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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第二章 Boys and Girls
86/177

第四十八話 Boys & Girls(完結編)

2021年2/1 修正しました。

 本当に救われた気がした。凪橋は初めて、自分の命よりも大切な存在に気づいた。

 彼女が生きているだけで、自分の人生には意味があったと思えるような。


■その48



 本当に、()()()()()()()()()けれど。


 とり憑かれたパラノーマルを零比都の拳で吹き飛ばされ、全ての苦しみから解放された凪橋が激しく狼狽する。

 動揺の理由はパラノーマルを抹殺した零比都の拳にある。零比都はまさか、凪橋を奈落の底へ突き落とすため彼に人の心を取り戻させたのか?

 それは人を救う活人の拳と、人を破壊する殺人の拳を両立させた奇跡だった。凪橋にストーカーされた零比都の恐怖や嫌悪が奔流のように彼の脳裏に流れ込む。

 自身が天使だと崇拝した少女の、凪橋とは金輪際関わりたくないという強い拒絶の意思が、凪橋が最期に縋ったモノまで木っ端微塵に消し飛ばす。

 そもそも、邪悪な存在を物理攻撃で吹き飛ばせる零比都の今後を凪橋に心配される謂れはない。

 むしろ、そんな彼女を今まで脅かしていたのは……


 ああ、まさか、そんな。


 零比都からストーカーとしか思われていなかった事実を、取り返しのつかないタイミングで突きつけられ、信じていたモノ全てが瓦解した凪橋に、零比都は一切目もくれず結界システムの再起動に伴い消滅する空間から踵を返す。

 唯一残された心の拠り所をも失い、連れ去られた深淵で人生の不条理を永遠に嘆き続ける凪橋は、そのうちマイ天使と慕っていた少女の顔も思い出せなくなり……

 彼はついに、自分が誰だったのかもわからなくなった――



「零比都! 終わったのか?」

「……うん。終わったよ、サンちゃん」

 背後から凪橋の気配が完全に消え失せたと同時に気が抜けたように座り込んだ零比都は、一番会いたかった人の顔を嬉しそうに見上げる。

 木南と零比都が夫婦だと知っているのは富嶽第一想発でもごくわずか(そもそも、零比都が異世界からの移住者という立場は周囲には伏せられており、富嶽第一想発の職員達は彼女を相伝蜃奇録の登場人物のそっくりさんと認識している)。普段から周囲に人の目や気配または盗撮の心配がなくてもお互いの関係を徹底して秘匿している2人にとって、誰も見ていないとはいえ、プライベートの外で零比都が夫である木南をサンちゃんと呼ぶのは本来御法度なのだが、今回だけは例外である。

 確かに、若月のような()()()()()()()()()()外道に利用されるだけ利用され、本人もいつ死んだのか気づいていなかった凪橋は哀れだと思うけれど。ストーカーに喰われパラノーマルになった後も結界や敷地内をうろついて千影や玲南達に悪さをしたのは絶対に許せなかった。

 そして、既に結婚指輪を填めている自分達夫婦にこれ以上の干渉は決して許さないと、滅びゆく凪橋に示す意味があった。


■■■



 ――そして話は、千影達が若月の襲撃を退けた現在に戻る。


「「「「異世界人!?」」」」

 4人は驚きに包まれる。虎野と顔見知りらしい若月の口振りを千影が問いただしたところ、木南が『千影と玲南を呪った神話級パラノーマルを崇める、太古の邪教が存在した世界の住民』という斜め上な回答を返したのだ。

 つまり、若月は千影や留萌だけでなく、玲南や榛名達からも異世界の住民という事になる。

「異世界はそれこそ数えきれないほど無限にある。人の行動一つで未来が分岐していくし、その結果色々なモノが生まれたり失われていく。はるか遠い昔に分岐した異世界はそれこそ文明だけでなく生態系、科学技術も全く違ったものになってそれぞれの道を歩んでいく。分岐したばかりの異世界はお互いの存在を認識したり干渉する方法はないけれど、ある程度離れた世界同士がこうやってヒトやモノ、情報や技術の交流をする事ができる。想力技術もその一つなんだ」

 虎野の説明はわかりやすいけれど、若月とどう関係するのだろう。

「異世界との交流は時に疫病や戦争といった災いを持ち込んだりもする。だからルールが必要になるわけだが、そもそも異世界との交流を完全に断ち切れば問題は起きなくなると思い込んだ哀れな男がいた」

 オチが読めた千影達4人げんなりする。極端から極端へ走りたがる、頭が良すぎる人にありがちな話であった。

「……でも、若月の能力は妄想を現実に侵食させる、というものだよね? そんな人が暗躍する方が、よっぽど災いの火種になるんじゃ……ないかな?」

 留萌がたどたどしい口調で一生懸命まとめた考えは、まさに虎野や木南の懸念をそのまま言い表したものであった。

「まさにその通り。あの男はこの世界だけでない。相伝蜃奇録の(玲南ちゃん達のいる)世界も、それ以外の異世界も全て破滅に追いやろうとしている。乙骨先生や日本想電その他色々な組織が総力を挙げて若月を追いかけていたけれど長い間姿をくらましていてね。恐らく我々の世界のどこかに潜んでるのだろうと言われてたけれど、まさかこんな近くにいるなんて」

「こんな近くって?」

「富嶽第一想発のウドンケンジョウレイ結界、だよ。正確には奴が潜伏していた場所の一つってところかな。恐らく有東木君や玲南ちゃんが神話級パラノーマルに縁を持ってしまったのは結界のどこかに潜んでいた若月の仕業だろう……今回あの男が富嶽第一想発から脱出した以上、今後は変な事件も起きなくなるはずだ」

