10.事件
それから一週間ほど経過した。
ジンやタカアキは俺を許容した。
このコミュニティの仲間として接してくれた。
また、俺はジンやタカアキにここでの暮らし方についていろいろと教わった。
男がすることは大きく分けて、木を切ること・動物を狩ること・ゴミを漁ること、の三つだった。
木を切る際には、チェンソーを使うことになった。部外者に変な疑いを向けられないように周りに合わせるためだ。
次に食料確保と素材の販売のため、動物の狩りを行う。
これに関しては俺の力を全力で使えるため、周りに感謝されることが多かった。
最後のゴミ漁りは俺にとっては一番難しい仕事だった。
なぜなら、俺はどのゴミにどれほどの価値があるかが分からないからだ。
そのため、他の人の補助役として大きいゴミの移動や分解を手伝うようにしていた。
今日の仕事は終わったので、料理をしている女子供達を眺める。
俺の星では食材に調味料をかけて食べるだけで、この星のように手間をかけて料理をすることはない。
「ラーも料理できるか?」
「いいのアオ。ラー君は仕事をして来てくれたんだから、ゆっくりさせてあげなさい」
「でもラー暇そうだよ」
「そうだな、俺も少しは手伝おうかな。俺にできることは何かあるか?」
「そうね、じゃあできてる料理を皿に盛りつけてもらおうかな」
「わかった」
俺は料理を取りに女の近くへ移動する。
「なぁ、アオの父親は誰なんだ?」
「いきなりどうしたの、そんなこと聞いてきて。アオのお父さんは別の拠点にいるけど」
「この星では父親は子供の傍にいないものなのか?」
「家族の形はいろいろとあるのよ」
なぜ父親と一緒の拠点で暮らさないのか疑問に思ったが、この星の親子の関係性がそもそもどういうものなのかわからないため聞くのはやめた。
料理も全て完成し、盛り付けも終わったため拠点の皆で食事を取る。
この拠点の仲間達は絆が強く、お互い助け合って生活をしている。
俺の元居た星の雰囲気に近いものを感じて居心地が良い。
翌朝、洞窟の中が騒がしくなっていた。
どうやら、アオが行方不明になっているとのことだ。
「アオの親父のところにいるんじゃないのか?」
「でも、私に声をかけもせずにアオだけ連れてくなんて今までなかったわ」
周りが話をしていると、洞窟の外からタカアキが戻ってきた。
「アオの親父は拠点にはいないらしい。朝早くにどこか出かけたみたいだ」
「とりあえず、アオも父親も探さないと何も分からないな」
「ジン、俺はアオって子供の匂いを覚えている。匂いの元を辿ればおそらく、場所が分かると思うぞ」
「それは助かるな。ラー、俺を背負ってアオの場所まで移動してくれんか?」
「ああ、大丈夫だ」
俺はジンを背負い、洞窟の外へ出る。
「まだここじゃ匂いが無くて居場所が特定できない。もう少し近寄ることはできないか?」
「方向⋯⋯アオの父親がいる拠点はあっちやが」
ジンが指を指す方向へ走り出す。
「とんでもない速さやな、バイクくらいのスピードが出とる」
バイクが一体なんなのかは分からないが、おそらくそれも機械の乗り物だろう。
移動をしていると次第に匂いが強くなっていった。
「どうやら、方向的には合っていたようだ。あとは匂いを辿ればアオの所に着く」
匂いを頼りに走り続けた。
「多分この辺におるはずや」
「なんか話し声が聞こえるな⋯⋯」
「アオの周りに男達が何人かいるが、ジンの知っている奴らか?」
「いや、アオの父親とその拠点の奴は見覚えあるんやが、他の奴らは見たこと無いわ。近くに車が止まっているから、外部の人間かもしれへんな」
「これからどうする? 無事が確認できたし帰るか?」
「ラー、お前はあいつらの会話聞こえるか?」
「あぁ、聞こえるがジンは聞こえないのか?」
「俺はここからだとよく聞こえんから、あいつらに見つからんように会話の内容を俺に教えてくれ」
なんだか状況がよく分からないが、ジンに聞こえてくる会話の内容を伝える。
「じゃあ、この子供は私達が買い取ろう。代金は他の子供の分とまとめて渡すから勝手に分け合ってくれ」
「ああ、それでいい」
「お父さん! この人たち誰? 離してよ!」
アオは男達に抑えられながら車へと連れていかれそうな状況だ。
「おい、とりあえずアオを取り返すぞ」
「あいつらは殺していいのか?」
「いや、殺しはあかん。半殺しで頼むわ」
半殺しが一体どんな程度なのか分からなかった。死なない程度で良いのだろうか。
俺とジンはアオの元へ近づくと、男達がこちらに気づく。
「なんだお前、その子供を売りに来たのか?」
「その子を離せ」
「何言ってるんだお前。おい、こいつはお前達の知り合いか?」
男は少し離れたアオの父親に質問をする。
「大人の方は俺の嫁の知り合いだ。子供の方は見たことがねぇな」
「ふーん、よく分からないがまぁいい、志村そいつらを大人しくさせろ」
志村と呼ばれた男はジンに比べて一回り身体が大きい。
「おいガキ、邪魔だからどいてろ」
「お前の方が邪魔だ。殺さないでやるから大人しくしてろ」
「生意気なガキだ⋯⋯お前も売り飛ばしてやるよ」
男は俺に向けて蹴りを放ってきた。
とりあえず足を手で受け止める。
