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その日の放課後。僕たちはいつもどおり旧体育倉庫へと集まった。
さて、今日もまた桜さんの友達探しを始めますか、と気合いを入れたところで、桜さん本人からこんな宣言が飛び出した。
「わたくし、たくさんの友達が出来て嬉しいですの。お友達と一緒にお昼ご飯を食べるなんてことまで達成できて、玲くんたちには本当に感謝ですの」
ぺこりと一礼。
え……それって……。
「事実上の友達探し終了宣言、と受け取っていいってことか?」
「はいですの」
友雪の言葉に、笑顔で頷く桜さん。
そっか、もう友達探しはしなくていいんだ。
これで呪われなくて済むってことだよね。よかったよかった。
……それなのに、ちょっと寂しく感じてしまうのは、単なる気のせいかな……?
それに、僕たちはお役御免ってことになるから、今後この旧体育倉庫に来る必要はなくなるのかな……?
僕がなんとなく感傷に浸っていると、響姫が不満の声を上げる。
「え? もういいの? 生徒じゃないけど、問題を起こして辞職したあと、自殺した教頭の幽霊の話なんかも、仕入れてきたんだけど……」
どうやら響姫のほうは、僕のような感傷とは違って、自分のせっかくの働きが無駄になる、ということに対しての不満みたいだったけど。
そんな響姫の言葉を聞いた桜さん。
ぴくっ。
なぜか一瞬だけ体を震わせ、微妙に考える素振りを見せたものの、再び笑顔に戻ってこう語った。
「……もう、大丈夫ですの。玲くんたちも来てくれて、とっても楽しい時間を過ごせました。お友達に囲まれて、夢みたいですの。でも、もうひとつ、わたくしには夢があるんです」
微かに潤んだ瞳を僕たちのほうへと向け、桜さんが語ったもうひとつの夢。
それは……。
「部活動をしてみたいんですの!」
……幽霊が部活動……。
結構な無理難題のように思えるその夢を叶えるため、僕たちには引き続き手伝ってほしい、ということのようだった。
☆☆☆☆☆
「幽霊にだって人権はあると思いますの! ですから部活動をする権利もあると思いますの!」
桜さんが僕の両肩をつかんで、必死に訴えかけてくる。僕が尻込みしているのを感じ取ったからだろう。
べつに僕は桜さんの頼みを断るつもりなんてなかったのだけど……。
「いやいや、幽霊に人権なんてないだろ。人じゃないんだし。それに、今現在ここの生徒でもないわけだから、部活動に参加する権利ってのも――」
友雪がごく当たり前の意見を述べ始めたけど、桜さんの表情が笑顔から悲しみへと徐々に変わっていき、さらには苦悶を通り越して怒りや恨みのどす黒い光を瞳に宿し始めているのを見て取り、途中で言葉を止めてしまった。
桜さんは覚えていなかったけど、他の三人の幽霊たちは、それぞれに悲しい過去を抱えていた。
そんな幽霊たちに、人権なんてないし部活動だって無理、だからすぐに成仏しろ、なんて言うのも酷というものだろう。
だからといって、どうすればいいのか……。
「う~ん、さすがにちょっと難しいんじゃないの? どこの部だって、幽霊と一緒に活動なんて、怖がってしたくないと思うし……」
響姫が様子を見ながら遠慮がちに言う。
そりゃあ、そうだよね。どこの部だって、受け入れてくれないよ。
と、そこでふと考える。
「……だったら、幽霊のみんなで部を立ち上げればいいんじゃないかな?」
「幽霊だけで認められるわけないだろ? ここの生徒じゃないんだから」
僕の意見に、友雪が速攻で反論してきた。
でも、それならば答えはもう決まっている。
この学園は、部活動が強制参加じゃない。僕も友雪も、それに響姫も、いわゆる帰宅部の状態だ。
「だったら、僕たち三人も加わればいいんだよ」
「あ……勝手にあたしも加えられてる」
僕の意見に最初に反応したのは響姫だった。
だけど意外と不満な様子はなく、
「ま、ここまで関わったわけだし、最後まで協力するわよ。(……それに、もっと玲と一緒にいたいし……)」
と、快く協力を申し出てくれた。
後半はいきなり声のトーンが落ちて、ぼそぼそと口の中でつぶやく感じだったから、僕にはまったく聞こえなかったけど。
きっと、素直に協力するという自分のキャラじゃない行動に恥ずかしさがあって、自分自身に言い聞かせているとか、そんな感じだろう。
残るはひとり。
「友雪……」
僕が詰め寄る。
響姫や他の幽霊たちにも見つめられた友雪は、考え込むような様子を見せてはいたけど、しばらくしてゆっくりと口を開いた。
「幽霊に人権なんてない」
「友雪……!」
恨みがましい声で、僕は親友の名前を呼ぶ。
素直じゃないところや、自分勝手なところもあるというのは、三年以上のつき合いだから知ってはいた。
それでも、なんだかんだ言って、友達思いのいいヤツだと、信じていたのに……!
