表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/38

灰色の真実


 エフィメラが指を優雅に鳴らすと、空間を埋め尽くす蒸気が巨大なスクリーンとなり、十年前の凄惨な光景を映し出した。それは歴史から抹消された、灰色の朝の真実。


「十年前、私は聖油騎士団と共に、残滓を用いた究極のエネルギー抽出実験を行っていた。だが、不測の事故が起きたのだ。……私の愛娘。君によく似た面影を持ち、音楽を愛し、私の帰りをいつも待っていた私の宝物が、あの日、実験の暴走に巻き込まれたのだよ」


 投影された映像の中で、幼い少女が恐怖に顔を歪めながら、白銀の熱波に飲み込まれていく。彼女の身体は一瞬にして灰へと変わり、風に散った。


「彼女は灰になった。だが、その魂の残りかすは、死を拒む強烈な意志となって空間を彷徨い、近くにいた君の左腕へと宿ったのだ。……ルイーズ、君のその腕は、単なる呪いではない。私の娘の遺灰であり、彼女が生きていた証、彼女の魂そのものなのだよ。私が君を我が娘のように呼び、愛でるのは、君の腕の中に、私の娘が今も確かに息づいているからだ」


 エフィメラの端正な表情が、初めて人間的な狂気と悲痛な執念に歪んだ。彼は座っていた椅子から立ち上がり、震える手で空を掴む。


「私はあの朝、誓ったのだ。二度と、愛する者が灰になるような不条理は許さない。肉体という、あまりに脆く、腐りゆく器を捨て、このプロメテウス・エンジンを新たなゆりかごとし、全市民を不滅の真鍮の歯車へと書き換える! そうすれば、誰も死なず、誰も失われず、私は君の腕の中から娘を再構成し、再びこの腕で抱きしめることができるのだ!」


「……っ!!」


 ロイスの身体が激しく震える。自分の左腕に宿り、十年間自分を蝕み、他人のように蠢いていたこのおぞましい力が、目の前の男が愛した娘の遺灰だという事実。エフィメラは、ロイスという一人の人間を救いたいのではない。ロイスを依り代として使い、自分勝手な復活劇を完成させようとしているに過ぎなかった。


「ふざけるな……。貴様は父などではない、ただの過去に囚われた亡霊だ!」


 ジェミニが怒号を上げ、重量級のレンチを叩きつけるように構える。


「……貴様は娘を愛しているのではない。自分の喪失感という穴を埋めるために、街中の人間を部品として消費し、都合の良い夢を見ているだけだ! そのレンチの代わりに、自分の頭を修理しろ!」


「ジェミニ、君の言葉は常に浅い。機械のように正確な君でも、愛の質量だけは計算できないようだな。だが、ルイーズ……君なら、この腕の温もりを感じている君ならわかるはずだ」


 エフィメラは狂信的な微笑みを浮かべ、ロイスに優しく、しかし拒絶を許さぬ圧力を伴って手を差し伸べた。


「その腕の心臓部を完全に私と同期させ、プロメテウスのシステムに身を委ねなさい。そうすれば、君はもう過去の悪夢に怯える必要はない。痛みも、孤独も、十年前のあの火の熱さも、すべて私が消去してあげよう。さあ、私と共に、完璧な家族を……私の娘を、組み立て直そうじゃないか。君も、それを望んでいるはずだ」


 深淵のような静寂が広場を支配する。ロイスは、疼き、脈動する自分の左腕をじっと見つめた。


 黒く蠢く残滓。それは確かに、自分をずっと苦しめてきた呪いだった。エフィメラの言う通り、この不条理な肉体を捨て、彼のシステムの一部になれば、二度と傷つくことも、灰を吸って咳き込むこともなくなるのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