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新・甘い匂いに誘われてしまうんですよ  作者: akiyama


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縁側で宴会

「お父さんごめんなさい。父の日に準備しておいた日本酒を、他の人に飲ませることになってしまいました。お母さんも、協力してくれていたのにごめんなさい」


「え?伊緒、父の日の用意してくれていたんだ。それは嬉しいけど、でもそれを誰かにあげるってこと?まさか、彼氏とかかい……お酒を飲めるってことは未成年ではないのだね。父親としては、娘の恋愛事情を知りたいような知りたくないような……」


お父さんが、娘に彼氏ができたという間違った方向に走り始めた。困ったな、どうしよう。だって、日本酒の譲渡相手は“紺”だし。紺は大体人間じゃないのだし、恋愛感情はもちろんない。


「伊緒まさか貴方は、お酒を飲まないでしょうね。どこで飲むの?はっ、わかったわ。母さんの家ね、だったらいっそのこと庭でやったらどう?縁側を開け放せば、開放感もあってきっと素敵よ。一幸さんに贈る予定だった日本酒を宴会に使うのは、誰かと約束を」


母の伊都は、異世界の血をひく能力持ちである。能力の値は、おばあちゃんによると五十とのこと。だから名前も、字は違うが音は同じ伊都と名付けられた。そして母の能力は、身体強化や未来視である。この能力は、コーセイさんとは真逆に位置していないだろうか。考えてみると面白い。過去を視ることができるコーセイさん。未来を視る母の伊都。


「伊緒!聞いているの?」


おっといけない、考え事をしていたら母が怒りのオーラを身にまといはじめた。人が話している時に、考え事に没頭するのは厳禁。そのとおり、こうしてまずい事態を引き起こす。


「ごめんなさい、お母さん。説明が難しいなって考えていたから……」


うん、本当に難しいよ。特にコーセイさんの左手に存在している紺の存在とかね。どうやって説明したら……ああ、もういっそのこと。


「お父さん、お母さん、一緒に食事会に混ざる?そうすれば、お互いに理解しあえると思うよ?」


「え、食事会なの?宴会じゃなくて……」


「うん、お酒を飲む人はいるけど、それは大人だけ。食事がメインだから」


「伊都と僕も参加していいのかい?だったら、この釣りたての魚も提供しよう」


大きめのクーラーボックスを、横目に釣果の自慢をしたいらしいお父さん。


「うん、喜ぶよ。きっと。場所は、おばあちゃんちだから、準備もしやすいよ。とりあえずおばあちゃんに知らせてくるね」


そのまま階段を駆け上り、部屋へと。クローゼットに隠してあった日本酒を取り出した。立派な木の箱に収まったそれは、静かに存在を主張する逸品なのだろう。そこはかとなく滲み出る高級感。冷やで飲むことを推奨されているらしい。どうしよう、このまま冷蔵庫に?箱が邪魔で冷えそうにないが。

おばあちゃんに相談しよう。


「あなた、バーベキューコンロを準備するわね。炭はあったかしら?」


「一回分くらいならある。魚はさばいて、塩を振っておくよ。伊緒、それが例の?」


階段を下りると、キッチンを中心に両親がなにやら準備中。お父さんの目が、木の箱にロックオン。若干の申し訳なさを持ちつつ、笑顔で頷く。


「おばあちゃんちの冷蔵庫で冷やしておくね。あっちを手伝ってくる」


早いところ、おばあちゃんに両親が参加することを伝えておかなくちゃ。

食材と飲み物は、スズキさんが調達してくれるし、父親の釣ってきた大量の魚もあるので安心。でも準備するほうは、それだけではないのだ。


リビングにある大きなガラス窓は、外のウッドデッキに直接出られる仕様。専用のサンダルが家族分置いてあり、ここでバーベキューパーティーもする。

実はおばあちゃんの家の裏庭とつながっており、玄関に回るよりも近道だ。

今夜の食事会という名目の宴会は、おばあちゃんの家が主軸となる。

縁側付きの和室は、こういう時に便利だと思う。庭もあるので、広々と使える。そして縁側には、座布団が出されておりどうやら、天日干しの模様だ。

いつもは使わない予備だからね。少しだけ湿気ているのかも。


「おばあちゃん、埜蘇、お酒持ってきたんだけど、冷蔵庫に入る?」


「伊緒、今コーセイさんに時間の連絡していたんだが……もう二人ほど増えることになったよ。スズキに食材の増量を頼まないと」


「ええっ、もう二人って誰?おばあちゃん、実はお父さんとお母さんも参加していいかな?というか、お酒のことで何か不安がらせてしまったようで。私は飲まないっていったんだけどね」


「えっ叔父さんと叔母さんも?ばあちゃん、料理と酒をもっと用意したほうがいいんじゃない?」


頭を三角巾で包み、おばあちゃんのらしい割烹着を装備した埜蘇がお玉を手にしながら、台所から出てくる。そう、真家の場合はキッチンで、山藤は昭和の香り漂う台所という言葉が似合うのだ。出汁が匂うので、汁物か煮物を作っていたであろう埜蘇とおばあちゃん。


