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第16話 遠くて近い

 ロリアが遠目でアレクと女神の会話する様子を見ているとオウリュウマル()がやってきた。


「気にしなくてもいいですよ。女神さまは性別は♀ですけど女では無いですから」

「?」


 ロリアが良く分からないという顔をするとオウリュウマル()は詳しく説明した。


「例えば私の性別は♂ですけどロリア様にとって私は異性では無いですよね。女神さまもアバターの見た目を人間そっくりに作っていますけど本質は別物です」

「そのアバターって何?」

「魔力で作られた遠隔操作の肉体ですね」


 形のある実態を持たない神は地上の者に干渉するために魔力で肉体を作った。それがアバターである。アバターは見た目は人間だが肉体の構成は魔物や亜人と同じ魔力で出来ているので成長しない。さらに重要なのはアバターは遠隔操作だという事だ。本体は遠い場所にいてアバターが受けた刺激を受け取っている。つまり本人はこの場にいないのと同じなのだ。


 ちなみに異世界トリップも実はアバターの場合が多い。本当の肉体はその世界の神の元で管理されていて意識だけが異世界で作られたアバターに取憑き動いている。アレクと共に行動していた勇者もアバターで5年間一緒に冒険していた間体は成長せず、最後にはアレクの方が年上になったという経緯がある。


「と、いう訳で女神さまはロリアさまの敵ではありません。それにあの方は私の親である応竜神と付き合っていますので」

「ええ、鎧と!」


 山のように大きいドラゴンの鎧と付き合う女神。あまりにもシュールである。


「それで応竜神は応竜『神』と名乗っているんですよ。アレクさまは本質は同じものだからお似合いだと言っていました」

「喪女の神様というのは?」


 さっきサクヤがそう言っていたのを思い出して聞いてみた。


「2人が付き合いうようになったのは私が生まれた後の事なので5年前の事しか知らないサクヤさんは知らなかったのでしょう。私も聞いただけなのですが当時女神さまは転生者を自分好みの男に育てて恋人にしようと計画していました。それをアレクさまに知られて処女神(笑)から喪女神と呼ばれるようになったんです。でも今はリア充なので他の神からやっかみを受けています」


 ちなみに応龍神はオウリュウマル()の産みの親だが親子関係は無いのでオウリュウマル()は気にしてはいない


「あと転生者って何?」

「幼少期に異世界の他人の記憶を植え付けられて自分がその人の生まれ変わりだと思い込んでいる人の事です」


 オウリュウマル()は転生者についてとんでもない事を言い出した。


「あ、でもこの事は秘密です。たいていの転生者はその事を知ると発狂するので秘密にしているんです。発狂せずに喜んだのはアレクさまくらいでしょう」

「アレクさまも転生者なの?」

「はい、昔応竜神と一緒に世界の果てまで言ってこの世界の真実と神の正体を知り自らの正体も知ったそうです。全てを知って飲み込んでそれでも神の側に着くと決めた唯一の転生者。それがアレクさまです。だから覚悟しておいてください。あの人の隣に立つ事の重みを」


 それからオウリュウマル()はロリアに一礼するとアレクの元へ向かって言った。


 オウリュウマル()の話を聞いてロリアはアレクの事を考えた。他人の記憶を植え付けられるというのはどういう気持ちなのだろう。そして自分の過去だと思っていた物が他人の物で赤の他人の人生を続けていたと知った時の気落ちは。さらにそれを飲み込んだアレクの強さを。


 ロリアはアレクの事が遠い存在に思えてきた。そしてその遠い存在はロリアの元にやってきた。


「抱っこするよ」


 そして一言そう言うとロリアを抱き上げた。


「オウリュウマルが色々と話したみたいだけど気にしなくていい。私は私だ。植え付けられた記憶の影響を受けて考え方や価値観が定まった事は否定しないが今の自分はこの世界で培われたものだ。私はここにいる」


 抱き上げられて顔が近くなった所でアレクはロリアにささやいた。そしてアレクはロリアを抱きかかえたまま女神の元へ向かった。


「ちょうど女神さまが目の前にいるからここで結婚式では出来なかった愛の誓いをしようと思う。いいかい?ロリア」

「どうしてですか?私は親に決められた結婚相手で何か特別な因縁も力もない普通の女の子です。どうしてここまで出来るんですか?」

 

 それは今までロリアがため込んできた想いだった。アレクに優しくされればされるほど自分にその価値が有るのかどうか考えてきた。アレクに対して素直になれない最後の一線だった。


「そうだね、ロリアは普通の女の子だ。でも私に気持ちをぶつけて来た女の子はロリアとあともう一人だけだ」

「気持ちをぶつける?」

「恐れて逃げる訳でも無く、自分のわがままを押し付けるでもない。私の気持ちに向かい合ってくれたと言う事だ」

「私はそんな事した覚えは無いです」


 今までの事を振り返っても特別な事をした覚えは無かった。


「私がそう思った。私にとってはそれで十分だ」


 事あるごとに拗ねて殴ってくる事が嬉しかったというのは口にしない。そうゆう趣味が有る訳では無いので。


「アレクさま、私これからもうちょっと素直になってみようかと思います」


 神の前で愛を誓うにあたってそう思うロリアだった。

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