第99話「特殊機体の行方」
長い地下通路の先に、わずかな光が見えていた。
ルーカスは足を止める。
「……出口か?」
ジェイクが周囲を見回した。
「さっきまで地下深くにいたのに、もう地上が近いのか?」
ミリアが端末を確認する。
「この通路、古い搬送路みたい。でも現在の施設マップには登録されてない」
前方を進んでいる三体のロボットは、振り返ることなく歩き続けていた。
その手には、地下未登録区画で取得したデータ装置が握られている。
ルーカスたちは距離を保ちながら後を追った。
やがて通路が終わる。
扉が開いた。
三人の目の前に広がったのは、森に囲まれた古い施設だった。
「……ここ、外なのか?」
ジェイクが驚く。
ミリアは端末を見つめた。
「GPSが戻った。位置は……第1施設からかなり離れてる」
「第2施設とも?」
「違う。どちらからも離れてる」
三体のロボットが施設の中央へ向かう。
そこには巨大な格納庫があった。
錆びた扉の上には、古い文字が残っている。
『特殊機体保管区画』
ミリアの表情が変わった。
「……ここだ」
ルーカスがブレイカーを構える。
「特殊機体っていうのが、あの三体が探してたものか」
「たぶん」
三体のロボットが格納庫の前で停止する。
一体が端末を接続した。
古いシステムが起動する。
『認証情報確認』
『特殊機体データ照合』
『保管状態――休眠』
巨大な格納庫の扉がゆっくりと開いていく。
ギギギ……。
内部は暗かった。
だが、奥には巨大な影があった。
人型。
これまで見てきた戦闘ロボットとは明らかに違う。
全身を装甲で覆われ、両腕には大型の武装。
しかし、その機体は動いていない。
ただ静かに立っていた。
ジェイクが息を呑む。
「……でかいな」
ミリアが端末を確認する。
「起動してない」
「じゃあ、あの三体は何をしに来た?」
ルーカスが尋ねる。
ミリアは画面を見つめた。
「機体を動かすんじゃない」
「じゃあ?」
「位置情報を確認してる」
三体のロボットからデータ装置へ情報が送られる。
『特殊機体位置――確認』
『搬送命令――未発令』
『現在任務――継続』
三体は特殊機体に近づくことなく、格納庫の外へ向きを変えた。
「……行っちゃうぞ」
ジェイクが構える。
ルーカスも一歩前に出た。
だが、ミリアが止めた。
「待って」
「何だ?」
「こっちを攻撃する気がない」
三体のロボットは、そのまま森の奥へ進んでいく。
ルーカスはしばらく見送った。
「……結局、あいつらは何だったんだ?」
「施設から与えられた命令を実行してただけだと思う」
ミリアは端末を操作する。
その瞬間、画面に大量の表示が流れた。
「……終わった」
「何が?」
「第1施設との通信が完全に切れた」
ミリアは続ける。
「第1施設から出ていたロボットへの制御信号も停止してる」
ジェイクが振り返った。
「じゃあ、もう暴走は?」
「少なくとも、あの施設から新しい命令が出ることはない」
ルーカスは静かに息を吐いた。
長かった。
学校から始まった異常。
工場。
研究施設。
地下施設。
何度も戦い、何度も傷つきながら、ようやくここまで辿り着いた。
それでも、すべてが終わったわけではない。
ミリアが画面を見つめる。
「……17%だけ送られたデータも、もう動いてない」
「17%?」
「前に止めた緊急転送。あれのこと」
「じゃあ、そのデータは?」
「分からない。でも、今は送信されてない」
ジェイクが肩を回した。
「なら、とりあえず終わりってことでいいんじゃないか?」
ルーカスは格納庫の奥を見る。
特殊機体は、まだ眠ったままだ。
「……そうだな」
三人は施設を後にする。
森の中へ歩き出した。
その背後で、格納庫の扉がゆっくりと閉じていく。
――ガシャン。
暗闇の中。
特殊機体は動かない。
ただ、その胸部にある小さなランプが、一瞬だけ赤く点灯した。
そして消えた。
ルーカスたちは、それに気づくことなく歩き続けた。
第99話 完




