第19話 抵抗勢力のリーダー(対決)
動揺している僕を察したのか、僕に代わってエレナが答える。
「エリシアさん、レグオン様と戦ったら、死ぬことになるかもしれませんよ」
エレナがクールに微笑みながら、物騒なことを言い始めた。
僕はなるべく戦いたくないし、殺す気などないけれども。
見ると、エリシアさんは一本の剣を携えている。
あれで斬りかかられるとか嫌だなぁ。
そんなことを思ったところで、リアナが続いて質問をする。
「その剣で戦うの? レ──、レグオン様は強いけど本当に戦いたいの?」
偉いぞ、リアナ。
今、「レオっち」と言いそうなったけど、よく耐えた。
それになかなかよい質問だ。
エレナとリアナの質問に、エリシアさんが神妙な顔で答える。
「私は抵抗勢力のリーダーとして、強くなければなりません。今後、エルフと戦いになり、私の弱さによって皆を巻き込んで死ぬのなら、私一人がここで死んだ方がずっとましです。私が死んでも代わりはいますし。ただ、私も『紅き風哭のエリシア』と呼ばれる魔法剣士、簡単に死ぬつもりはありませんよ」
死んだ方がまし、とか言ってる……。
なるほど、これは思ったより深刻だ。
天然や脳筋ではなく、必死だということか。
エリシアさんにどんな経緯があるのかはわからないが、完全に覚悟が決まっているようだ。
それなら、その心意気に応えたい。
ただし、それはそれとして、念話で一つ確認しておく。
『ねぇ、エレナ。エリシアさん、紅き風哭とか二つ名持ちだよ。強そうだよね。僕としては、間違って殺しちゃわないように獣人形態で戦ってみようと思ったんだけど、それだと逆に、僕の方がぶっ殺されたりしないかな? 大丈夫?』
『レオン様なら大丈夫だと思いますよ。首を切り落とされても死にませんし』
えっ、首を切り落とされても死なない……。
僕って、そうだったんだ、初耳だけども。
ただ、死なないのは良いが、首を切り落とされるとか怖すぎる。
そうして少し迷っている間にもエリシアさん、エレナ、リアナの三人が期待の眼差しで僕を見ている。
僕としてもエリシアさんの心意気に応えたいと思ったわけだし、ここは気合いを入れてやってみよう。
「──そうか、貴殿にそのような覚悟があるのならば、是非もなし」
心の中はともかく、僕は王様っぽく言ってみた。
◇◇◇
僕らは四人で、村から離れた場所へと移動した。
周囲は岩と砂だらけで、なにもない荒野だ。
ここならばどれだけ暴れても問題はないだろう。
僕は獣人形態で、エリシアさんと対峙する。
「レグオン殿は巨大怪獣の姿ではなく、その姿のまま戦うのですか?」
「ん? この姿では不服か?」
やっぱりこの姿のままでは、舐めてると思われたのかな。
エリシアさんの心意気に応えるには、怪獣形態になった方がいいのだろうか。
そんなことを思っていると。
「いえ、そのようなことはありません。こうしてレグオン殿と対峙しているだけで、もの凄いオーラを感じます」
えっ、そうなの?
僕から何か漏れ出てるのかな。
武人にだけに伝わる何かがあるのだろうか。
僕自身は全くわからないけれども。
「……では参ります」
「うむ」
そう言うと、エリシアさんは腰に差した剣をするりと抜く。
すると──風が鳴いた。
その風に乗るように、エリシアさんは紅い髪をふわりと靡かせ、静かに呟く。
「身体限界突破、風陣の加護展開──」
風を纏ったエリシアさんが剣を下段に構える。
剣術のことはさっぱりわからないが、並の剣士ではなさそうだ。
エリシアさんが大地を蹴る。
「風閃!」
そう言うと同時に、僕の目の前から風のようにエリシアさんの姿が消えた。
「……っ!」
僕の頬に、浅い切り傷が浮かび上がった。
いつの間にか剣が振るわれたようだ。
いやいや、エリシアさん、早すぎるでしょ。
驚く僕を尻目に、エリシアさんの攻撃が続く。
「翔風の加護展開──」
その言葉に呼応して、空気が震える。
紅い髪を大きく靡かせ、エリシアさんがふわりと空へ舞い上がった。
えっ、宙を舞ってる!?
そう思うと同時に。
「翔空斬!」
エリシアさんによる、空から鋭く降りる一太刀。
僕の肩口から胸元に、深い切り傷が刻まれる。
一瞬の間をおき、その深い傷口から血が吹き出す。
プッシュウウッッ!
怪獣になってから初めての深手、勢いよく吹き出した僕の血は赤かった。
もしかしたら、怪獣だし緑かなとも思ったが、僕の血液には赤血球があるようだ。
人間らしくて良かった。
いや、良くない。
僕の大事な赤い血がダラダラと大量に流れ出ている。
その姿を見てエレナから念話が入る。
『レオン様、大丈夫ですか? すみません、まさか本当に切られるとは思いませんでした。エリシアさんがここまで強いとは見誤りました。でも落ち着いて見れば、レオン様なら捉えられると思います。頑張って集中してください』
エレナに言われた通り、集中してみる。
そもそも僕には、エリシアさんのような技術はない。
超人的な身体能力、それだけが僕の武器。
ここは、ただ見ることだけに集中する。
エリシアさんを見つめる。
こんな場面でも美人さんの目を見つめるのは照れるので、剣先に意識を向けた。
「風閃!」
エリシアさんが最初に使った技が再び迫る。
紅い髪が揺れ、剣先がまっすぐ僕に向かってくる。
今度はその動きがはっきりと見えた。
僕は前腕を突き出す。
腕にある繊維質の皮膚が硬質な盾となり、エリシアさんの剣を受け止めた。
カンッ! と音が響き、火花が散った。
剣先は僕の腕で弾かれた。
攻撃が跳ね返されたことで、エリシアさんの動きが一瞬止まる。
僕はその刹那、迷わず懐に入り込み、剣をはたき落とした。
そして、エリシアさん以上のスピードを見せ、そのまま横を抜けて背後を取る。
これで勝負あり、だ。
僕の動きにエリシアさんは驚愕して、息を呑む。
「……み、見事です。完全に私の負けですね」
「うむ、エリシア殿も良い動きだったぞ」
そう、本当に良い動きだった。
だいたい今も僕だけ傷口から血が滴ってるし。
見た目だけなら僕の方が完敗だ。
そして、エリシアさんが心配そうに僕の傷口を見つつも、口を開いた。
「あの……本当に勝手ではありますが、これから我々の慕う皇女殿下に会っていただけませんか?」




