第1話 女なんて嫌だ~と叫んだら
28歳独身女子と最強将軍が入れ替わってしまった、ドタバタ異世界コメディです。楽しんでいただけたら嬉しいです。
都心から電車で約三十五分の中核都市。
駅周辺の商業地区を除けば、茶畑と畑しかない。
先祖代々続く広大な農地をバブル期に切り売りし、一財産築いた我が家は今ではちょっと広めの農地を持つ兼業農家だ。
そのためか、考え方が時代錯誤も甚だしい。
明治大正昭和平成と過ぎ、今は令和だ。
知っているだけでも天皇陛下は三人代わった。
と言っても、昭和天皇は教科書とテレビでしか知らない。
我が家で一番の権力者は祖母だ。
戦中生まれ。
そのためか、『女性は結婚してこそ』、『女の幸せは結婚』と思っている。
母は一人娘で父は婿養子。
二人とも祖母に頭が上がらない。
祖母や母は、あたしが二十歳を過ぎたころからそれとなく見合い写真を持ってきて、二十五歳からは見合いに本腰を入れた。
二十八歳になったいまでは、結婚をしないのは、体になにかあるのではないかといい、病院に連れていこうとする。
社内の健康診断の結果はA判定。
虫歯もない。
すこぶる健康だっていうの。
あたしの下には妹が一人。
妹は考えが祖母にそっくりだ。
あたしの顔を見るたびに
「お姉ちゃんが結婚しないから、あたしが彼と結婚できない。早く結婚して!」
と攻め立てる。
毎日、毎日、結婚、結婚と言われ続けてノイローゼ気味だ。
好きで独身をやっているんだからほっといて欲しい。
あたしが男だったらこうまで追い詰められなかっただろう。
女であるばっかりに……
だから、つい、
「女なんて嫌だ――っ!!」
と叫んでしまった。
横断歩道のど真ん中で。
間の悪いことに、立ち止まっているあたしにトラックが突っ込んできた。
ドンッ、という鈍い衝撃と浮遊感。
海老沢純子、享年二十八歳。あっけない幕切れだった。
微かな頭痛に寝ていられなくて、仕方なく目を覚ました。
頭を振る。
トラックに跳ね飛ばされるという夢見が悪かったのか、何だか身体が重い。
ベッドがギシリッと軋む。
えっ?あたし、そんな重かったけ?
目を擦ろうとした指を見る。
ゴツい。
丸々と太った芋虫のような指······浮腫みーっ!?
どうしたらこんなに浮腫むのよ!
あたし、病気?
はっ、顔は?
顔を触る。
ジョリ···
なによ、この感触。
まさか···ひっ、髭生えてんの!?
か、鏡、鏡はどこよ。
慌ててベッドから起き上がる。
やけに視線が高い。
それに、なんだか股間がモゾモゾする気がするんだけど···
壁の鏡を覗き込むと、そこに映っていたのはイケメンゴリラ…じゃない。
無精髭の生えた三十代位の男···いや、ザ・漢。
太い眉に厚めの唇。まるでファンタジー小説に出てくる最強将軍のようだ。
よろよろと後退り、ベッドに力なく座り込んだ。
身体もガッチリとした筋肉で覆われていて、発達した大胸筋、シックスパックどころかエイトパックの腹筋。
「よっ、筋肉の茶畑、ナイスエイトパック!」
とボディービル大会で掛け声が掛かりそうだ。
部屋はどことなくおっさん臭い。
加齢臭?加齢臭なのか、これ?
で、発生源はあたし···
「ぎゃーっ!!」
思わず、叫んでしまった。
「どうされました、グリッソム将軍」
ドアを開けて入ってきたのは金髪碧眼の美形騎士。
えっ、いま将軍って言った?
あたしが将軍?
行き遅れ崖っぷち、待ったなしのあたしが?
キャパオーバーの負荷に耐えきれず、あたしの脳は強制シャットダウンした··…
第2話を21時10分に投稿しますので、そのまま続けてお読みいただければと思います。




