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レイコン  作者: 沙φ亜竜
第六章 部室を守れ大作戦!
28/40

-3-

 次の日から、僕たちは朝早めに集まり、署名集めを開始した。


 まず、正門から入ってすぐの場所に立ち、登校してきた生徒たちにプリントを配る。

 これは、友雪と響姫の担当だ。

 そこからロータリーを通過し、昇降口まで歩いていく通路に僕と会長さんが立ち、署名をお願いする。


 いつもどおり僕のそばには桜さんも寄り添っていて、控えめに「お願いしますの」と声をかけてくれた。

 仮にも幽霊部の部長だから、幽霊の身とはいえ、少しでも手伝いをしたいと考えているのだろう。


 桜さんは、響姫のお姉さんから借りたままになっている制服を着ている。

 最初に会長さんと桜さんが顔を合わせたとき、僕は桜さんを、いとこの中学生だと紹介した。

 でも会長さんは、この学園の制服を着て、しかも僕に寄り添っている桜さんを見ても、なにも言わずスルーしている。


 幽霊なんているはずがない、と言って怖がっていたし、僕たちが幽霊部なんて活動をしていることから、さすがにちょっと察してしまっているのか、桜さんの存在自体を完全に無視しているような感じすら受ける。

 まぁ、せっかく協力してもらえているわけだし、そのあたりのことにツッコミを入れる必要はないだろう。


 正門のプリント配布部隊と通路の署名部隊に分けたのは、渡されたプリントに目を通す時間を与えるためだ。

 プリントに会長さんの名前を記載させてもらってあり、この通路まで来たら実際に会長さんがいて、「署名お願いできるか?」なんて言われたら、嘆願内容に少々首をかしげているような人でも喜んで署名してくれるだろう。

 湯浴先輩はそれだけ、生徒会長として慕われているということだ。


「私も賛成だと示せば、署名してくれる人も多いだろう。汚い手だとは思うが……」


 会長さんは、そう語っていた。


「すみません、こんなことをさせてしまって……」


 僕が無意識のうちにこぼしていた謝罪の言葉に、会長さんはふっと穏やかな笑みを向けてくれる。


「いや、構わない。生徒のためになにかする、そのための生徒会だ。私はその生徒会の会長なんだぞ?」

「会長さん……」

「ほら、また生徒が来たぞ。しっかり署名をお願いしろ」


 やっぱり会長さんはかっこいい。改めて僕はそう思った。

 全校生徒から圧倒的に支持されているのも、素直に頷ける。

 だからこそ、あのことを隠したいんだろうな。

 べつに知られたからって、支持されなくなるなんてことはないと思うけど。



 ☆☆☆☆☆



「……さて、そろそろギリギリの時間になるな。駆け込んでくる生徒も出てくる時間帯だし、ここまでにしよう」

「はい」


 会長さんの言葉に、僕は素直に頷き、正門のほうへ向かって歩き出した。

 友雪と響姫にも終了を告げるためだ。


 問題視されないよう、登下校の邪魔にならない程度にする、というのは初めから決めていた。

 だから下校時間にも同様に、署名活動をする予定だ。

 そのときには、通路側でプリントを配り、正門前で署名をお願いする手はずとなっている。


「ふたりとも、お疲れ様。とりあえず、ここまでにしよう」

「おっ、もうそんな時間ですか」

「了解です。お疲れ様!」


 ふたりと合流し、残ったプリントを受け取る。

 署名の用紙とプリントは、まとめて僕が保管しておくことになっているからだ。

 ……単なる荷物持ちとも言う。


「でも、雫香様のお名前を借りるだけでなく、こうして一緒に手伝ってもらえて、光栄です!」


 脅しておいてよく言うよ、とツッコミを入れたいところだけど。

 友雪としては、会長さんとお話したいだけなのだろう。


「気にすることはない。私としては、あのことをバラされるわけにはいかないし……」


 後半はトーンを落とし、聞こえないくらいの声でつぶやく会長さん。

 友雪は、そんな彼女の両手をぎゅっと握りしめ、


「大丈夫ですよ! 雫香様のお漏らしの話なんて、絶対しませんって!」


 と、かなりの大声で平然とのたまう。


「な……っ!?」


 会長さんは顔を真っ赤にして焦っている。当然ながら、真っ赤になっているのは、手を握られたからではない。

 署名活動を終わりにしたのは、人通りが多くなるからだ。

 つまり今、周囲には登校してきた生徒たちが多数、歩いているわけで……。


「え? 生徒会長がお漏らし?」

「んなわけないだろ、あの会長が」

「ははは! そうだよな!」


 友雪の声は、近くを通っていた男子生徒数人の耳に届いてしまっていたらしく、そんな会話が聞こえてきた。

 会長さんの普段のイメージや日頃の行いのおかげで、信じたりすることなく軽く受け流してくれたようだけど、なんとも危ないところだった。

 男子生徒たちが遠ざかっていくのを確認したのち、会長さんは慌てて友雪の両手を振りほどき、目をこれでもかとつり上げて怒り心頭。


「こ……こいつ、永遠に口が利けないようにしていいか!?」

「許可します。よかったらコレ、使いますか?」


 間髪入れずに響姫が許可を出し、ポケットからなにやら取り出す。

 それは……トンカチ!?


「かたじけない、恩に着る」


 そして会長さんはそれを素直に受け取ろうとする。


「……って、ダメですってば! 響姫も、いったいなにをポケットに忍ばせてるのさ!?」

「え~? 女の子の必需品でしょ? いつでも友雪みたいなチカン野郎を()れるように」

「そんな必需品持ってるの、響姫だけだってば!」


 どうにか僕は、響姫の手からトンカチを奪い取る。

 で、騒ぎの発端となった原因の友雪はというと、


「雫香様が自らの唇で、永遠に俺の口を塞いでくれるというなら、むしろ本望です!」


 とか言いながら、唇を突き出していた。


「こいつ、頭大丈夫か!?」

「ダメだと思う」


 会長さんの問いかけに、響姫が答える。今度は、僕も完全に同意。


「殺っていいか?」

「どうぞ」


 そう言って、僕は会長さんにトンカチを手渡すのだった。


 もっとも、怒髪天を衝く状態の会長さんではあっても、常識や理性は残っていたようで、さすがにトンカチで殴ったりはしなかった。

 もし響姫に渡していたら、実行されていた可能性は否定できないけど。


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