と、そのとき。
睨みつける僕に鋭い視線を返してきていた友雪が、ふっ……と、表情を緩ませる。
「……とは思うけどな。だが、桜さんたちは幽霊である以前に女の子だ。女の子のお願いは、なにがあっても断らない。それが俺のモットーだ!」
拳をぐっと握り、力説する友雪。
「だから、協力するぜ!」
「友雪! やっぱり友雪は友雪だったね!」
「ああ、俺は俺だ!」
よくよく考えると意味がわからない歓喜の声を叫びながら、僕と友雪はガッチリと握手する。
「ん~、じゃあさ友雪。あたし、欲しいものがあるんだけど、買ってくれる? 女の子のお願いは、聞いてくれるんでしょ?」
「ああ、響姫はダメだ。お前は女の子じゃな――ぐべらっしゃ!?」
響姫のお願いを学習能力のない理由で断った友雪は、みぞおちに正拳突きを三連続で食らい、その場に崩れ落ちてしまった。
☆☆☆☆☆
僕たちは、新しく部を作るという方向で作戦を練ってみた。
桜さんとしては、部活動という言葉に憧れがあるみたいで、同好会ではなく正式な部として立ち上げたいらしい。
同好会なら勝手に活動すればいいだけだけど、部として活動するには条件がある。
まず、部員が五人以上必要。これは、僕たちと幽霊ズを合計すればクリアできているので問題ないだろう。
……幽霊が人数としてカウントされない場合、他の人を勧誘する必要が出てくるけど、今はとりあえず考えないことにしておく。
そして、部活動として認められる条件のもうひとつが、顧問の先生の存在が必要、というものだった。
「部活動として認められたら部室が与えられるし、会長さんに保留してもらってる問題も解決するね」
「でもさ、顧問の先生ってのはかなり問題じゃない? 幽霊のいる部の顧問になんて、なりたい先生がいるとは思えないわ」
「そこは、幽霊だってのを黙って申請すれば大丈夫だろ」
「う~ん……。バレないかな?」
「バレたら、あたしたちまで処罰を受けたりするのかしら……。(……玲と一緒だったら、どんな罰を受けたって耐えられるけど……)」
「先生だって、全学年の生徒を把握しているはずがない。だから問題ないだろ。もちろん、詳しく調べられたら終わりだが……」
「だったら、理解のあるアンナ先生が適任かな?」
「大丈夫なの? あたしはクラスが違うから、アンナ先生のこと、そんなによくは知らないけど」
「ふっ。俺たちとアンナ先生の絆を甘く見ないでくれ。なにせ、何度も何度も呼び出されて、それこそ毎日のように顔を合わせて会話している間柄だからな!」
「うん、そのとおり!」
「……ぜんっぜん安心できないわ……」
自信満々の僕たちとは対照的に、響姫はもとより他の幽霊たちまでもが、深いため息をこぼしていた。




