東京都立八王子安楽死センター
「8時になりました。毎朝ワイド、続いては今話題のアイテムやスポットを紹介する『トレンド↗↙アレコレ』のコーナーです。中継が繋がっていますので、さっそく呼んでみましょう」
「はーい、おはようございます。現在私は高尾山の麓のとある建物の前に来ています」
「すごい行列ができていますね!そちらは一体どういった施設なのでしょうか?」
「こちら、本日9時からオープンします東京都立八王子安楽死センターです」
「なるほど、今話題の日本初の安楽死施設ですね」
「はい。すでに100名を超える安楽死希望者の方々が並んでいます」
「オープンまでまだ1時間近くあるのにもうそんなに!……あれ?安楽死の受付は、窓口での対応のみなのでしょうか?」
「いえ、ウェブでの申請もできるのですが、アクセスの集中により現在繋がりにくい状況にあるようで」
「それでこんなに人が集まっていたのですね。ちなみにそちらは都立の施設ですが、他府県の方は利用できないのでしょうか?」
「現状では国内の安楽死施設はこの1箇所のみですので、他府県の整備が追い付くまではこちらで受け入れを行っているとのことです」
「全国の方が利用可能なのですね。申請をする際には、何か条件などはあるのでしょうか?」
「日本国籍を有する18歳以上の成人であれば、どなたでもお申し込み可能です。未成年の場合は保護者の同意が必要となります」
「安楽死を申請してからの流れはどういったものなのでしょう?」
「まずAIによる面談が実施されます」
「AI面談ですか。申し込んだ方全員が安楽死を受けられるわけではないのですね」
「はい。安楽死はあくまで医療行為ですので、本当に必要とされる方のみが受けられる制度となっています」
「本当に安楽死が必要な方とはどういった人なのでしょうか?」
「法律上は"安楽死の対象は耐えがたい苦しみに襲われている患者・助かる見込みのない末期患者とするべき"とされています」
「なるほど、だからしっかりとした審査を経て、安楽死が決定されるという訳ですね」
「その通りです。AI面談を通過された方は、次に医師による面談を受け、そこで正式に安楽死の可否が判断されます」
「でも審査に落ちた方も、安楽死を望むほどの状況に置かれているのには変わりないのでは?」
「その際には、面談の結果に応じたサポートが受けられます」
「サポート?」
「例えば、安楽死を志望する動機が貧困による生活苦であれば、問題解決に向け、社会福祉士や弁護士などとのマッチングを行います」
「セーフティネットと紐づけるのですね」
「他にも、病苦が原因であれば治療の可能性が高い専門医への紹介状を発行するなど、様々なケースに対応するとのことです」
「あくまで安楽死は最終手段として、別の解決策を探すのが基本方針となっているわけですか」
「その通りです」
「逆に審査が通った場合は、すぐに対応してもらえるのでしょうか?」
「個々の状況に合わせる形になるようです。依頼者にも銀行口座や保険など各種契約の解約や名義変更、財産の生前贈与など、各種手続きが必要となりますので」
「いわゆる終活のための時間がとられるのですね」
「この終活の際にも、希望者には弁護士、税理士、司法書士などの仲介が受けられます」
「まさに至れり尽くせりですね!でもここまで手厚いと、利用料も高額になるのでは?」
「安楽死そのものは無料でご利用いただけます。弁護士等のサポートについても、紹介料や仲介手数料などは発生しません。ただし、あくまでセンター側で行うのは仲介までですので、実際に弁護士等に依頼をする際には別途それぞれの料金をご確認ください」
「ここまでのサービスが基本的に無料というのは、嬉しいというよりもむしろ怖いくらいですね」
「公的な機関として、運営費は東京都からの交付金と寄付によって賄われているとのことです。ただ、任意ではあるのですが、利用者には寄付と臓器提供を募っているそうです」
「なるほど、良く分かりました。リポートありがとうございます。本日の『トレンド↗↙アレコレ』は東京都立八王子安楽死センターの最新情報をお届けしました!続いてのコーナーは……」
————八王子安楽死センターの開設から9年後、同センターを含む都内3箇所の安楽死施設を運営する地方独立行政法人東京都立安楽死センター運営機構(以下 運営機構)の前理事長ら5名が逮捕された。
前理事長らは、面談に用いるAIの設定を改竄し、かつ医師面談を通さず、本来ならば対象とはならない人物に対し安楽死を執行した自殺幇助の疑い、またそれらの人物から同意を得ることなく臓器を摘出し、ブローカーに提供した死体損壊及び臓器移植法違反の疑い、またこれらの不適切な運営実態を隠蔽し東京都から交付金を騙し取った詐欺の疑い等々、複数の容疑がかけられている。
現在、東京地検特捜部はこれらの容疑について刑事事件として立件すべく、慎重に捜査を進めている段階である。
またこれを受けて東京都は運営機構側に対し、行政処分として業務改善を求める措置命令を発令した。
なお、営業停止処分は課されなかったことから、運営機構側は業務改善計画策定に向けた内部調査を行いつつ、平常通り安楽死センターを運営していくことを決定。
社会の腐敗を前に国民が生きる気力を失っていく中、本日も安楽死センターには申し込みが殺到している。




