失われた黄金の庭園
「馬鹿ね。あなたが無口な死神になって壊してくれなかったら、今頃私はあの伯爵の醜い心臓の一部にされていたわよ。……ねえ、覚えている、お兄様」
冷却液の鋭い冷たさが、ロイスの意識を遠い、遠い過去の断片へと誘った。
十年前。まだ自分たちがアッシュウォーカーという名ですらなく、ネオ・ロンドニウムの貴族名簿の最上位にその名を連ねていた頃。広大な屋敷の庭園には、外部の煤煙を完全に遮断する巨大なクリスタル・ドームがあり、そこには本物の、命の輝きに満ちたバラが咲き乱れていた。
王室筆頭護衛騎士として叙任されたばかりの若き兄、ジャーミンは、今のような血に汚れたレンチではなく、美しい彫金と宝石が施された儀礼用の長剣を腰に下げ、妹の優雅なティータイムに付き合っていた。
「ジャーミンお兄様、その剣で私を一生守ってくれるって、陛下に誓ったんでしょう」
幼いルイーズが小指を立てて笑いかける。
「ああ。誓ったとも。だが、この剣は守るためのものだ。誰かを傷つけ、命を奪うための道具ではないんだよ、ルイーズ」
そう言って優しく笑った兄の瞳は、今のジェミニと同じ、穏やかで澄んだ色をしていた。温かな紅茶の香り、焼きたてのスコーンの甘い匂い。そして、まだ煤煙に汚されていない本物の太陽の光が、ルイーズの柔らかい金糸のような髪を黄金色に照らしていた。
あの灰色の朝がすべてを黒い煤と残滓の中に溶かし尽くし、彼女の左腕に一生消えない呪いを刻み込み、二人がアッシュウォーカーという名を背負って泥濘を這いずる決意をする前の、二度と戻れない、失われた日常の記憶。
「……ロイス。ロイス、調整が終わったぞ。共鳴阻害の回路も完璧に組み込んである」
ジェミニの声が、彼女を冷たい現実へと引き戻した。
「ありがとう。……過去を振り返るのは、これくらいにしておくわ。今の私には、この汚れた黒い皮膚と、不器用な解体屋の兄様がお似合いよ。ルイーズなんていうお姫様は、あの朝の灰の中で死んだの。今は、ロイスとしてこの街の膿を出し切る。それだけよ」
ロイスは力強く立ち上がり、作業台の脇に置かれた「それ」に目を向けた。マダム・ヴェイルの拠点から運び出してきた、彼女の背丈ほどもある重厚な真鍮製のアタッシュケースだ。




