第45話 転校生の全盛期は初日。
前回のあらすじィ!
未来に飛ばされ、特課という警視庁の部署に配属され、初仕事でヤクザ潰しに加担させられ、死にかけ、減給され、上司のオカマに貞操を奪われそうになったのが、主人公こと、石塚特人!
そんな彼の新章開幕ッ!
西暦2024年 千葉県
「ゼェッ!ハァッ!あーマジやべぇ!電車に乗り遅れる!今回の講義出席できなかったら、マジで単位足りないぞ俺ェ!ゼェハァ!」
俺が悪い。こんな崖っぷちの単位取得状況になってしまっているのは、遊び惚けていた俺が10割悪い。...だが、俺は悪くない。家を飛び出して僅か数十メートルで情けなく息を切らしているのは、日頃通っているパチンコ屋に体を鍛える仕組みがないからである。故にこの体力不足の元凶は、パチンコ屋にあると言えよう。
なんて無意味なことをグルグルと思考しながら、コンビニで印刷してきた数枚のレポートを裸のまま左腕に抱えて、懸命に足を動かしていた。
しかし、この状況は本当にマズい。百味ビーンズのゲロ味なんて比にならないくらい、マズい。
今から5分後に出発する電車に乗らなくては、来年以降のキャンパスライフを逃すどころか、実家に残してきた母親と父親から勘当宣告をされる危機すらある。
俺は駆け足で、次の角を右に、次のT字路を左に、更にそこの路地を右に__
「きゃっ!!」
短い悲鳴と同時に、体に柔らかな衝撃が走った。思わず体をのけぞらせて尻もちをついた俺は、尻を摩りながら顔を上げる。視界に入ったのは、俺と同じような姿勢で腰を落としていた、ワインレッド色の制服に身を包む女子高校生であった。彼女が持っていたであろう通学鞄が路地に投げ出され、そこから教科書とプリントがアスファルトに散乱してしまっている。
「いって~、...って、す、スミマセン!俺が無闇に走ってたせいで...!」
言いながら慌てて、彼女の鞄から飛び出してしまった教科書やプリント類をまとめ上げる。そして手前に転がっていた鞄と一緒に、彼女の方へと差し出した。
見上げた先の彼女はすでにお尻を払いながら立ち上がっており、俺が這いつくばる様にして拾い集めたプリントの束と鞄を受け取りながら口を開けた。
「い、いえ。あたくしこそ、スマホに気を取られて前方不注意でしたわ。お兄さんにお怪我がなければよろしいのですけれど...」
彼女はそう言うと、俺を立ち上がらせる為に手を差し伸ばしてくれた。...彼女のドリルのように縦ロールしたオレンジ色のツインテールが、屈んだ拍子に少し跳ねる。(...何というか、口調と言い髪型と言い、如何にもなお嬢様キャラが出現したな)というのが正直なところである。
彼女が差し出してくれた手を有難くも頼り、俺も何とか立ち上がって汚れた尻を払った。
「いや、全然!怪我なんて一つもないっすよ!」
ふと、さっきまで自分が時間に追われていたことを思い出す。急いでスマホで時間を確認すると、液晶には08:02と表示されていた。その数字に急かされるように、俺は慌てて地面に散らばったレポート用紙を拾い集める。そしてさっきまでと同じように左腕でそれらのレポートを抱え、最後に女子高校生のほうを一瞥する。
「あ、ちょっと今急いでて、このままだと人生が全身複雑骨折くらいの重傷を負うことになるので、ここで失礼しますッ!ほんとすみませんでした~!!」
「え、全身複雑骨折...?よく分かりませんが、お気を付け下さいませ~」
既に再び走り始めていた俺は、彼女の言葉を背中で受け止めて駅へと加速した。あのJKには申し訳ないが、こんな所で今まで大学に貢いできた膨大な学費を棒に振るわけにはいかないのだ。
...そういえば、彼女が俺に差し出してくれた手には、なんだか見覚えのある銀の指輪が嵌められていた気がした。しかし、そんな些細なことを気に留める余裕のなかった俺は、すぐにそのことも忘れ、高校時代の体力診断以来のガチダッシュを披露するのであった...
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西暦2324年 警視庁 特課オフィス内にて...
