第59話 魔物のランク
第2章 曙光と絆の先へ
第1幕 開雲見日
第59話 魔物のランク
火炎鳥は、アムヌーの街に重苦しい余韻だけを残し、空の彼方へと消えていった。
―――もし、今の私が一人であれと相対することになったら。
勝てるだろうか?
胸の奥に、じわりと冷たいものが広がる。
……正直、分からない。
”特級魔法魔術師”としての自負はある。
Aランクの魔物を討伐しうる火力も、その攻撃を受け止める防御力だってある。
しかし狙撃蠍とは勝手が違う。
そもそも魔物ランクとは脅威度と討伐難易度という二つの基準から決められている。
スコーパーは発見は極めて困難で、不意打ちの水鉄砲は致命的。戦闘以前に命を奪われる危険性が高く、しかも群れる。そのため実際の討伐難易度はAランクにも匹敵するほどだ。
しかし縄張りから移動するようなことは無く、魔物としては比較的温厚。人類にとっての表面的な脅威度は高くないため、ランクはB。
対するガルーダはそのような初見殺しは持っていないが、非常に高い戦闘能力に加え、行動範囲もとてつもなく広い上に、その性格は獰猛。つまりは討伐難易度と脅威度、どちらもトップクラスということになる。
よって、ランクはB~Aとなっているわけだ。
私がスコーパーに勝てたのは、『無防備な詠唱状態をヴァルが完璧に守ってくれて』、『スコーパーが同じ攻撃を続けるだけしか能がなく』、『”呑舟ノ嵐”を発動させるだけ一掃できた』。
これら全てがうまくかみ合っただけなのだ。
これが対ガルーダとなると、話はがらりと変わる。
まず相手は空の魔物のため前提からして私は不利な側となるわけだが、それはヴァルの飛行能力で埋めたとしよう。
しかしあちらの速力や攻撃力はヴァルに引けを取らず、しかも人間と同等レベルで頭が良い。
私が圧倒したスコーパーと同じランクであったとしても、両者には無条件で勝てるとは言えない差があるのだ。
「不安にさせちゃってごめんね?でも大丈夫!」
キリベルカさんは、肩の力を抜くように笑った。
「いざって時のためにAランクパーティにも支援要請は出してあるから。もしその時が来ても何とかなるよ。それに、そもそもアイツがこの町を襲うっていう確証だってないしさ。だから今日から冒険者、頑張ってね?」
「……はい。」
分かっていたことだ。私には、経験が足りていない。
有事はいつだって突然で、ガルーダに限らず、この世界ではいつ何が私に牙を剥くのか分からない。
―――強く、ならなければ。
まずはあのガルーダを前にしても怯えずに済むだけの自信を。
そうと決まれば善は急げ、早速冒険者ギルドに―――
「ミオちゃん。朝ごはんまだ残ってるし……お代、忘れてない?」
「あっ…」
***
朝一番のギルドは人で溢れ返っていた。
軽装の者から全身鎧のま重装甲まで装備は様々だが、全員が武器を携えている。
昨日の夕方にはまばらになっていた依頼掲示板も、今は枠から溢れるほど依頼票が貼られていた。
私は小柄な体を生かして人の間をすり抜けていき、私は掲示板の前へ出る。
『Fランク:公衆トイレの汚物処理・清掃』
『Eランク:東の草原・森での素材採集』
『Dランク:小鬼の討伐』
昨日、冒険者カードを受け取る際に栗毛の受付嬢―――エマさんから規則の説明を受けた。
受注できる依頼は、自身と同ランクか2つ下まで。
実力に見合わない無謀な受注を防ぐためというのが一つと、下位冒険者が上位冒険者に仕事を奪われないようにするためというのが一つの措置だ。
Dランクの私が受けられるのはD~Fランクの依頼になる。
Fランクは街中で完結する雑務。
Eランクから街の外に出ることになり、弱いながらもスライムやショートラビットなどが討伐対象になる。
そしてDランクの依頼になって初めて、本格的な魔物の討伐依頼が並ぶようだ。
私は迷わずゴブリン討伐の依頼票を剥がした。
(今の私に必要なのは実戦だ。ゴブリンとは戦ったこともないしちょうどいい。)
一番左の受付、エマさんの受付へ向かう。
「依頼を受注します。」
「はい。ゴブリンの討伐、Dランクですね。達成討伐数は5体、上限はありません。達成期限は3日後の受付終了まで。討伐証明部位は右耳、目撃地点は東の森です。冒険者カードをお願いします。」
