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「はぁ、はぁ……。玲くん、ひどいですの……」
「あはは、ごめんごめん」
飽きるまで踊らせたあと、僕は0コンをポケットに戻し、桜さんを解放してあげた。
どうやらこれから先も、いろいろと楽しませてもらえそうだと、心の中ではほくそえんでいたわけだけど。
「ところでさ、幽霊部ってどうなるの?」
ふと響姫がつぶやいた。
確かに、桜さんの目的は別のところにあったのだから、幽霊部はもう必要のない集まり、ということになるだろう。
だけど桜さんは、事もなげに答える。
「どうにもならないですよ? 今までどおりですの」
にこっ。
笑顔を咲かせる桜さんは、こう続けた。
「玲くんたちもれっきとした部員なんですから、これからも来てくれますよね?」
その言葉には、温かさを感じさせる中にも抗いがたい力強さが含まれているように思えた。
「参考までに、拒否したらどうなるのかな……?」
友雪がこめかみを引きつらせながら問いかけると、
「うふっ、もちろん、呪っちゃいますの!」
桜さんは、言葉尻にハートマークでもついていそうな笑顔と口調のまま、そんな恐ろしい答えを返してくる。
「あ……悪霊がここにいるわよ!?」
響姫の言葉に、心外ですの、といった様子で眉根を寄せる桜さん。
「わたくしにだって人権はあるんですから、当然の権利ですの!」
「いやいや、普通の人間には、呪う権利なんてないから!」
桜さんの主張に、僕は思いっきりツッコミを入れた。
……これも呪われる原因になってしまうかも、なんて考える余裕は、まったくなかった。
☆☆☆☆☆
さすがにそんなことで呪われることはなく。
桜さんはちょっと不満を残しつつも、相好を崩してくれた。
「これからも、よろしくですの!」
明るい笑顔の桜さんに、否定の言葉を返すことなんて、僕にはできはしない。
いや、きっと誰にだって無理だろう。
「なんだかんだで楽しいし、ま、いいよね」
僕は、友雪や響姫にも同意を求めるように、そう言って答える。
言うまでもなく、ふたりとも同意してくれることを確信しての言葉だ。
「そうだな。なんたって、全員幽霊とはいえ、女の子ばっかりだし!」
「……あんたは、またそんな……。でも、あたしも別に続けてあげてもいいわよ。……玲と一緒だと楽しいし」
「うん。僕もみんなと一緒だと楽しいよ」
思ったとおりの言葉を返してもらえて、僕自身も嬉しい気持ちで思わず笑みがこぼれる。
「…………。(みんなって……あたしは玲と一緒だとって、ちゃんと言ったのに……)」
なにやら響姫は少々不満顔で、いつものようにぶつぶつと小さな声でつぶやき始めてしまったけど。
ともかく、僕たちの心はひとつだ。
そんな僕たちを見て、桜さんもさらに笑顔の輝きを強める。
「ありがとうございますの!」
桜さんは僕の両手をぎゅっと握り、春風に揺らめく花のように明るく可愛らしい笑顔を寄せてくる。
ちゅっ。
軽い音を残して、桜さんの柔らかい唇が一瞬だけ、僕の頬に触れ、そして離れた。
「むむむ……っ! (あたしの)玲にキスするなんて……! でも、ほっぺだし……。でもでも、思い出した! 以前、唇にキスしたって……。でもでもでも、相手は幽霊なんだし……!」
響姫は、さっきまでよりは少し大きめではあったけど、僕の耳には微妙に届かない程度の声で、よくわからないことをつぶやいているようだった。
「くそ~、どうして玲ばっかり!」
友雪は友雪で、いつものように憤慨していた。
と、そんな友雪の手を、そっと握る女の子が現われた。
「……えっ!?」
手を握られた友雪も驚きの声を発する。
友雪の目の前に立っているのは、前髪で両目まで完全に隠している幽霊の少女――華子さんだった。
フラグが立ったような感じだったから、その行為自体には驚くべきところはないのかもしれない。
華子さんの両手は、友雪の両手をしっかりと包み込んでいた。
「……元気を出して……。……ボクが、いるから……」
「よかったじゃない。女の子に好かれてさ。ま、相手は幽霊だけど」
なぜだかちょっと不機嫌そうな響姫。
その声に、友雪が返した言葉は、
「冷たい……」
のひと言だった。
桜さんいわく、他の幽霊ズも、存在を強く意識してもらえれば、波長が合って触れられる人も出てくるかもしれない、とのこと。
華子さんの手が冷たいのは、幽霊だから当たり前、というわけではなく。
当然ながら、もともと華子さんの生前の体温が低かったから、というわけでもなくて。
「今は冷たいかもしれませんけど、もっと強く想ってあげれば、そのうち温もりも感じられるようになるかもしれないですの」
桜さんの言葉に友雪は、
「そうか……。なら、頑張るかな」
と言って、華子さんの両手を強く握り返していた。
華子さんの抜けるように真っ白な頬が、心なしか朱に染まっているようにも見える。
「まったく、あんたは……。ま、見境のない状態から一途になるなら、結果オーライかしらね」
「ん? 俺は響姫も好きだぞ? それに、アンナ先生も桜さんも、るなちゃんも優美さんも ……ぐふぅ!?」
響姫の言葉に本音で答える友雪は、いつもながらの『みぞおちパンチ』を食らって、その場に崩れ落ちた。
学習能力ないなぁ、ほんと。
「きゃははっ! るなは、とっても楽しいのだ!」
「私も楽しいですわ。玲くんたち三人組の三角関係漫才、いつも楽しく拝見させてもらってますから」
るなちゃんと優美さんも、どうやらご満悦の様子。
……三角関係漫才ってのが、僕にはいまいちよくわからなかったけど。
響姫と友雪の夫婦漫才に華子さんが加わって三角関係なのかな? でも、僕を含めた三人組って言っていた気が……。
そんなことをつぶやいて首をかしげていたら、全員から寄ってたかって、
「ほんっと、鈍っ!」「鈍いな、相変わらず」「鈍いですの」「……鈍い……」「鈍いのだ!」「鈍いですわ」「鈍いわね」
と罵声を浴びせられてしまった。
アンナ先生まで一緒になって言わなくても……と思わなくもなかったけど。
ともかく、よくわからない部分はありつつも、これから先も今までどおり、幽霊部のメンバーとして楽しくやっていけそうだ。
「幽霊部は永久に不滅ですの!」
桜さんが言った。
永久にって……僕たちはそのうち卒業するけど……、なんて無粋なこと、今は言いっこなしだよね。
鈍いと言われまくった僕にでも、それくらいの空気を読む能力は備わっているのだ。
以上で終了です。お疲れ様でした。
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