゥゥゥッ」
「♪」
怪獣たちは嬉しそうに雄叫びをあげ、そのテンションが上がっている。
各々の種族が、それぞれの反応を示した。
それならば、僕も怪獣の王として挨拶をしておこうと思い、巻き舌気味に雄叫びをあげてみる。
「グルオオオオンンンッッッ!!!」
僕の雄叫びは、空気を震わせて戦場の隅々にまで響き渡った。
かなりのインパクトだったのだろう、その衝撃に恐れ慄いたエルフと人間たちは静まり返った。
対照的に怪獣たちは、より一層テンションが上がり、雄叫びを返してきた。
「ブモモモオゥゥ!!!」
「ヌゴオオオォォォォッッ!」
「フォォォォォッ!」
「!」
砂塵の舞う殺伐とした荒野に、怪獣たちの雄叫びだけが響き渡る。
上空には空を覆う巨大な魔法陣が青白い光を放ち、その下で巨大怪獣たちが雄叫びをあげるという、人智を超える異様な光景だ。
それをエルフや人間たちは呆然と見つめているだけだった。
この状況下では、仕方のないことだろう。
もし奴隷で子どもの僕がここにいたなら、お漏らししていても不思議ではない。
しかし、そんな状況でも魔導ゴーレムだけは変化がなかった。
近くにいた魔導ゴーレムが、僕を見つけて無表情のまま走り寄ってくる。
この空気の読まなさは、AI自動運転みたいなものなのだろうか。
少し気になる。
いや、今は魔導ゴーレムの仕様などどうでもいい。
それよりも、僕はとにかく集中したい。
怪獣形態は十分がせいぜいだ、時間的な余裕はない。
空気を読まない魔導ゴーレムだろうが、少しの間だけ大人しくしていて欲しい。
そんなことを考えているうちにも、勢いよく走ってきた魔導ゴーレムがすぐ目の前だ。
僕は魔導ゴーレムの動きにタイミングを合わせて反転し、二本の尻尾を思いきりぶん回した。
うなりを上げて尻尾の先にあるコブが、魔導ゴーレムに直撃する。
ゴッシャアァンッ!
鉱物同士がぶつかるような爆裂音が響き、魔導ゴーレムはなす術なく弾き飛ばされ、転がっていった。
ゴリゴリと地面を削りながら転がっていった魔導ゴーレムは、最終的に土煙の中でその動きを止めた。
続いて二体目、三体目。
ゴッシャアァンッ!
ゴッシャアァンッ!
魔導ゴーレムが弾き飛んでいく。
さらに四体目、五体目、六体目。
僕は近寄ってきた魔導ゴーレムを順番に撃退し、ひとまず障害を排除した。
しかし、それも束の間のことだろう。
エルフの切り札であろう魔法陣のせいで、そのうち復活してしまうに違いない。
僕は上空に青白く輝き続ける魔法陣を見上げる。
今の僕、巨大な怪獣の目から見ても、この魔法陣はなお巨大に映る。
規格外にデカすぎる。
だけど、それも関係はない。
僕は全身に力を溜める。
敵である標的は、エルフ魔導兵と魔導ゴーレムだ。
戦場には人間も怪獣も入り乱れているが、それも関係はない。
今やるべきことは一つ。
僕だけが持つ怪獣王の力をぶつけるだけだ。
コァァァッ!
大きく息を吸い込むと、僕の体表に僅かに混ざる、普段はあまり目立たない小さな虹色の結晶片が、力を示すようにキラキラと発光し始める。
そして、一拍おいたあと、僕は体内にみなぎる力を、口から一気に解き放った。
ゴァッ!
僕の口から放たれたもの。
それは、白金をベースに虹色のきらめきが混ざったブレスだ。
上空に向かって一直線に放たれたブレスは、巨大な魔法陣を切り裂いた。
その威力は絶大だった。
ブレスを浴びた魔法陣の一部が一瞬で消え、そこからモザイクが剥がれるように、少しずつ崩壊が広がっていく。
ひびのような歪みがじりじりと伸び、魔法陣の幾何学模様をゆっくりと侵していった。
それを見上げるエルフも人間も、なにが起きたのか理解ができないようだ。
目を見開き、言葉もなく立ち尽くしている。
そして、ブレスが途絶えたあとも、魔法陣の崩壊は止まらない。
じわじわと歪みが広がっていき、青白い輝きが吸い込まれるように消失していく。
それは、風に揺れる力のない灯火が静かに消えゆくようだった。
――空を覆う天蓋のように巨大だった魔法陣。
神聖エヴァリス王国の象徴のような魔法陣が、やがては僅かな青白い輝きを残すだけとなり、最後には跡形もなく消え去った。
その様子を目の当たりにして、呆然と立ち尽くしているエルフ魔導兵たち。
少しののち、彼ら自身にも変化が現れる。
「な、なんだこれは。体内の魔力が……」
「身体の力が抜ける……」
エルフ魔導兵たちはざわめきながら、よろよろと力なく膝をつき、そのままガクリとしゃがみ込んだ。
さらには、魔導ゴーレムにも異変が起き始める。
僕に向かって突進していた一体が、バランスを崩して前のめりに倒れ込み、そのまま起き上がることができない。
同じように他の魔導ゴーレムたちも、次々とその動きを停止させていく。
やがては、視界に映る全ての魔導ゴーレムの動きが止まり、石像のように沈黙した。
ふぅ、なんとか上手くできたようだ。
僕はゆっくりと視線を巡らせ、広大な戦場を確認する。
戦場は静まり返り、もう僕に向かってくるものはどこにもいない。
僕が放ったブレスは、全ての敵の無力化に成功した。
完全に勝利したと言って良いだろう。
――僕はこの場にいるエルフに告げたい。
魔力が全てだと思い込み、驕れるエルフよ。
この光景を目に焼き付けておくがいい。
これは周囲の魔素を粒子レベルで完全に消滅させる、僕だけが持つ特殊能力、
【万界魔素消滅息吹】
これが、怪獣王の力だ――
思った以上にスカッとした僕は、最後に王様っぽく雄叫びをあげてみる。
「グルルオオォォォォンンッッ!!!」
全てがひれ伏し沈黙した荒野に、僕の咆哮がこだました。