「はい。」
「確認しました。ご武運を。次の方ー!」
手続きはエマさんの卓越した手さばきによってほんの数十秒で終わったが、背後を振り返るとどの受付にも冒険者の長蛇の列ができている。
もみあいにもなる依頼の争奪戦と、その後の受注ラッシュをさばく受付嬢。
朝のギルドは、中々の修羅場だった。
***
~Side グィネート・スレンシム~
朝の受注ラッシュもようやく鳴りを潜め、受付嬢たちも順番に昼休憩をとる頃。
支部長の執務室でもまた、一人が昼食を食べ終えていた。
「ふー、ごちそうさま。」
「食べ終えたのなら休んでいる暇はありませんよ、支部長。あの忌々しいガルーダを始め、近頃は魔物の異常行動が目立ちますし、決済書類は貴女にしか―――」
「分かってるってば。せめてお昼ぐらいゆっくり食べさせて欲しいんだけどなぁ……」
はぁ……。
私が支部長であったなら、どれだけ話の早いことか。
荒くれ者をまとめ上げるために功績ある元冒険者をトップに据えるという中央の判断も、理解はできる。だがそれで業務に支障が出ては本末転倒もいい所だ。
せめて副支部長の権限を支部長と同等まで引き上げてくれさえすれば……
「……これは」
叶わぬ願いに溜息を飲み込みつつも、また一つ書類を片付ける。
そうして新たな紙束を手に取って、その題に目を通したときだった。
『直近一週間、東の森におけるゴブリンの目撃件数が先週比2倍以上に増加。』
束ねられた資料には、例年との比較データが細かくまとめられている。
ゴブリン―――繁殖力が高く、ある程度の知能を持つ人型の魔物。
小柄であり単体では脅威に乏しいためEランクに分類されるが、数がそろえば話は別だ。
群れが拡大し続ければ上位種が現れ、やがてキング、クイーン、ジェネラルなどの最上位種の出現に至る。
そこまで状態が進行したらもう手遅れだ。爆発的な繁殖が始まり、数の暴力が生態系を破壊する。
それは―――魔物津波の引き金になりかねない。
「……調査隊を出しましょう。」
エルフとしては若輩者だが、それなりに長く生きてきた。しかしここまで活発な魔物の動きは記憶にない。
何か―――とても大きな裏がありそうな気がしてならない。
あとがき
最近次回予告がうまく機能していませんねぇ……どうしましょう?
ともあれ、今回はゴブリンの討伐に出る主人公とその先に待ち受ける不穏な影という感じで。
ようやく本格的に物語が動き始めましたね!いやはや私も楽しみです!
今後の次回予告は次話の内容が確定している場合にのみお送りいたします……!
~蛇足~
今回は魔物のランクについて語りましたね!
魔物のランクは、その魔物単体の脅威度を示しています。
しかし特定の条件下では単体のみの脅威度で正しい評価をすることはできませんよね?
(グィネートさんが考えていたゴブリンの大繁殖とか)
F:無害。一般人でも討伐可能。(スライム、ショートラビット)
E:有害。冒険者(戦闘慣れした者)であれば討伐可能。(ゴブリン、ホーンラビット)
D:危険。成熟した冒険者であれば討伐可能。(スカーレットディア、タフベア)
C:災害。熟練した冒険者であっても危険。(コカトリス、ハーピー、セイレーン)
B:都市滅亡の危機。国全体で対応するレベルの脅威。(スコーパー、グリフォン、ガルーラ)
A:国家滅亡の危機。一国の戦力で対応できれば運がいい方。(ドラゴン、ドラグイーター)
S:人類滅亡の危機。対応不可。(龍王、精霊王、???)
これが各ランクの脅威度と目ぼしい魔物の一覧です。
ゴブリンの大繁殖はその規模によってC~A程度の範囲で脅威度が変動します。
つまり何が言いたいのかというと…
脅威度(S~Fのランクのこと)は「魔物につけられたもの」を指す場合と、「人類に対する脅威の度合い」を指す場合があるということです。
色々言いましたが、結論細かい事を気にする必要はありません。
一般人目線で見れば―――
S~B(上位)は「大災害」
C、D(中位)は「超危険」
E、F(下位)は「一応気を付けておこう」
―――って感じです。
あと冒険者のランクは、一つ下のランクの魔物を討伐できることを示していて、
冒険者パーティのランクは、同ランクの魔物を討伐できることを示しています。