「...ってのが今朝の話なんだけどさ、まぁ俺の猫ひろし顔負けの遠距離走のおかげで、何とか講義には間に合ったんだよ。けどよ、そのお嬢様JKとぶつかった時に落としたレポート用紙、あれが何枚か向こうのプリントと入れ替わっちゃててさぁ、結局レポート発表はグッダグダになって、もう教授からのガン詰めよ。万引きバレた時の方がまだ優しんじゃないかってくらいの、超ガン詰め。俺、可哀想じゃない?」
特課の奥に設置されている白いソファーに腰かけ、俺とナノハは呑気に雑談を繰り広げていた。数日前、及川にガン詰めされた忌々しいこのソファーも、同僚同士で座ればただの安っぽくて座り心地の良いソファーだ。
ナノハは現代《2024年》から持って来たらしいキャンディをペロペロと舐めながら、適当な調子で返答する。
「ん~、別にお主が叱られようがワシはなんとも思わんが、可哀想なのは特人とぶつかった女子高校生の方ではないか?本来、性欲の擬人化こと石塚特人と接触することすら、全女子の悪夢だと言うのに、自分のプリントまで持っていかれたんじゃろ?その女子高校生も授業で困ったじゃろうな」
「んだとクソガキィ。この俺と触れ合えるなんて、全女子の夢の間違いだろうが。...それに、多分あのお嬢様JKは授業で困ってないぞ」
俺はソファーの前の机の上に、今日のトラブルで入れ替わってしまったであろう、例のJKのプリントを何枚か出してみる。ナノハはまだキャンディを舐めながら、そのプリントの内容を一通り見渡した。そして数秒後、吹き出したように「ぷっ」と笑う。
それもそうであろう。あのJKが持っていたプリントの中身は、テストの答案用紙でもなければ授業の資料でもない。それは直筆で執筆しているであろう、令嬢系らしき小説の一編だったのだ。それもかなり、際どいラインを攻めた内容の。
『アタクシの体温と、カミーロ王子の体温が溶け合う。。。
王子の雄々しい腕は、アタクシの華奢な体を求めるようにして筋肉を隆起させた。。。
「あぁ、カミーロ、貴方には許嫁のセフィリア王女が居るのよ。アタクシはただの中級貴族、こんな関係、許されない__んっ」
王子は熱い接吻で、アタクシの口を塞ぐ。。。
「許される必要なんてない。キミの居ない天国よりも、キミの居る地獄の方が魅力的なんだ」
そう言って、カミーロ王子はアタクシの髪飾りをそっと外した。。。
ブロンドの髪を靡かせたアタクシを、カミーロ王子が押し倒すようにしてベットに___』
「ぷ、ぷぷぷ、...ぷはァーーー!あっはっは!なんじゃこれ!その女子高校生はこんな小説を通学鞄の中に入れておったのか!? ひー!駄目じゃ!黒歴史すぎる!お腹千切れる~!」
例の小説の一編を読んだナノハは、お腹を押さえてソファーの上で転げまわり、涙を流しながら大笑いしていた。
(自称九尾の生まれ変わりが人の事を黒歴史と言えるのかよ)と心の中でツッコミを済ませながら、改めてこの小説を前にするとニヤケてしまう。見た目も口調もお嬢様だったあの女子高校生が、直筆でこんな官能的な小説を書き上げているなんて。しかも通学鞄に忍ばせて。きっと俺のレポートとこの紙が入れ替わっていることに気が付いた彼女は、エルモの如く顔を赤らめたことだろう。
しかし、思春期特有の創作意欲に理解がある俺は、これを馬鹿にはしない。俺だって中学三年生の頃に執筆していた「光と闇のカオスラグナロク(全10話 イラスト付)」を母親に発掘された時は、頭の中に「自決」の2文字がよぎったものだ。
まぁけれどやはり、わざとではないと言え、彼女の宝を俺が奪ってしまったのも事実である。今度あの路地に、あたかもずっとそこにあったかのように、紳士的に置いておこう。
と、そんなこんなで平和な雑談をしていたこの席に、赤髪を揺らした男が近づいてくる。江口だ。
俺は前の一件以来、この男には最低限の警戒心を持って接するようにしているが、向こうはお構いなしに、今まで通り馴れ馴れしく話しかけてきやがる。
「は~い、楽しそうな所ごめんね~ん。2人に紹介しなきゃいけない人が居るから、ちょっとオフィスの入り口に集合~」
彼はそういうと、ひらひらと手招きをする。『紹介しなきゃいけない人』というワードに引っかかり、まだ爆笑していたナノハを引っ張って、俺はオフィスの入り口に向かう。
入り口の前には既に及川が立っており、いつの間にか出勤していたサキちゃんの姿もそこにあった。彼女は今日も端麗である。
「それで、紹介したい人って?」
俺が単刀直入に聞くと、その質問には及川が答えてくれた。
「おー、それはなぁ、特課に入る、新入りの紹介や」
(新入り...だと!?)
この流れ、今まで数多の学園系を見てきた俺には分かる。
そう!転校生は、「あー!アンタはあの時の~!」ってなる美少女だと相場が決まっているのだ!!
と言う事は、つまりこのパターンは、今日の朝ぶつかった、あのお嬢様JKッ!
「そんじゃあ紹介するで。おーい、入ってきてくれ~」
及川が呼び込む、出入り口の奥。
そして数秒後、新入りの姿が露わとなる___
続く!!
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