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 期末テストをぶじに終わらせ、文芸部員たちは部室に集まっていた。

 三年生の宗像一花。

 二年生の岩志木星児、鬼城倫子、神浪春奈、隅田美帆、梓川紗希。

 一年生の青柳あわた。

 二年生以下全員で選んだプレゼントを一花に渡し、それぞれに記念写真を撮ったあと、卒部の打ち上げ会場に向かうことにした。学校からは歩いて二十分ほどの焼肉店だ。予約は幹事である一花が済ませていた。

「みんなは先に行ってくれ。私は少し岩志木に話がある」

「げ! せせ先輩、まさか……告るとか?」

 と、のけぞる倫子に一花は笑って首を振る。

「ないない。安心しろ」

「ま、そうですよね。展開として、あったら面白いかなって」と倫子が笑う。「じゃ、みんな、先に行っとこ」

 岩志木と一花を残して部員たちは出て行った。賑やかな声が廊下を遠ざかっていく。その声が聞こえなくなってから一花は言った。

「四人のうち、誰を選ぶかは決めてるのか?」

「いえ、決めていません」

「なんなら私が告ってやろうか?」

「いま全否定したばかりでしょう」

「そうだな」

「……そうですね」

 少し沈黙がおりる。やがて一花が口を開く。

「あいつから連絡があった。二年生に限定した理由だが、桜の花の向きだそうだ」

「桜の花の向き?」

「御桜神社と照桜寺のヤマザクラ」

「はい」

「何十年かに一度、開花した時の花の向きが変わるらしい」

「………」

「桜の精を宿した者が誕生した場所へと向きを変える」

「ああ、なるほど」と岩志木はうなずく。「それぞれの花の示す方向が交差した場所が生誕の地ということになるわけですね」

「ま、そういうことだ。生誕の地という言い方は大袈裟だが」

「でも、それだけ場所が明確なら、桜の精が誰かということもすぐに特定できそうなものですが」

 花の向きが交差する地点にある家が桜の精を宿した者の生家ということになるのだから。

「いまから十七年前、花の向きが変わった。その交差地点は花畔産科医院だ」

「ああ」

 そうか、そういうことになるのか……と岩志木は納得する。

 花畔産科医院は真桜町でも評判の病院だ。ベッド数が多く、医療設備も充実していて、医師たちの技術も高い。隣の市の大学病院とも連携していて、万一のことがあればすぐに患者を搬送できる体制も整えている。真桜町生まれの子どもをもっとも多く取り上げているのがこの病院だ。

 ここで桜の精を宿した者が生まれたとしたら、特定は簡単ではない。それこそ、毎日のように赤ん坊は生まれているのだから。

「十七年前。それで二年生なんですね」

「そう」

 ヤマザクラの花の向きが変わったのは、ちょうどいま高校二年生である者たちが生まれた年ということだ。

 岩志木は少し考えたあと言った。

「でも、それなら早生まれの三年生も含まれますよね。それと、サンノウ学院に進学した者や町外の高校に進んだ者も」

「彼らの思考パターンを考えると、まずは可能性の高いところから手をつけていったのだと言える。塾と団を作って二年生女子をふるいにかけたように」

「もっとも分母の大きい集団から調べていくということですか?」

「真桜町で生まれる子どもの数は毎年三百名前後。そのうち七割が真桜高校に進む。残り二割はサンノウ学院。一割が町外の高校だ。桜の精を宿した者がいる可能性が高いのは真桜高校だ」

「そうですね」

「そして十七年前に生まれた真桜高校在学生でもっとも多いのが二年生だ。可能性としてはまずここから探っていくのが効率的と言っていい」

「それで四人が絞られたということですか」

「彼女たち四人のうち誰か一人が確実に桜の精を宿しているとは言えない。しかし、他の集団に比べてもっとも可能性が高いのは事実だろう」

「四人のうち一人は確実に違いますけどね」

 とは岩志木は言わなかった。

 本来なら三年であるはずの紗希は対象から外れることになるが、別にそれは口にすることでもないだろうとの判断だった。代わりに岩志木は別のことを口にした。

「それにしても、桜の花の向きなんてよく分かりましたね」

「あいつは、樹木と話ができるようになったらしい」

「………」

「樹木と会話ができる人間は世界中にいるそうだ。もちろんスピリチュアルな領域にはなってくるが」

「あの人に限っては、驚きませんよね」

「で、あいつはいま吉野にいる」

「奈良県の?」

「そう、修験道の聖地だな。修行マニアのあいつにふさわしい場所だ。あと、吉野は千本桜で有名だが、その桜はヤマザクラだな」

「御桜神社、照桜寺と同じですね」

「吉野のヤマザクラに相談したら、花の向きが変わるんだよって教えてくれたらしい。バカげた話だが、それで説明がつくのだから考えても仕方がない。受け入れるしかない」

「スズメバチと会話ができるというよりは受け入れられますよ」

「あの時は迷惑をかけた」

「いえ」

「とまあ、そんな感じだな、緒方と坂本に関して言えることは」

「ありがとうございます。お手間をかけました」

「受験勉強のいい気分転換になった」

 二日前、岩志木が坂本と愛宕に告げた推理は一花から授けられたものだった。岩志木が一花に相談を持ちかけていたのだ。

 その時はまだ「なぜ二年生が対象なのか」は分からなかったが、一花は例の修行マニアの先輩に当たってくれたというわけである。

「じゃ、行くとするか」

「そうですね」

「楽しかったよ、文芸部」

「おれもです」

 部室を出た岩志木と一花が校舎の二階に差し掛かった時、緒方塾のほうで騒がしい声がしていた。

「何か起きたようだな」

「そうですね」

 しかし二人はそれ以上は関心を払わずに階段をおりていく。

 靴を履き替え、ともに校門を出て肩を並べて歩く。

「一花さんとこうして歩くのもずいぶん久しぶりですね」

「その呼び方もな」

「……ああ、自然と出てくるものですね」

 岩志木は肩をすくめる。

 しばらく黙って歩いたあと、一花が言った。

「すみれちゃんはずいぶん歩けるようになったみたいだな」

「おかげさまで。あいつ、時々メールしているようですね」

「すみれちゃんからメールをもらうとうれしい」

「ありがとうございます」

「お前もたまにメールしろ」

「了解です」


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