第58話 街にかかる影
第2章 曙光と絆の先へ
第1幕 開雲見日
第58話 街にかかる影
明けましておめでとうございます!
実はPV数が4000を超えました!ありがとうございます!
今年も面白い物語をお届けできるよう張り切って執筆してまいりますので、どうかよろしくお願いします!
追記:本編、ちょっとだけ長めです…!
「……朝か。」
階下から響く朝食時の喧騒が、私の意識を引き上げた。
ベッドから降りて水を飲み、生成した温かい水で顔と髪、それから尾を洗う。仕上げに風魔法で一気に乾かした。
それと用を足したら着替えだ。虚界門から外服を取り出す。
これは私が作ったもので、巫女装束に、白地に赤い袖括をあしらった狩衣を重ねたもの。
寝間着はクロックが作った茜色の浴衣で、こちらは実用性一点張りである。
この世界の服は貴重品だ。
既製の新品はほぼ売られておらず、手に入れるには仕立て屋でオーダーメイドするか、自分で仕立てるか、もしくは古着屋頼みとなる。
オーダーメイドができるのは貴族かレルデップさんのような豪商くらいで、一般人にとって服の仕立ては生活技能の一つだった。
さて、着替えとなると問題は防犯だ。
しかし文明レベルが近世と似通ったこの世界に、宿の一室を施錠する鍵は備え付けられていない。
そこで植物魔法でドアを成長させ、床板と繋いで簡易ストッパーを作る。
「これでよし…”清めよ”」
指を鳴らし、全身に洗浄魔術をかける。
これは無属性の基礎魔術だが、私の改造により皮脂や泥、ほこりなどの汚れだけでなく、細菌やウイルスなども洗浄魔法の対象としている。
風呂に入れないのは残念だが、この世界での入浴は贅沢の一種なのだ。清潔さを保てるだけマシだと自分を納得させた。
着替えたら朝のルーティンは終わり。
今日からは冒険者としての生活が始まる―――と言いたいところだが、ギルドが開くのは9時から。今はまだ8時過ぎと言ったところだった。
「……朝ごはんにするか。」
そう呟いてドアを引く。
……動かない。
「あ、そうじゃん。」
自分でロックしていたことを思い出し。床と繋がっているドアをまた植物魔法で操作して元の状態に戻す。
ドアを閉め、階下の喧騒へと向かった。
この宿の1階は食堂だ。
大盛りで、旨い、早い、安い。出勤前の大人たちが利用する人気店である。
しかしこの混みようでは席がなさそうだ。もう少し待ってから降りてこようと、再び階段に足をかけた、その時。
「ミオちゃんおはよう!朝ごはん食べる?」
先に起きていたらしいキリベルカさんが、手を振っていた。
「そう思っていたんですけど、席が―――」
「大丈夫大丈夫!ほらザイン、さっさと食ってその席開けな!」
「イエス、マムっ!」
彼女と相席していた冒険者が勢いよくかき込み始めた。どうやら支部長の強権で急かしているらしい。
しかし当の冒険者側は一切文句を言わない上、見れば喜々として食べるスピードを速めている。
ここで断るのも気が引けた私は、注文を済ませることにした。
「女将さん、一つ下さい!」
「あいよっ!」
この食堂のメニューは1つ、”女将の気まぐれ”だけだ。
他人にメニューを任せるのは前世も含めて昨夜食べた夕食が初めてだったのだが、そこで出されたオーク肉のステーキと豆スープが絶品だった。
アツアツのオーク肉は塩のみのシンプルな味付けなのに、あふれる肉汁のうま味が確かな満足感を与え、大きな黒パンと豆のトマトスープが腹を満たす。
昨日は昼食を食べる機会を逸したので、空腹のスパイスがあったことを考えても素晴らしい料理だった。あれは完全に職人技だまねできる気がしない。
「ごっそーさま!旨かった!」
「あいよー!」
そうこうしているうちにザインと呼ばれた男は料理を食べ終えたようで、女将への感謝の言葉と共に立ち上がる。
「すみません、急かせてしまったみたいで…」
