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「……ねぇ。桜さんって、どうしてそんなに、いろいろと知ってるの?」
響姫が疑問の声を向ける。それは僕も思っていたことだった。
「僕に触れることもできたりするし、他の幽霊の三人とはちょっと違ってるよね。なにか特別なのかな?」
「……わたくしは、この学園の創立者で初代学園長だった朧木紅葉の孫娘ですの」
便乗して加えた僕の質問まで聞いた桜さんは、淡々とした口調で語り始めた。
紅葉ヶ丘学園高等学校の名前の由来ともなった桜さんのお祖母さんは、この学園の創立者で初代学園長だった。
可愛い孫娘を、是非とも自分の学園に入学させたいと願っていた。
もちろん桜さんも、それをずっと心待ちにしていた。
「ただ、わたくしは結局、この学園の生徒にはなれませんでした……」
寂しそうに目を伏せる桜さん。
まつ毛が微かに震えている様子も見て取れる。
創立当初からお嬢様学園として名高い名門校ではあったけど、必死に勉強した桜さんは、入学試験を見事主席で合格することができた。
お祖母さんの名声に傷をつけてはならない、という意識も少しはあっただろう。
だけどそれよりも、桜さん自身がどれだけ入学を楽しみにしていたか、その想いの強さが表れた結果だったに違いない。
でも――。
桜の花びらが降り注ぐ春の日、桜さんは流行り病のせいで亡くなってしまう。
次の日が入学式、というタイミングだった。
「わたくしは、どうしてもこの学園に入学したかったんです。その想いが強すぎて、幽霊になってしまいましたの」
幽霊となった桜さんは、生徒たちの笑顔を見守り続けるうちに、この学園自体の霊というか、守り神のような存在になったのだろう。
それは、お祖母さんが創立者だったという影響もあったのかもしれないけど……。
おそらくは桜さん自身の思念の強さによるものだったのではないかと、僕には思えた。
「わたくしは、たくさんの生徒たちを見守りながら、ずっと平穏に過ごしてきましたの。でも、少し前にアンナ先生が霊媒師さんを呼んで除霊の儀式が施されました。それによって、わたくしは校舎から追い出され、華子さんたちを含めた他の幽霊は、それぞれ個別に封じ込められてしまいましたの」
桜さん自身も封じられそうになったらしいけど、なんとか逃れることに成功した。
とはいえ、学園自体の守り神とも呼べる存在になっていた桜さんには、敷地内から出るすべはなかった。
それで、一番古い建物である旧体育倉庫へと身を寄せることにしたのだという。
「波長の合う人が現われるのを待って、どうにか体勢を立て直そうと考えていましたの。そして玲くんたちと出会い、華子さんたちを助け出すことができました。あとは知ってのとおりだと思いますの」
「アンナ先生――というか、教頭先生の幽霊は、どうしてWiiSのコントローラーを旧体育倉庫に置いておいたんだろう?」
「わたくしが旧体育倉庫に逃げ込んでいるのを知って、霊気を吸い取るつもりだったんだと思いますの。わたくしと波長の合った人が持つことでその人の力も吸収して、わたくしを自在に操ることのできる道具にしたかったのかもしれません」
桜さんを操ろうとしたのは、彼女が学校自体の霊のようになっていたからだろう。
幽霊の存在を認めたくない教頭先生の霊は、桜さんの強大な力を利用して、すべての幽霊を学園の敷地内から排除しようとしたのだ。自分自身が幽霊であることを、認めようともせずに……。
結局その計画は不発に終わったわけだけど。
「そういえば、どうして僕は、桜さんと波長が合ったんだろう? たまたまなのかな?」
僕の疑問に、桜さんは再び口を開く。
「波長が合うのは、たまたまということもありますけど、玲くんの場合には明確な理由がありますの。玲くんは、わたくしと同じ血筋を受け継いでますから……」
そういえば僕は母親から、絶対にこの学園に入学するように言われていた。
それは、創立者である紅葉さんの家系だったから、という理由があったのか。
「血筋を受け継いでいるからといって、入学しなければならないわけではないですけど。学園の守り神としての立場から言わせてもらえば、霊気を強める結果につながりますの。それで、無意識のうちに近しい血筋の人が受験するようにわたくしが願い、その想いを感じ取った人が集まってきてくれた、ということかもしれませんの」
桜さん自身も確信は持っていないようだけど、そう解説してくれた。
「僕は同じ血筋だから、波長が合ったんだね。 ……あれ? だけど、響姫も0コンで桜さんを操れていたよね? それって響姫も同じ血筋ってこと?」
「ええっ!?」
僕の言葉に、響姫がやけに大きな驚きの声を上げる。
(それって……もしかしたら、あたしと玲が実は兄妹なんてことも……? もしそうだったら、あたし絶対に……)
なにやらまた、ぶつぶつとつぶやいている響姫だったけど、桜さんは僕の言葉を否定する。
「いいえ。響姫さんも確かに波長はそれなりに合ってますけど、こちらは偶然ですの。0コンでの操作は、わたくしが教頭先生の霊を欺くためにしていた演技でしたし……」
「あっ、そういえば、そんなことを言ってたね」
僕が納得すると同時に、響姫は、
「はぁ~、よかった~……」
と心から安堵のため息をこぼし、胸を撫で下ろしているようだった。
……どうしてそこまで、ほっとしてるんだろう?
僕にはやっぱりよくわからなかった。
☆☆☆☆☆
「そうすると、この0コンって、もうなんの意味ないのか……」
ポケットから0コンを取り出し、先端を桜さんのほうに向けて、なにげなく振ったりしてみる。
すると……。
「あ……あれ? きゃっ……や……、わっ、ふえぇ……!」
桜さんは、僕が0コンで操作するとおりに、その場で踊り始めた。
「おや?」
調子に乗った僕は、さらに激しく、いろいろな動きを試してみる。
その度に、
「わわわっ、ちょ……ちょっと、玲くん! や、やめてくださいですの! ふわわわ~っ!」
ハチャメチャな動きを伴いながら、薄っすら涙目の桜さんが悲痛な声を響かせていた。
「なんか、動かせちゃってるけど……?」
「はう~ん……。条件反射的に動いちゃう体になってしまったようですの~! はっ、もしかしたら、玲くんにずっと送り込み続けていた霊力の影響かもしれませんの!」
奇妙なダンスを踊りながら(いやまぁ、踊らせているのは、操っている僕ってことになるわけだけど)、桜さんは焦りまくった思考回路でどうにか状況を分析する。
もっとも、分析できたからといって、状況が変わるわけではないのだけど。
「嘘から出たまことちゃん、ってことか」
「『ちゃん』は余計でしょ!」
友雪と響姫が茶々を入れる。
「それにしても……くそ~、玲ばっかりずるいな~! 俺だったら絶対、もっとエロい格好をさせて楽しむのに……!」
「あんたはまた、そんなことを!」
ドムッ!
響姫のパンチは、今日も今日とて友雪のみぞおちを鋭角にえぐる。
「うぐおおおおおお……っ!」
「ちょっと、玲くん、やめてくださいですの~!」
そんな中、僕はなんだか楽しくなって、桜さんをひたすら踊らせ続けるのだった。