「埜蘇、伊緒大丈夫。スズキに飲み物も食材もたっぷりめに頼んでおいた。部屋は奇麗にしてあるし、準備は万端。多少人数が増えても問題はない」


「座布団も余分に用意してあるから大丈夫だよ、ばあちゃん。伊緒、冷蔵庫にしまってくるから、それかしてくれ」


右手にお玉、左腕で酒瓶を抱えた埜蘇が、台所に戻っていく。


「おばあちゃん、お母さん達何か凄く張り切っちゃって、お父さんが釣ってきた魚を焼く準備しているんだけど……バーベキューコンロは、こっちに持ってきたほうがいいかな?」


「そうだね、火をつけてからだと危ないし、今のうちに持ってきたほうがいいね。伊緒、二人を連れてきてくれるかい?」


あっ結局突然増えた二人の客がわからずじまいだった。ま、おばあちゃんも焦ってはいたけど楽しそうではあった。ということは、嫌な客ではないということなのだから、いいや。再び真家のウッドデッキに逆戻りすると、すでにバーベキューコンロを設置しており、炭の準備をはじめていた。

炭火は焼くのに程よい温度になるのに、時間がかかるのだ。炭に火をつけるには、いくつかの手順がある。まずは炭の置き方が重要で、空気が通るようにしないと上手く燃えないのだ。一番早くて手軽な方法は、着火剤とチャッカマンを使えばいい。が、しかし両親ともに、サバイバー気質というのか本格的にやりたがる。火口には、古い綿シャツのハギレや古雑誌を利用することが多い。今日使っているのは、新聞紙だった。デジタル化が進んでいる現代だが、我が家では紙媒体でニュースを読む。


「インクの匂いがいいんだ」


と父親が言うので、嗅いでいるうちに家族皆が気にいった結果だ。毎朝くるので、とてもたまる新聞紙の有効活用である。

ちょうど、新聞紙に火をつけようとしていたので、とりあえずとめた。


「お父さん、ちょっと待って。おばあちゃんが、二人ともバーベキューコンロ持ってこっちにきてって」


「あら、そうねそっちにバーベキューコンロ持っていったほうが、焼いてすぐに食べることができて便利よね。じゃ、伊緒とあなたで持っていってくれる。私はさばいた魚が入ったクーラーボックスを担当するわ」


「ああ、大丈夫だ。コンロは僕だけで持てるよ。少しかさばるけど重くないし、伊緒は伊都のほうを手伝ってくれるとありがたい」


と、愛妻家の父親に言われたので点数稼ぎではないが、母親を手伝うべくクーラーボックスへと手を伸ばす。

重いけど、力仕事は自信があるので、持ち上げる。大きさの割に重くはなかったので、いざとなれば身体強化使っちゃおうと考えていたので拍子抜けだった。埜蘇に知られたら、そんなことに使うなって叱られそうだけど。

そんな感じで、身軽になった母親は、ハムのギフトセットの箱を持ってついてきた。

「何だか、楽しくなってきたわね」


両親が楽しそうだ。その様子を見て、私自身も嬉しくなってきた。最初は、ギフトの横流しがバレて、仕方なしの招待だったけど。目的を持って、皆で作業して助け合うって楽しい。


「うん、楽しいね」



クルルルー、キュルルルーンと子犬が鳴いているかのような音がした。

埜蘇と私のお腹が、空腹を訴えている。そういえば、お昼食べていないと気づいた。朝早くからおばあちゃんの家に行って、そこから松香寺に移動した。今は何時頃と思って、スマフォで確認。もうすぐ二時だったことに驚く。どうりでね。おばあちゃんの家で朝食に食べたサンドイッチは、とっくに消化されてしまったのだ。埜蘇と私は互いの顔を見合った。どっちが、言い出すみたいな顔で。結局は、私が話し出す。


「お母さん、お腹空いちゃった。家に何かすぐに食べられる物ないかな?」


「あら、そういえばお昼食べていないのね。家に朝のサンドイッチの残ったのと、野菜スープがあるわよ。温めて食べてきなさい」


埜蘇と私は、速攻で真家の家に駆け込んだ。サンドイッチは、冷蔵庫にラップに包まれて皿ごと入っていたし、ガスコンロの上には深鍋が置かれている。

スープは温(ぬる)めだったが、十分美味しそうだったし温(あたた)める時間が惜しかった。埜蘇がサンドイッチの皿にかけられてラップをはがし、私は深めの皿にスープを盛り付ける。誰だろう、空腹は最高の調味料って言ったのは。大正解だよ。

少し温いスープは、野菜の甘さに塩味が程よく効いている。さすがだ、お母さん、最高だよ。空腹が満たされたので、それぞれの持ち場に戻って宴会の準備を開始する。


「埜蘇、伊緒ポン。ちょうどよかった、運ぶの手伝ってくれ。まだまだ軽トラに積んであるんだ」


「あ、スズキさん、買い物してたの。お昼は食べた?」


「おう、車を走らせながら適当につまんだ。宴会が楽しみだな、四時半時頃開始ってコーセイさんちには、連絡済みだから」


少々中途半端な時間だけど、四時半というのが、真家と山藤で行われる宴会の開始時間。このくらいから初めて、八時くらいで終了。形式張ったものはなく、美味しい酒と食べ物を楽しむ会なのだ。もちろん未成年は、ノンアルコールで。

そんな感じで、和気藹々としながら時間が経って、気づけばコーセイさんとご両親をお迎えしていた。


「この度は、ご招待いただいて」


五十代くらいかなと、年齢の見当ついたのがご住職だけで、奥さんの方は全く年齢不詳の美女だった。





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