第32話 怪獣総進撃(第二弾)
怪獣総進撃は、まだ終わらない。
大きな岩が落下した衝撃を合図に動き出す怪獣は、地底に潜んでいたモグログだ。
混乱するエルフ魔導師団後方の大地が大きく揺れ、ゴゴゴゴッという轟音とともに地面が裂ける。
モグログは僕との特訓の合間にコツコツと掘っていた地下トンネルに移動して、そこで大人しく待っていた。
ピグモーたちと違って根気強い。
後方に控えていたエルフ魔導師団のすぐ近くに、地面を割ってモグログは現れた。
「ヌゴオオォォォォ……」
そして、地上に出現したモグログはキョロキョロと周囲を確認したあと、こちらを見ている。
もしかして、この状況でも律儀に命令を待っているのだろうか。
「ねぇ、リアナ。あの感じ、モグログは命令を待ってるよね。暴れていいよと念話しといて」
「了解、レオっち。モグログはこんなうるさいの嫌いだし、すごく頑張りそう」
リアナから念話を受けたモグログは、ストレスを発散するかのように、長い腕を振り回して暴れ始めた。
当然、周囲のエルフ魔導兵は、大混乱だ。
しかし、エルフ魔導兵は徐々に隊列を立て直したあと、モグログを目がけて、オレンジ色の魔導矢を一斉に放つ。
あのオレンジ色の魔導矢は、僕も食らった爆炎魔法に違いない。
全ての爆炎魔法がモグログに命中し、大爆発が起こって、モグログは激しい爆炎に包まれた。
パッと見だが、以前よりもかなり魔導矢の威力がアップしているように思える。
モグログは大丈夫だろうか。
しばらくすると、爆煙が風に流され、再びモグログの姿が現れた。
身体中が真っ黒焦げになっているが、それでも動じている様子は全くない。
エルフ魔導兵の得意のセリフ「新型の魔導矢に爆炎魔法なんだぞ、そんなバカな!」が聞こえてくるようだ。
ただ僕としては、特訓で僕の火球を何度も喰らっているうちに、鈍感になってしまったのではないかと、ある意味で申し訳ない気持ちにもなってしまう。
そうして、大怪獣たちの快進撃が続く。
そんな中、最初から頑張り過ぎて、少し疲れたピグモーが、モフモフ七体合体のモフ美(特大)と六体合体のモフ菜(大)のところへ帰ってきた。
ピグモーたちが順番に巨大なモフモフに挟まれて、体力を回復する。
ここまでは想定以上、絶好の流れだ。
僕の想像以上に、怪獣たちが強い。
いつもは、のほほんとして穏やかだが、本当はこんなに強かったのかとびっくりする。
そして、怪獣たちが作り出したこの好機を、周囲に潜んでいる抵抗勢力の人間たちが見逃すはずはない。
僕が大岩の上から戦況を見守っていると、エルフ魔導師団の右後方から赤い煙玉が上がった。
あれはエリシアさんたちの探知魔法により、強大な魔力を持つ師団長ゼラルドの位置を把握した合図だ。
いよいよエリシアさん率いる抵抗勢力が動き出した。
事前に打ち合わせた計画通り、怪獣たちが起こした混乱に乗じて、一気に総大将である師団長ゼラルドの首を狙う。
数での不利を補うため、いわゆる首刈り戦術に勝機を見いだす。
僕はエリシアさんと合流すべく、エルフ魔導師団の右後方に単騎で向かうことにする。
「怪獣たちのことは、いったん二人に任せるから、ちょっと行ってくるね」
「はい、レオン様。こちらはお任せください、お気をつけて」
「レオっち、頑張ってー。わたしたちも頑張るよー」
ということで、はるか前方にいるエリシアさんを目指して、荒野を駆けてエルフ魔導兵の中へ突入する。
エルフ魔導兵は接近する獣人形態の僕に向けて、いつものように魔導矢を放ってきた。
怪獣形態のときは動きがもっさりしているので避けきれず、全弾直撃していた。
