別れの曲は
「それじゃあ、ここでお別れだね。」
ここにあるのはマリアの店の前、彼女が帰る家。当たり前だけどここでマリアともお別れだ。
まあいろいろあったけどいざここで別れると思うと名残り惜しくなる。
「ねえ、ロゼリア。ここで一泊しない?私疲れちゃって〜!」
「あんだけ気持ちよさそうに寝といて何を言ってるんですか。
駄目ですよ、またここから半日馬車走らせなけばなりせんし、それに彼女達のご両親もお城で彼女達の帰りを待っています。なによりアリス様も予定が溜まりに溜まっておりますので。」
予定?それは初めて聞きましたぞ?
名残り惜しい気持ちがいっきに困惑へと変わる。
「あたし的にはずっと居てもらってもいいけどね。あの二人を除いて。」
マリアは双子ーずをじっと見つめた。
なんでそうしたか知ってか知らずか姉は笑顔でその行為を好意で返した。
「私はもっとマリアちゃんと話したかったし一緒にいたかったなー。でも私達もいい加減帰らないとお父さんに怒られるし…。」
「大丈夫大丈夫ですよお姉ちゃん、一度縁ができたらそう簡単に切れません、だから身体は離れてますけど心は離れません。
マリアさん私あたし達と貴方は一心同体一緒に導体です。
なのでこれからも末永くよろしくお願いします。」
「あたしは末永くお断りしますけど。」
口ではそんなことを言っているマリアもその時の顔はとても満更でもない表情していた。
これで彼女の貴族嫌いも直ればいいのかな…。
「アリス様、そろそろ出発のお時間です。」
「そっか。」
私は彼女の元に向かうと手を差し伸べた。マリアもそれに答えるように手を握る。
マリアのこの気温よりも熱い体温がそこからジワリと私の元に伝わってくる。
「これで本当にお別れだね。」
「お別れってまるで最後みたいに、またマリアの仕入れの時についていけばいつでも会えるじゃん。いやお忍びで行けばいいのか。」
「それはやめてくだい、私達が困ります。」
「ははっ…、そう…そうだね…いつでも会える…会えるか…。」
彼女は寂しそな小声で皆に聞こえないように呟いた。
「そうだ、アリスちゃん、帰る前に1つお願い聞いてもらっていいかな?」
「うん、なに?なんでも言って!ただし私に出来ること前提で!」
「大丈夫、これはアリスちゃんにしか、できないこと。
それは…、私のため、私の為だけに歌ってほしいんだ。」
日が陰り暑さも収まりつつある中、灯りも客席も屋根もない今日限定の会場でただ一人のファンのためだけに歌った。
ここにいるのは彼女だけ、ロゼリアと双子ーずは先に場所の中に入ってもらった。
ここは正真正銘彼女だけのステージ。
身体中が熱くなり汗だくになりながらも私はまだ誰にも披露してない秘密で秘蔵の曲を彼女に贈る。
そんな私を彼女は今まで聞いたことのない大声で、涙を流し、身体を大きく動かし応えた。
まるで本当にこれが最後の別れになることを知っているかのように必死で、全身全霊をかけて。





