二十六話
「ミオンの神能がどのような働きを持つのか、僕には本当のところを知ることはできない。神能はその神能の使い手しか理解できないというのは常識だからね。でも、その"カリスマ"の能力を疑うことはない。ここまで大きな屋敷を持てるほど頑張って、その力を証明して見せたんだから」
「あ、ありがとう……」
横に寝転がるミオンの身体をポンポンと叩く。
「だから、僕はミオンがサシャに対してどう思っていようが、君に対するこの愛情が減ることは全くありえない。もし2人のどちらかを選べと言われたら、間違いなく君を選ぶし、あの絵本みたいに3人で仲良くしたいというのであれば……できうる限りの努力をしてはみせるよ」
「レッジ、大好きっ」
「うおっ」
急に起き上がると、そのままぎゅっと抱きついてきた。
「なんだなんだ、泣いて怒ったと思ったら、今度は嬉しそうに抱きついてきて」
「レッジが私のことを考えてくれて、理解してくれていることはすごく嬉しい。けど、私もさっき言ったことを撤回するつもりはないわ。周りからなんと言われようと、ヒモのままでいてもらうし、私はレッジに尽くすことが私の幸せなの。こうして愛し合う時間さえ取ってくれれば、本当になんでもしてあげるから。だから、もう少しこの家にいてくれない?」
「あ……そうか、一ヶ月だけだったもんな」
なんだかんだこの生活が楽で、時が過ぎるのが早く感じる。
「うん、あと2週間しかない。けど、レッジが望むなら、一度村に帰ってもいい。私も今度は一緒に帰るわ」
「え、けど、忙しいんじゃ」
「いいのよ、少しくらい。それに、手紙は出したけど、きちんと顔は見せていないでしょ?」
「ああ……」
ミオンの馴染みの行商人に手紙を渡し、父さん達に届けてもらっている。
「じゃ、決まりね。そうだ、どうせならサシャも連れて行きましょう。なんだって秘書長なんだから、雇い主のそばにいないとね」
「そうだな。アナステは?」
「彼女は財団の設立に関して色々やることがあるから、ヴァンテーヌに任せるわ」
「そうか」
「……その」
「なんだよ」
「財団の名前、変えなきゃダメ?」
「うーん」
個人的には、きつく言ってはしまったが、やはり先ほどの意見が正しいのではと思っている。知っている人は僕のことは知っているし、貴族の間でも噂は出回っているだろう。
僕ならまだしも、そのせいでミオンがあれこれと悪く言われるのはどうかと思う。
「レッジが心配していること、なんとなくわかっているわ。でも、何回も言うけれど、私は世間の評判よりもレッジとの愛を優先する。もしこの王都で暮らせなくなってしまった時には、2人でどこか田舎に引っ越してからしましょう。それくらいのお金ならいつでもいくりでも用意できるから」
「そこまで決意が固いなら、いいよ。アナステのこと、助けてやってくれ」
「ありがとう、はい、任されました」
「レジオン財団、ですか」
そのアナステに、改めて財団の名前を伝えた。
「ああ。財団の規模は相当なものになる。まあ、アナステの方が詳しいだろうが、僕からも聞けることがあったら聞いておくよ」
「ありがとうございます。あの、一つお願いが」
「お願い?」
「はい。私、手始めにまずは故郷の孤児院を訪れようと思っているんです。その時に、ミオン様と一緒にレッジさんも付いてきてくださいませんか?」
「僕も? 別にいいけど……なんで?」
「実は、サシャを連れて行きたいんです」
「サシャを? 一緒に行けば……ああ、そういうことか」
「はい。レッジさんの秘書長になった今、この屋敷にレッジさんがいる以上勝手に出かけるわけにはいかないと思うんです」
「確かに、ヴァンテーヌさんはいつもミオンにひっついているもんな」
「ですので、レッジさんも一緒に来ていただけないかと……」
「僕は別に、サシャがいなくてもいいけどな。それくらい、全然大丈夫だろう。別に仕事をしているわけじゃあるまいし、秘書長っていう役職自体、ミオンが気を利かせてかってにつけただけだからな」
「……はあ、朴念仁……」
「えっ?」
今、さりげなく罵倒されたような……
「とにかく、レッジさんも一緒に来てください!」
「は、はいっ!」
アナステの勢いが凄く、思わず即返答してしまった。
「す、すみませんっ。じゃあ、またいずれ日時はお教えしますから」
「わ、わかった」
アナステはそのまま立ち去っていった。
「はあー、ヒモって結構虚しいよな……」
サシャの気持ちを育てるのも仕事といえばある意味そうだが、生き生きしているアナステを見ていると、やはり冒険者時代のような苦しいながらも得られた達成感はない。
ミオンと一緒にいる時間は大切にしたいけれど、僕も何かできることを探してみてもいいかもしれない。
「……そうだ、今こそ、時間があるんだから、自分の神能がどれほどのものなのか確かめてみればいいじゃないか」
モンスターを倒すときには、ソロの時はとにかく牽制のために石を投げまくり、剣でとどめを刺す戦法を取っていた。パーティに入って以降は、とにかく敵を引きつけるために使っていた。そのため、みんなから使えないと言われてしまったのだ。
実際、この神能は武力にはなり得ない。だが、子供の時の村人達とは違う、嫌な顔をせずに客観的にみてくれる人がたくさんいるこの屋敷にいる今こそ、もう一度検証してみるいい機会ではないだろうか。
「ミオンにどこかいい場所がないか聞いてみるか」
出来るだけ安全で、かつ広い場所だといい。
「・・・レッジ・・・」
「!? さ、サシャか、びっくりした……いつからいたんだ?」
「・・・たった今来た。何してるの?・・・」
「いや、ちょっとな……そうだサシャ、僕の部屋に行こう。聞きたいことがあるんだ」
「・・・? わかった・・・」