「すると、若月が逃げた時に電話してた相手は協力者なのぜ?」

「そうだね。これからは、日本想電本社の戦闘部隊や乙骨先生達がその協力者を探し出す作業に入る。僕達にできる事はこれで終わりだ」

 異世界の危機にまで飛躍した話に対処するのはやはり専門家である。フォースに目覚めたばかりの、千影や留萌みたいな素人が関わるべき話ではなくなったのだ。



「あの、とても言いにくい事なんだけど……若月が電話してた相手、オレと千影の知ってる人かもしれないのさ……」

 この、留萌の一言がなければ。


 ものすごい勢いで留萌を顧みる木南と虎野。それは話に出された千影も同じだった。

「……やっぱり、電話の相手はあの人だったのか、留萌?」

「……まさか、そういう事なのか? キミ達がここに来たのは……まさか」

 千影が口にした『電話の相手』という単語で、木南は全てを察したようだ。

「え? 何それ、どういう事?」

「ちょっと、あたし達おいてきぼりにすんじゃねーよ。わかるように説明してほしいんだけど」

 説明を求める榛名と玲南に、千影はケータイのスクショ画面を見せた。昨日の夕方、千影が黒い悪魔(ダークデビル)を倒した直後に門野(かどの) 裏音(りおん)から届いたメールだった。

 一緒にアルバイトできない事への謝罪から始まったメール本文は


■行方が分からなくなった裏音の父親と義母はカルト宗教やマルチ商法、またはあまり良くない集団に関わっている可能性がある。あの2人に息子(裏音)について聞かれたら、「もう会っていない」と伝えてほしい

■あの2人の背後にとんでもない詐欺師がいる。絶対に信用するな。

■もしも2人が千影と留萌の前に現れた時は、富嶽第一想発にいる新人教育担当の虎野向日氏、あるいは木南三十郎氏に必ず報告する事。

■このメールは確認次第メアドも含めて直ちに消去する事(メール本文を画像で保存するのはOK)


 千影からメールの内容を見せられた玲南と榛名は、日常生活ではまずお目にかかれない物騒な言葉の数々に軽く引いていた。

「……何このメール。ヤバそうな香りがプンプンする……」

「留萌と千影の幼馴染って一体何者なんだよ。そもそもメールの内容を必ず消せってどういう意味だよ」

「フォーサーに探知されるのを警戒してるのかな★」

 千影と玲南みたいな、受話器から電話相手を捕まえられるフォーサーが裏音の父親と一緒にいるのかもしれない。虎野はFAX回線から凪橋を捕獲したが、もしかしたらメールでも同じ事ができる能力者も存在する可能性がある。榛名はなるほどなあと納得したが、裏音はどんな状況を恐れているのか。

「で、このメールがどうかしたのぜ?」

「若月が脱出する前に電話してた相手の声……裏音の親父と同じ声だったんだ」




 結局この日はこれで解散となった。

 裏音の両親が関係を持っているという詐欺師が若月である可能性が非常に高く、裏音の幼馴染2人に裏音の両親が接触してくる状況も考えて、2人は今後もバイトの合間にフォースの特訓を続ける事になった。

 留萌は帰宅後に若月に襲撃されないか心配していたが、木南曰く若月の能力も万能ではなく、今回みたいに多くの人々を錯覚させるには大規模な準備が必要で、

『あの男が今すぐに千影達を襲ってくる危険はなく、計画の段階で察知できれば対処は十分にできる』

と説明されて終了した。


 裏音の父親が自分達の周囲をうろついているのは千影も薄々感づいていた。千影が黒い悪魔にトドメを刺そうとした時、裏音の父親と同じ声を出したパラノーマルに一瞬隙を与えてしまったのも、その一つである。


『小僧の分際で、ずいぶん偉そうになったもんだな■Ω§£仝……』


 ベッドに倒れ込んだ千影が思い出すのは、母方の親族に引き取られて近所から去っていった幼馴染である。母の死後父親と再婚した継母と折り合いが悪く、見かねた親族に引き取られていったのだ。

 離れ離れにはなったが、高校に進学する直前までメールや電話で良く話をしていた。夏休みに一緒にバイトしようという話を了承して、詳しい日程が決まる直前にバイトできないと連絡が来たのだ。

 いつもおちゃらけていた、あの幼馴染に何があったのだろう。かつて裏音が住んでいた家も既に無人状態らしく、千影を含めた近隣住民からも忘れられた家となっている。それを今になって気づいたのがすごく恐ろしい事のように思える。

 千影の周りで何が起きているのか。



「よく言った。少年、玲南ちゃん。それに留萌君、榛名ちゃん。あとは私がどうにかする」


 千影達を守るために鬼神のような戦いぶりを見せた神父みたいに、自分も玲南や留萌達を守るために戦える人になれるのか。

 疲れ切った千影はそれ以上考える事はできず、自然に意識を手放した。

 本当は千影と玲南、留萌と榛名で『Boys & Girls』だったはずが、気がついたら木南と零比都が入ってて、しかもこの2人の占める割合が一番大きくなってしまった。年齢的には2人とも既に少年少女ではないのに……げふんげふん。


 千影くんと玲南ちゃん、留萌くんと榛名ちゃん達の物語は、ここからどんどん加速する>


 第三章では千影達の日常に玲南や榛名達が少しずつ入り込んできます。

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