真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー
ネオ・ロンドニウム。その都市の空は、太陽の光を頑なに拒絶する濃厚な煤煙と、プロメテウス・エンジンから絶え間なく立ち昇る凄まじい蒸気によって、常に『永遠の薄暮』に閉ざされていた。
それは単なる夕暮れではない。巨大な文明が放つ熱狂的な鼓動が生み出した、灰色と茶色が混ざり合った恒久的な暗がりだ。
石炭と油の混じり合った匂い、そして微かに肌を刺す『黒い残滓』の粒子。それがこの巨大な蒸気都市の呼吸であり、同時に人々を内側から蝕む甘美な毒でもあった。
ロイス・アッシュウォーカー探偵事務所は、都市の階級構造におけるグレーゾーン、『煤煙の貴婦人』地区の一角に位置していた。上層階級が住まう真鍮色の豪奢な建物が遠方に霞んで見えるものの、一歩足を踏み入れれば、そこは貧困と犯罪、そして黒い残滓の汚染が色濃く沈殿する陰鬱な場所だ。
事務所の外壁は長年の煤で黒ずんでいたが、一歩中へ入れば別世界が広がる。そこは所長であるロイスの趣味で磨き抜かれた真鍮のパイプと、華やかなヴィクトリア調の家具で埋め尽くされていた。
「さて、ジェミニ!見なさい、今日のこの依頼書の装丁を!真鍮と象牙をあしらったこの凝った意匠。この繊細な手仕事、まるで私専用の宝石箱じゃない!きっと依頼人は、私の高潔な美学を真に理解する、素晴らしい資産家に違いないわ!」
声の主、私立探偵ロイス・アッシュウォーカーは、その華麗さと自身の天才的な推理力への絶対的な自信を隠そうともしない美少女だった。彼女は事務所の奥に鎮座する豪華な革張りの椅子に、まるで女王の玉座であるかのように優雅に足を組んで座っている。
彼女の存在そのものが、この退廃的な都市の空気とは決定的にミスマッチな、一種の挑戦のようにも見えた。
艶やかな金髪は、精密な真鍮のギアが組み込まれた特製のボンネットに整然と収められている。可憐な顔立ちの左目には、蒸気圧で駆動する精巧な『機械式単眼』が装着され、カチカチと微細な駆動音を刻んでいた。そして何より目を引くのは、彼女の細身の身体を包む、磨き抜かれた真鍮の胸甲と左前腕部を覆い隠す真鍮製の籠手だ。
「問題なんて、私の新しい帽子を飾る羽根飾りみたいなものよ!目立たなきゃ意味がないでしょう?ほら、ジェミニ、早くその解析盤でこの依頼書に押された封蝋の温度を測ってちょうだい!」
彼女の超ポジティブで楽天的な口調は、まるで事務所の古い蒸気パイプが過剰な圧力を逃がす際の騒音のようでもあった。
ご拝読感謝いたします。
この物語は、スチームパンクな世界の探偵(謎を追う。戦闘あり。推理よりも力技……脳筋かもしれない)の兄妹が事件解決に奮闘します。
最後までお楽しみいただければ幸いです。




