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三十話

 

「さあさあ、上がって」


 僕たち4人は、母さんが勧めるままに実家へと上がった。


 と、そこにはすでに父さんがいて、椅子に座り腕組みをしていた。


「……父さん」


「…………」


 無言で前を見つめたままで、視線を全く合わせようとしない。


「レッジは父さんの目の前ね」


 ちょうど6席ある椅子の、上座の部分にミオンが、その右隣に父さん、対面するように僕が。

 僕の隣にサシャが座る。


「あら、あなたは?」


「私は、ここの方が落ち着きますので。お気になさらず」


「あら、そう?」


 ヴァンテーヌさんはミオンの後ろの壁に立ち、母さんがサシャの対面、父さんの横の席に座った。


「…………レッジ」


 と、みんなが落ち着いたところで、ようやく父さんが口を開く。


「な、なに」


「ヒモ、とはなんだ」


「えっと……それは、ヒモの意味?」


「そんなわけないだろう、ヒモになるとは、何事だと聞いている」


 いつの間にか閉じていた目をカッと開き、若干の凄みを聞かせてそう問うてきた。


「いや、その」


「私が、私が誘ったんです! レッジは悪くありません!」


「ミオンちゃんには聞いていない。レッジ、なぜその提案を受け入れたのだ。男としての矜持は持ち合わせていないのか、恥ずかし後は思わないのか?」


「えっと……正直、最初は戸惑ったよ」


「なら、なぜ村に帰ってこなかった。きこりの仕事もほっぽり出したままだろう? 下手な夢を追いかけて冒険者になり、うまくいかなくなったら村へ逃げ帰る。そして今度は貴族様のヒモだと? 人生を、生きるということを舐めているんじゃないのか、貴様」


「……すみません」


「ちょっとあなた?」


「だが、はあ」


「はい」


 父さんは大きくため息をつく。


「お前がその生き方をまっとうするというのであれば、もうなにも言わん。村長には伝えておく。ただ、一度決めたからには、もう投げ出すな。今度こそ許さんぞ」


「わかってる」


「人に頼るということは、その分だけ相手に負担をかけるということだ。そのことを理解できなければ、きっと後悔するだろう。ゆめゆめ忘れるな、お前の持つ力は、所詮ヒト一人分の力でしかない。支え合うことでこそ、人という存在は初めて成り立つのだ。

 この世の中に、1人で生きていける人間なぞ、そうはおらん。みな、社会という大きな組織の中で生きているのだ。たとえヒモになろうとも、その枠組みから外れることはできない。周りの評判は、巡り巡ってミオンちゃんに帰ってくるのだ。その時、お前はどうする」


「……僕は……」


「また逃げるのか、庇うのか、反論するのか。それはお前自身にしか選べない。自らの生き方に誇りを持てないのであれば、それはただ社会に生かされているだけだ。信念を持て、レッジ」


「はい。父さん」


 これは、父さんなりに応援してくれているのだと信じよう。


 社会の中で生きるか、ただ生かされるだけなのか。

 そうだ、僕はそもそも今の神能が使える者が偉い、という社会が嫌で、村を飛び出し人の持つあらゆる可能性を信じたくで冒険者を始めたのであった。


 だが結果はどうか、パーティを追い出されやる気がなくなり、村に戻って3ヶ月たっても仕事が身につかず、結局は幼馴染に救い出され養われる生活を送っている。


 だが僕は、今の生活の中でできることをしていけばいいのだ。

 ヒモだからなんだ、その分愛してあげれば、癒しを与えてやればいいじゃないか。

 恋愛幼児の16歳を精神的に成長させるのも、大人の勤めではないか。

 孤児院の設立をもっと手伝ってもいい。


 ヒモだからって、なにもできないわけじゃないし、なにもしてはならないわけじゃない。僕は僕なりに、自分の頭で考えて行動するべきなのだ。


 何故今まで、信念だけを頼りに生きてきたのか。経験や人との繋がりを無視してきたのではないか。パーティでうまくいかなくっても、こうしていま2人とはうまくやっていけている。自分自身が神能という力に囚われていたのだ。


「レッジ、いい目だ。その目を失うな、濁らせるな。信念をもとに行動するのだ。さすれば、周りのものは自ずと付いてきてくれる」


「そうよ、レッジ。私も、もっとレッジと仲良くしたい。穴埋めがしたい。だから、一緒に歩もうよ」


「ああ、そうだな!」


「・・・わたしも、レッジのためになるよう頑張る・・・」


「サシャ、その活きだ!」


「何かあれば、お申し付けください。ミオン様の味方であるうちは、全力で仕えさせていただきます」


「はい、よろしくお願いします!」


 敵になったらどうなるのかは恐ろしくて聞けないや……


「レッジ、いい人達だねえ。あんた、ほんと心配したんだよ? でもこうして、本当に頼れる仲間ができてよかったじゃないか」


 母さんは涙ぐみながらも、そう言ってくれた。


「よし、じゃあ久し振りに飲むか!」


「あ、でしたら、わたしお土産にと思ってお酒持ってきたんです。よかったら」


「はい、直ちに持ってまいります」


 ヴァンテーヌさんが馬車へと向かう。


「・・・お酒・・・」


「サシャはまだ飲んだことないよな」


 この国では16歳以上が飲酒可能となっている。


「・・・試してみたい・・・」


「お嬢ちゃん、お酒初めてか。なら、最初は薄めて飲んだほうがいいな」


「そうだな。新たな発見ができるかも知れないぞ?」


「・・・楽しみ・・・」


「私も奮発して料理を作らなくちゃねえ」


「おばさん、私も手伝います」


「そうかい? じゃあ、一緒に作ろうかね。昔はこうして手伝ってもらったこともあったわ」


「ふふふっ、懐かしいですね。あ、そうだ、レッジの最近の様子、お教えしますよ」


「え、ちょ、ミオン?」


 変なこと言わないでくれよ?


「あらあら、どんな話でも聞くわよ? あの子、きちんとしているかしら?」


「君は何の職業なのかね?」


「・・・レッジの秘書、です・・・」


「秘書、だと……変なことはされてないか!?」


「父さん、なんでいきなりそんなこと聞くんだよ!」


「・・・ぽっ・・・」


「さ、サシャ、ややこしいこと口走るなー!」


 そうして夜は更けていく----




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