灰色の反撃
空中を自在に舞うロイスは、ガントレットからボウガンを連射する。矢の先にはジェミニが特注した『過負荷誘発弾』が仕込まれていた。炸裂する火花と共に、壁の機械腕が次々と沈黙していく。
一方、地上ではジェミニが「無口な嵐」となっていた。彼は伯爵が操る巨大な機械の触手を、重量のあるレンチの一撃で弾き飛ばし、最短距離を突き進む。
高圧蒸気の噴射さえも、彼は一歩も引かずに戦術棍で切り裂いた。彼にとって今の伯爵は人間ではない。ただの不具合を起こした巨大な機械であり、停止させるべき対象に過ぎなかった。
「無駄だ! 私の心臓は止まらん! 永遠のリズムを刻み続けるのだ!」
狂ったように笑う伯爵の懐に、ジェミニは弾丸のような踏み込みで潜り込んだ。そして、大型レンチを心臓の保護カバーの隙間に深々と叩き込んだ。
ガキィィィィィィィン!
金属が悲鳴を上げて歪み、伯爵の胸から不快な警告音が鳴り響く。その決定的な隙を逃さず、頭上からロイスが流星のごとき速度で急降下した。
「これが、私の『灰色の朝』への答えよ!」
ロイスは短刀を伯爵の胸元、心臓を支える主蒸気バルブへと突き立てた。同時に彼女の左腕が激しく脈動し、高熱のエネルギーが短刀を介して伯爵のシステムへと逆流する。
ボォォォォン!
巨大な爆発と共に、真鍮の心臓は黄金の火花を散らしながら沈黙した。屋敷を揺らしていた鼓動が、嘘のように止まる。瓦礫の中に崩れ落ちた伯爵は、口から黒いオイルを吐きながら、最期の忌まわしい笑みを浮かべた。
「……私は……エフィメラの実験における、単なる集音器に過ぎない……。本物の『真鍮の心臓』は、もう都市の深淵へと向かっている……」
伯爵の瞳から光が消え、真鍮の身体がカタリと止まった。
「ジェミニ、今の言葉……」
仮面を外したロイスの顔には、拭いきれない不安が浮かんでいた。
「ああ。エフィメラは、この街そのものを『患者』にするつもりだ」
ジェミニもまたマスクを外したが、その指先は戦い終えた後の拒絶反応で、まだ微かに震えていた。二人は静まり返った邸宅を後にした。窓の外では、何も知らないネオ・ロンドニウムの街が、鈍い蒸気の光に包まれている。
「ジェミニ、紅茶はやめ。次はマダムの店で、一番強い酒を持ってきなさい。……眠れない夜になりそうだもの」




