世界は愛で溢れている
「あのー、すみません『愛はお金で買える』というCMを見て来たのですが」
「いらっしゃいませ、どのような愛をご希望ですか?」
「いえ、購入に来たわけではないのです」
「とおっしゃいますと?」
「私の愛を買い取ってほしいのです」
「なるほど、そうでしたか」
「幾らくらいになるでしょうか?」
「失礼ですが、お値段のつく愛にはそれ相応の品質が求められます」
「……」
「恐れ入りますがお客様の愛ですと、ゼロ査定となります」
「そんな……」
「当店でお引き取りすることも可能ですが、その際には廃棄処理の費用を頂く規定となっております」
「逆にこちらが払うことになるのですか!?」
「昨今、デフレの影響で愛の値打ちも暴落しておりますから、利益に繋がらない愛は廃棄物処理業者に引き渡すしかないのです。その点ご理解ください」
「あんまりです」
「申し訳ございません、当店も慈善事業で経営しているわけではございませんので」
「もう帰ります!」
「お客様、失礼ですが最後に一つだけ」
「なんですか!」
「愛の不法投棄は犯罪となっております。ご不要になった愛は然るべき業者にお引き渡しください」
「うるさい!」
だけど私は、何故店員がわざわざ最後にそんな注意をしたのか、すぐに気付かされた。店の前、綺麗に清掃されたように見える大通りにも、ポイ捨てされたと思われる愛の痕跡がチラホラと残っていたのだ。街路樹の幹にこびりついた愛、石畳の目地に沁み込んだ愛、街灯の下に吹き溜まった愛、店舗の外壁の赤レンガに愛、行き交う人々の靴に愛、愛、愛、愛……
それらをぼんやりと眺めながら私は、無価値だと断じられたこの愛をどうするべきか、決めかねていた。