「いえ、元々もうすぐ食べ終わるとこだったんで。それに大きな声じゃ言えませんが、支部長の命令には逆らえませんし。」
「聞こえてるよー」
キリベルカさんがピクリとその大きな耳を動かす。
「やべっ!じゃ、俺はこれで!」
そう言うと、彼はお代を机に置いて出て行く。そこで入れ替わるように入ってきた影があった。
「……支部長、探しましたよ。」
「げっ」
それは引きつった笑顔に青筋を立てた、ギネートさんだった。
「いつもの宿に見に行ったら居ないので本当に焦りました。あなたの後始末で私自身手が離せなかったので。さぁ、昨日のうちに終わらせる予定だった山がまだ残っているんですから、さっさと食べて出勤してください。」
「わ、分かった!分かったから!今の君がそこで見てたら、おいしい料理も喉通らないから…!」
「10分後までに来てくださいね。さもなければ…どうなるかはお判りでしょう?」
「分かったって!」
「…それでは、失礼。」
察してはいたけど、さっぱりキリベルカさんはおサボり常習犯なのか…
「ギネートの奴、ホントに容赦がないから怖いんだよね…ごめんねミオちゃん。お話したかったんだけど、今日はダメみたい。」
「いえ、昨日の話は本当に貴重で、楽しかったです。また機会があればお願いします。」
「ふふーん、君ってばホントに話し相手が上手だねぇ。だからあたしの武勇伝、ぜーんぶ君に語ってあげちゃう!」
「今から楽しみです。ははは…」
乾いた笑みが口から洩れた、その瞬間だった。
―――ゴオォォォ
低空を飛ぶジェット機のような轟音が、街を震わせる。
「……来た。」
「これは……?」
食堂は瞬く間に静まり返り、私はあまりの異様さに席を離れて外に出る。
すると店の外でも皆立ち止まり、往来の喧騒が止んでいた。街は一瞬で静寂に包まれ、辺りには例の音だけが響き渡る。
周囲の人に倣い、私も空を見上げた。
……それは、炎だった。
長い尾を引く、飛行する炎の塊。
それが、街の直上に来た瞬間―――
ピィーーーッ―――ドオオオォォォンッ!!!!
鷹のような鳴き声と共に巨大な爆炎を撒き散らして加速した炎は、凄まじい速度で地平線の彼方に消えていった。
それが放った爆炎に込められた魔力は莫大で、ヴァルのブレスと比べても遜色が無いほどだ。
「あれは”火炎鳥”だよ。」
いつの間にか私の隣に来ていたキリベルカさんが語る。
「元は北の山脈の方を通ってたらしいんだけど、そこで何かあったみたいで……最近になって街の上を飛ぶようになっちゃったんだよね。街を襲うつもりはないみたいだけど……」
ガルーダ。その名前は私も知っている。
脅威度はB~Aランク。常に体に炎を宿し、あらゆる活動においてその炎を使用することからついた二つ名は”火の化身”。
非常に獰猛で執念深く、一度目を付けた獲物は地の果てまで追いかけて逃がさない。単体で国を滅ぼした記録すらあった。
「……とんでもなく危険じゃないですか。」
「アレが来るようになるまではちゃんと平和だったんだよ?」
見ると彼女の顔は諦めたように暗く、重苦しい息を吐いていた。
「はぁ…支部長としてはこんなこと言いたくないけど、正直どうしようもないんだよねぇ……」
空の支配者の一角であるガルーダに、地上の人間は無力だ。
元Aランク冒険者でも、格闘家では……届かない。
「……」
ようやく夢の冒険者になったというのに、いつこの街が地図から消えるのかも分からないなんて。
幸先が良いとは、とても言えなかった。
あとがき
すみません、前回の次回予告間違えてしまいました…!
今回語られたのは、この世界で生きる主人公と、そこに立ちはだかる過酷な現実。
主人公は冒険者として、Bランク以上Aランク未満の実力はあるのですが、いかんせん経験に乏しいため不安はぬぐえません。
次回、今度こそ依頼に……あれ、この次回予告でいいのかなぁ…?




