第83話 急転直下
第3章 渦巻く陰謀、邪悪の残滓。
第1幕 狂瀾怒濤
第83話 急転直下
設定の変更により、『ネブラ山脈』は『セドナ山脈』へと名前が変更されました。以前の投稿についても順次『セドナ』へと変更予定です。
祝!15,000PV!ご高覧いただきありがとうございます!
「暇ですねぇ……」
「そうねぇ……」
「暇だねぇ~……」
雲一つなく澄み渡る晴天。日本とは違う、心地よい暑さ。魔物の一匹も出ない安穏とした道程。平和であることは喜ばしいが、いかんせん暇だ。
始めのうちは会話も盛り上がったが、一通り話題が出尽くされてしまえば勢いが衰えるのは必然。皆、流れる森の景色をぼーっと眺めるのみとなっていた。
「護衛依頼は魔物が出ても嫌だけれど、出なくても退屈だから嫌よね。」
「まったくです。」
この会話も、文言こそ違うがすでに三度目である。みんな話のネタがないのだ。
壊れた蛇口のようにとめどなく話題を出し尽くした昨日の自分を恨みながら、どこかにまだ開封していない話題が無かったかと記憶の箱をひっくり返していると、エヴァルが思い出したように口を開いた。
「あ、そうそう。今日はあんまり暑くないけどさ、最近妙に暑いよねぇ~」
「そう言えば、昨夜の宿場町でそれについての噂を聞いたわ。」
「噂ですか?」
アクティウラはニヤリと笑う。
「何でも、セドナ山脈に居る龍が弱っているとか。」
「弱ると暑くなるの?」
「さぁ?詳しいことは分からないけれど、そうなんじゃないかしら。」
「弱ると暑くなる龍……水龍とか、氷龍とかですかね?」
そこで会話は一度途切れる。しかし、そう時間を置かないうちに再びアクティウラが口を開いた。
「あぁ思い出した。かなり前のことだけれど、国境付近の小さな村に伝わる古歌を聞いたことがあるの。『寒気凛冽たるセドナの山雪、融けては大地を巡りけり。野を、国を、民を潤しやがては海へと帰するなり。なればその慈恵、生まれをいずことするものか。山に住まわる龍こそが、山雪抱きし肥沃の母なるぞ。』―――言われてみれば、夏にどれだけ暑くなってもセドナの山々は雪に覆われたまま。もしかしたら、本当に龍が住んでいるのかもしれないわね。」
中々興味深い歌だ。前世で行けば、これはアニミズムの一種と言われるだろう。
山から流れる雪解け水は豊富なミネラルを含んでいる。これが流域の大地に養分をもたらし、豊富な実りへとつながる。そして年中雪が積もっているのは、標高が高く気温が低いのだから当然。
これらは現代科学なら説明のつくことだが、それが発達する以前では自然に宿る神や何らかの神聖な力が起こすものだと信じられていた。これがアニミズムであり、日本の民族信仰である神道も、その要素が色濃く表れている。
ただし、前世では創作物にしか存在しなかった大いなる力を持つ者がこの世界にはごまんといる。
その内最も強大かつ広く知られているのが―――ドラゴン。龍である。
これから向かう国境がある地域。その周囲一帯は『回廊平野』と呼ばれ、北側からは『大地の天井』とも呼ばれる『セイ=アラミーア大山脈』に、南側からは東方諸国とトレイトス王国を隔てる『セドナ山脈』に挟まれた、東西に細長い平野だ。
しかし、大山脈と山脈は元々繋がっていたという伝説がある。龍同士の争いの余波によって地形が削り取られ、今の平野となったという話だ。
つまりさっきの古歌をただの迷信だと斬り捨てることはできないだけの理由があるわけだ。それこそ龍であれば、その通りの事が出来てもおかしくはないのだから。
「何か面白いことないかなぁ……」
***
その異変は、突如として起こった。
昼休憩も済ませ、すでに午後の移動を始めてしばらく経った頃。やはり話題もなくぽつぽつと思いついたことを口にしていたその時、赤黒い光が空に広がる。
その中心はセドナ山脈であり、回廊平野からほど近く見える位置の峰から発せられていた。
「うわっ、何あれ……」
エヴァルは首をかしげて言う。しかし、私とアクティウラにそんな余裕は微塵も無かった。
「何よ、あれ……ッ!!?」
魔力に敏感な者なら理解できるであろう、邪悪な力の波動。全身の毛が逆立ち、身がすくむ。
「あれは、あの力は……!?そんな、まさか……!」
忘れもしない。
絶望に打ちひしがれたあの日、最愛のお母さんを殺した元凶。7度にわたって人類と争った魔族陣営の黒幕。
300年前に打倒されて魂を分割・封印されたという、あの―――
魔神の、瘴気だ。
だが、これはあの時のものとは比べ物にならない濃さだ。影響を及ぼす範囲も桁違いに広い。
私があの魂片を封印したとき、瘴気は勢いよく噴き出しこそしたが、周囲への影響という意味ではあまり強いものではなかった。
それが今はどうだろう。
空はあの瘴気の発生点に近づくほど濃い色に変色し、その末端は視認可能な範囲全域に達している。それは、浅く見積もっても半径200km以上に及ぶほどの規模だ。
「あそこに封印されてたってこと……?」
脳裏を駆ける疑念はもっとも。あれだけの瘴気の発生源たり得るのは、それこそ魔神の魂くらいのものだろう。
ということは、封印が解かれたのだろうか?もしそうなら、これは―――
「Aランクオーバーの案件ッ……!!」
最低でもSランク冒険者の手が求められるような、桁違いな異常事態だった。
あとがき
さぁ、第3章が動き始めましたよ!
空を染める天変地異とあふれ出す瘴気、その元凶とは一体!?
ちなみに現在の状況を分かりやすく例えるなら、新劇エ〇ァ2作目の終盤に起きたニアサーになります。
細かい事を言うと、あちらの真紅と黒の帯がいくつも重なり合って広がっている状態よりも、より赤紫に近い光一色が中心から離れるほどに薄くなっていくようなイメージです。
この異常事態に主人公はどうするのか。そしてそれを察した作中人物たちがどう動くのか。この先はしばらく目が離せませんね!それではまた次回、ごきげんよう!




