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日曜日、佐々木三兄妹は連れ立って家を出た。目的地は遊園地だ。家からそれほど遠いわけではなかったが、三人はあえてタクシーを使うことにした。誰一人として、まだタクシーに乗ったことがなかったからだ。
助手席に座った長男の悠人は、後部座席を振り返って二人がシートベルトを締めているかを確認した。次男の蒼大は、ベルトを緩めたまま退屈そうに窓の外を眺めており、末っ子の芽生は鼻歌をまじりに、バケットリストを記したメモの項目を一行、取り消し線で消しているところだった。
正面に向き直った悠人は、窓から差し込む陽光を顔いっぱいに浴び、思わず笑みをこぼした。親の付き添いなしで、子供たちだけで遊びに行くのは今回が初めてだ。許可を得ずにこっそり抜け出してきたため多少の不安はあったが、自分たちだけで自由に遊園地を歩き回れるのだと思うと、胸が高鳴った。
道中、後ろの二人で小競り合いが始まった。どうやら蒼大が芽生のバケットリストに余計な口出しをしたらしい。悠人がため息をつき、後ろをたしなめようと首を巡らせた瞬間――爆発的な音とともに、凄まじい衝撃がタクシーを襲った。
ダッシュボードから飛び出したエアバッグに顔面を強打され、悠人はそのまま意識を失った。
どのくらい時間が経っただろうか。ようやく意識を取り戻した悠人が目を開けると、そこはまだタクシーの中だった。だが、車体は無残にひしゃげ、車内は異様に狭まっている。立ち込める煙の臭いに再び意識が遠のきそうになったが、なんとか堪えた。
視界の先で、ルームミラーに吊るされたペンダントだけが、振り子のように左右に揺れている。翼の形をしたそれを催眠術にでもかかったかのようにぼんやりと見つめていると、どこからか微かに血の匂いが漂ってきた。その匂いに、悠人の意識は急速に現実へと引き戻された。
痛む首に力を込め、かろうじて顔を向けると、脱げ落ちた蒼大の片方の靴が目に入った。続いて、芽生の血に染まった手が見えた。その小さな手はぴくりとも動かず、それでも頑なにバケットリストのメモを握りしめている。
悠人は、それ以上後ろを振り返る勇気が持てなかった。代わりに、何かに突き動かされるように手を伸ばし、芽生の手にあったメモを抜き取ると、再び深い闇の中へと落ちていった。