だが、獣人形態なら余裕でかわすことができる。
ヒョイヒョイと身を翻していると、今度は死角から範囲魔法が飛んできた。
「喰らえ、電雷魔法!」
気づくのが遅れ、直撃を受けてしまう。
視界が白く弾けたと思うと、鋭い衝撃が全身を駆け抜け、体中の筋肉が一瞬だけ硬直した。
「お、おおう……」
僕は驚いて、思わずその場で足を止めてしまった。
それを見て、エルフ魔導兵が声をあげ、追撃してくる。
「よし、足を止めたぞ! 今だ、一斉に魔導矢を放て! 氷壁魔法だ!」
僕は何発もの氷壁魔法の直撃を受け、冷たく透明な氷で一気に全身が覆われた。
分厚い氷の層が重く圧し掛かり、全身をぎゅっと締めつけてくる。
完全にカチンコチンだ。
一瞬で氷漬けになった僕の姿を見て、エルフ魔導兵が声をあげる。
「通常の三倍の魔力を込めた魔導矢だ。やったか!?」
厚い氷越しに、うっすらと声が届く。
全身がカチコチに凍りついているのだから、エルフ魔導兵が歓声を上げるのも無理はない。
けれど、この分厚い氷でも、僕ならば動ける気がした。
そう思って全身に力を込める。すると、分厚い氷はミシミシと音を立てて、内部から亀裂が走った。
そして、渾身の力を込めた瞬間、ガラガラと大きな音を響かせて、分厚い氷は砕け散る。
「な、なんだと。完全に氷漬けだったのに」
「こ、こいつ人間じゃない?」
「まさかこんな場所にSランク魔族か?」
周囲のエルフ魔導兵たちが驚いている。
当然だけれど、僕が何者かをわかっていないらしい。
魔族だと思われるのは心外だし、怪獣の力を見せるのも目的の一つなので、ここは名乗っておく方が良いだろう。自己紹介だ。
「お前たち、我は魔族などではないぞ。我は怪獣レグオン、怪獣王国の王である。覚えておくが良い」
僕は怪獣の王様ということをアピールしておいた。
「レ、レグオン……?」
「こいつ怪獣なのか!?」
「怪獣キングダムって一体なんだ?」
今ひとつピンときていないようだが、怪獣ということは伝わったので良いだろう。
こんなところで時間を費やしている場合ではない。
幸いなことに僕の言動により、エルフ魔導兵はたじろぎ、攻撃がまばらになっている。
これはチャンスだ。
僕はその隙にエリシアさんたちの元を目指す。
ゼラルドの元へ向かうエリシアさんたちには、サポートとして二体のホロウホーをつけている。
あらためて周囲を確認すると、僕の前方でエルフ魔導師団が上空に向かって、大量の魔導矢を放っていた。
きっと、二体のホロウホーによる羽ばたき攻撃に、応戦しているのだろう。
そこへ向かって駆け寄っていくと、ほどなくエリシアさんたち抵抗勢力を視界に捉えることができた。
そうして、僕がエリシアさんに合流しようとした、その同じタイミングで、一際レベルの高そうなエルフ魔導兵の一団と遭遇する。
今まで見た他の多くのエルフ魔導兵とは、装備も雰囲気もまるで違う。
これは、たぶん重要な部隊なのだろう。
そして、その部隊の中心に、大柄のエルフの男が立っていた。
そのエルフは、彫刻のように整った顔立ちに、短く切り揃えられた白銀の髪。
深緑色の澄んだ瞳は、僕らをはるかに超える深い知性を感じさせる。
装飾のない重厚な鎧を身につけ、無駄のない立ち姿だけで、周囲の空気を支配する圧倒的な存在感を放っていた。
ひと目で、もの凄く強そうだし、あれが間違いなく師団長ゼラルドだろう。
あんな強そうなエルフが師団長ではなく、名もなき雑魚キャラだったら困ってしまう。
そのゼラルドと思われるエルフの視線が僕の方を向いた。




