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最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第一章 伝説の始まり

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第8話 小石一つ分の勇気

「……何、この音?」



薄暗い通路を歩いていた俺は、思わず足を止めた。

少し前から、地響きのような音が何度も聞こえている。


ドン──。


ズン──。


時々、壁や床まで揺れていた。



「絶対、行かない方がいいよね、これ……」



俺は音のする方向とは反対側へ歩こうとした。

触らぬ神に祟りなしだ。


だが、そちらの通路は大きな瓦礫によって塞がれていた。

他に道はない。

目の前には、音のする方向へ伸びる一本の通路だけ。



「選択肢が一個しかないの、やめてほしいな……」



帰りたい。

地上へ戻りたい。

今日の残り一発を、なるべく小さくて弱そうな魔物へ使い、可及的速(かきゅうてきすみ)やかに帰宅したい。

俺が望んでいるのは、それだけだ。



「……行くしかないか」



俺は壁際を歩き、慎重に通路の奥へ進んだ。

やがて前方が明るくなってくる。

同時に、人の声も聞こえてきた。



『江戸川探索者! 立ってください!』


『変異種が戦斧を振り上げました!』


『誰か! 早く扉を開けろ!』


「……江戸川?」



聞き覚えのある名前だった。

今日の始業式。

壇上で挨拶をしていた、一つ上の生徒会長。

江戸川朱里。



「いやいや、まさかね……」



恐る恐る通路の先から顔を出す。

そこには、巨大な円形の部屋が広がっていた。

宙に浮かぶ複数の撮影用ドローン。

壁際に倒れた、赤い軽装鎧の女子生徒。


そして──


部屋の中央に立つ、見上げるほど巨大な赤黒い牛頭の怪物。



「…………」



俺は静かに顔を引っ込めた。



「うーわ……一番来ちゃ駄目な場所じゃん……!」



何だ、あれ。

コボルトより明らかに強い。

ゴブリンとは比べることすら失礼なくらい強そうだ。


というか、江戸川先輩がいる。

しかもテレビ中継中らしい。

浮かんでいるドローンには、テレビ局のロゴまで入っている。



「……よし、帰ろう」



俺は即座に踵を返した。

関わってはいけない。

ここで【一撃必死(マストダイ)】なんて使ったら、全国放送で正体が映ってしまう。

俺の平穏な人生が終わる。


それ以前に、あれほど巨大な魔物を爆発させたら、どれほどの被害が出るか分からない。

だから、これは専門家に任せるべきだ。


俺は今日登録したばかりのE級探索者。

しかも制服姿。

場違いにもほどがある。



『江戸川探索者が動けません!』


『危険です! このままでは──!』



背後から響いた実況の声に、足が止まった。


ほんの一瞬だけ迷う。

俺が戻ったところで、何ができる?


残っている【一撃必死(マストダイ)】は一発。

攻撃を当てれば、あの怪物も倒せるかもしれない。

でも、絶対とは限らない。


失敗すれば俺も死ぬ。

それに成功しても、テレビに映る。



「……知らない人なら、逃げられたのにな」



始業式で、一度見ただけ。

話したこともない。向こうは俺の存在すら知らないだろう。

それでも──


同じ学校の先輩が、すぐそこで殺されそうになっている。

それを知っていて、見なかったことにするのは──



「無理だよなぁ……」



大きなため息が漏れた。

俺は学ランのボタンへ手を掛ける。

制服を脱ぎ、頭から被った。

目元だけ出るように顔面に学ランを巻きつけ、両袖を後頭部で強く結ぶ。


視界は狭い。息苦しい。見た目も、たぶん相当怪しい。

だが、顔を晒すよりはマシだ。



「よし……誰だか分からない。多分」



足元から、手頃な大きさの石を拾う。

残り一発。

これを使えば、今日のノルマは終わる。

そして、当たらなければ──

きっと、俺の人生も終わる。



「落ち着け……」



ボス部屋を覗く。

変異種が、倒れた江戸川先輩へ戦斧を振り下ろそうとしていた。

あの距離で爆発させれば、江戸川先輩まで巻き込むかもしれない。


なら……先に、怪物を先輩から引き離すしかない。


俺は物陰から飛び出した。



「お、おい! そこの牛!」



声が裏返った。

変異種が動きを止める。

金色の目が、ゆっくりと俺へ向けられた。



「こっちだ! こっち来い!」



何をやっているんだろう、俺。

昨日までは、将来公務員になって定時で帰る予定だったのに。

どうしてダンジョン最深部で、巨大な牛の化け物を挑発しているんだ。

マタドールか?


変異種が低く唸る。

そして江戸川先輩から離れ、俺へ身体を向けた。



「ブオオオオオオオッ!!」



咆哮とともに、巨体が突進してくる。

地面が揺れる。

速い。

大きさからは想像できない速度だった。



「いや、速っ!?」



逃げたい。

今すぐ逃げたい。

でも、逃げれば再び江戸川先輩が狙われる。

俺は震える手で石を構えた。



(頼む……!)



慎重に、狙いを定める。

変異種の巨大な頭。

的としては大きい。

それでも、全身が震えて腕がうまく動かない。



(【一撃必死(マストダイ)】……発動してくれ!)



俺は、力いっぱい石を投げた。


ひゅっ──


何の変哲もない小石が、変異種へ向かって飛んでいく。


その瞬間──

俺の右手が、真紅に輝いた。

石にも、同じ赤い光が宿る。



『な……何者でしょうか!?』


『突然、覆面の人物が乱入しました!』


『石を……投げた?』



全国へ流れる実況の声。

江戸川先輩も、床に倒れたまま目を見開いていた。

赤く輝く小石が。

突進する変異種の額へ、吸い込まれるように命中した。


──カッ!!

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