ジンから殺すなと言われているから加減をしなければいけないが中々難しい。
試しに男の足首に少しずつ力をかけていく。
「いてぇぇぇ! このガキとんでもねぇ力してやがる」
そのまま力を入れていくと、”ボキッ”といった音が聞こえた。
男は絶叫し暴れだしたたので足を離す。
男は立つことができずに地面に横たわっている。
念のため、男の両腕の骨も同じ手順で折っておく。
アオを捕まえている男の方が大男の様子を見て、顔を引きつらせていた。
「お、お前はこの子供を取り返したいんだろう? それ以上近づいたらこの子供を殺すぞ」
そう言うと、ポケットから取り出したナイフをアオにつきつける。
「指くらいなら大丈夫かな」
「は?」
俺はナイフを持った男の前まで飛び込み、持ち手の指を切り落とした。
切り落とした指の切断面から血が飛び出す。
アオを両手で抱え、ジンの元へすぐに戻る。
「おい、ラー。助けてくれて助かるんやが、アオが血を見て気絶しとる」
「悪い、早く済ませたかったから切り落としてしまった」
「まぁ今回はやりすぎるくらいでちょうどええ。ただ、まだやることはある。こいつらの話からすると、
まだ捕らえられている子供が他におるはずや。おそらくあのトラックの中やな」
ジンは少し離れた場所に止まっていた大きい車を指した。ジンと一緒にトラックの場所まで行き、トラックの後部を溶かし中の様子を見るとジンの言う通り四人の子供たちが横になり眠っていた。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯やめろ。私達の商品に手を付けるな」
「ラー、そいつの両足も折っといてくれないか」
「わかった」
俺は指を抑えている男の元へ行き、二本の足首を握り潰す。
男は立つことできなくなり、倒れこむ。
ジンはアオの父親と周囲の人間に声をかける。
「なぁ、どうして自分の子供を売り飛ばしてまで金が欲しいんだ? そこまでして得た金で何がしたかったんだ?」
質問を投げかけられたアオの父親は青ざめた顔で口を開く。
「いや、俺は知らない⋯⋯子供を奪われただけだ。こいつらが売ろうとしてたのを止めようとしてたんだ!」
「お前がアオを売ろうとしてたのは知ってんだよ。お前らは全員クズだ」
「ジン、こいつらも半殺しするか?」
「したいところだが、こいつらには他に関係者がいないか聞きださないといけないからな。まだ、手を出すわけにはいかない」
アオの父親の一味は少し安堵した様子を見せる。
「なぁジン、俺達はこんなとこでろくな家もなく生活してる底辺だ。森の外では自分の家で美味い飯を毎日食べて楽しそうに生活しているのが普通なんだよ。金さえあれば俺達にもその普通が手に入るかもしれない。子供は大事だが、自分の方が大事だ。普通を求めるのはそんなにおかしいことか?」
「おかしいわ、子供売らないと手に入らないもんなんてクソみたいなもんや。底辺でも楽しく暮らすことくらいはできるやろが」
「綺麗ごと言いやがって」
ジンは拳を握り、アオの父親の顔を殴る。
殴られた男はジンに殴り返そうと拳を振りぬいたが、間に俺が挟まり拳を受け止める。
そして、そのまま拳を潰した。
「もう片方も潰そうか」
「ラー、もうええ。まずは子供達を安全な所へ移動させよか」
子供達をひとまずジン達の拠点に移動させていった。
子供達の移動が終わった後、残った奴らの処遇に関してジンと話した。
子供を連れて行こうとしていた奴らは俺が動けなくしてしまったので、子供を渡そうとしていた奴らに外に連れ出してもらうことにした。
その後、俺とジンは拠点へと戻った。
拠点に戻るとジンに対して質問が飛ぶ。
「おいジン、聞きたいことが多すぎるぞ」
「タカアキ、それに他の皆も聞いてくれ。一体この森で何が起きとったかをこれから説明する」
ジンは拠点の仲間たちに対して説明した。
アオが父親の手によって外の人間に売られようとしていたこと、一緒に他の子供達も売られようとしていたこと、俺が外の人間を倒し売ろうとしていた森の奴らも含めて外へ追い出したことを。
「あいつらにはもう森に立ち入らんように伝えたが、まだ人身売買に関わっとった奴が森の中におる。誰が関わっとったかは聞き出している。俺らの拠点の仲間は含まれとらんかったから安心したんやが、そいつらとは極力関わらんようにしてくれ」
ジンは関係者の名前を皆に伝えた。
「ジン、話は分かったがアオ以外の四人の子供達はこれからどうするんだ?」
「他の拠点で預かってくれるとこがないか聞いてみるわ。ただ、人身売買に両親の両方が関わっていた場合は子供をここで預かろうと思うんやがええか?」
「俺は別に構わない。他のみんなはどうだ?」
タカアキが周りに確認すると、大体の人間が同意をしていた。
「でも食料とかは増えた子供の分さらに必要になるけど大丈夫なの?」
「まぁそこは俺らがたくさん働いて分け合えばええやろ」
「でも、今でも生活に余裕があるわけじゃないよね」
「いざとなったら俺の飯を減らして子供らに分けるわ。子供が飯を食えんなんてのは絶対にあかん」
ジンの強い主張にこれ以上追求できなくなり、この話題は一旦落ち着いた。




