第2話 従者として
一か月が立った。
俺の足もすっかりよくなっていた。その回復の速さから、ああ、ここはやっぱり異世界なんだなと感じていた。
「さて、今日から、仕事はじめってわけだ。確か、今日からソフィアの部屋に来るように言われてるんだよな」
俺は早速ソフィアの部屋に向かった。と言っても従者である俺の部屋から、ソフィアの部屋はすぐ近くだった。
コンコンコン
俺はソフィアの部屋の扉をノックした。
「どうぞ」
そんな声が聞こえたので俺は遠慮なく部屋の扉を開けた。
「ユキ殿、おはようございます」
「あ、ああ、おはよう」
ソフィアはすでに起きて身支度まで済ませていた。
「では、早速、従者について説明しますね」
「頼む」
従者である俺が王女であるソフィアに対して敬語も何も使っていないのはソフィアの望みだった。とはいえ、人前ではソフィア様、とか殿下などを言わなければならないというのが正直面倒だと思うとこだ。
「はい、従者とは、私に付き従うもののことを言います。ユキ殿の仕事としては、今日は自分でしましたが、朝の支度を手伝っていただきます」
「支度って?」
「そうですね、指定の時刻に起こしていただいた後、着替えなどの身支度ですね」
俺はそれを聞いた驚愕した。
「き、着替えって、俺、男なんだけど」
「ええ、もちろんわかっていますよ」
ソフィアはさも当然とばかりに言ってきた。
「いや、男に着替えの手伝いをさせるって、こういうのは普通、メイドとかがやるんじゃないのか」
「ええ、確かに、王女の従者となるものは女性がほとんどですが、私にはユキ殿しかおりませんから」
俺はだからそう言われてもと反論しようとしたがソフィアはさも当然とばかりにそう告げているのであきらめた。
「そのほかの仕事としては、私の予定を管理していただきます。まぁ、これが主な仕事となると思います」
「なるほど、わかった、それじゃ、とりあえず今日からソフィアの予定を把握すればいいってことか」
「ええ、そうなります」
そのあと今日の主な予定を聞いてから初仕事へと移った。
仕事と言っても基本的にソフィアについて歩くということだった。典型的な日本の高校生である俺は完全な体力不足だった。数時間一緒に行動しただけでばてた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「どうしました」
「い、いや、その、よくこんなに動いていられるなぁ」
俺がそうつぶやくとソフィアは首をかしげていた。
「えっ、疲れましたか?」
「ああ、普段あまり動かなかったから」
「そうですか、では少し休みますか?」
「いや、大丈夫だ」
ソフィアが気遣ってくれたがさすがに男としての矜持がそれを是非としなかった。
それからも動き続けてようやくの昼、この世界は昼食を取るという文化はない、そのかわり簡単な軽食を取る。ソフィアは私室のテラスでいつも軽食を取っていた。俺はその軽食を用意してソフィアのカップに紅茶を注いだ。
「ユキ殿もいかがですか?」
ソフィアから誘いを受けた。
「俺もいいのか?」
「もちろんです」
こうして俺はソフィアの隣に座って昼の軽食を楽しんだ。
午後は午前と同じように城内を歩き回った。ほんとに疲れた。
そして夕飯となる。さすがに王族の昼食だけあってかなり豪華なものだった。と言ってもそれを俺が食えるわけではなかった。よくファンタジーものでもあるように、従者は主と一緒に食事をとることはないそうだ。
ソフィアたちが食べ終え、ソフィアは私室へと戻っていった。
「私は少し休みますのでユキ殿は今のうちに食事を済ましてきてください、場所は私もよく存じませんので、外に控えている騎士に尋ねてください」
「あ、ああ、わかった、どのくらいで戻ればいいんだ」
「そうですね、ゆっくりしてきていいですよ。この後予定もそんなにありませんから」
「確かに、そうだな、わかった、行ってくるよ」
「はい」
外にいた騎士に食堂の場所を尋ねるとすぐにその場所を教えてくれた。
食堂は簡単に言えば質素だった。まぁ、それは先ほどのソフィアたちが食べていた場所に比べると雲泥の差だが、それでも高校の食堂よりも質素だった。
俺が食堂を眺めていると後ろから声をかけられた。
「おっ、お前、今日からソフィア様の従者になったってやつか」
話かけてきたのは、ガタイがしっかりしていて、年齢は俺よりだいぶ上に見える男だった。
「えっ、ああ、そうですけど、何か?」
「なんでぇ、なんでぇ、他人行儀だなぁ」
「いや、今初めて会ったんだから他人では?」
「はははっ、確かにな、今初めてあったのは事実だ。だが、こうして話したんだ。もう他人じゃねぇぜ」
めちゃくちゃだったが、悪くない、この男もかなり人が好さそうで、俺もまたすぐに仲良くなれる気がした。
「まぁいいや、で、何か用なのか?」
「おっ、いいねぇ、そうこなくちゃな、俺は、アレルってんだ」
「俺は、松堂幸仁。まぁ、ユキでいいぜ」
「おう、それじゃ、ユキ、まぁ、ここでは俺が先輩だ、なんでも聞いてくれよ」
「ああ、わかった。そう言えば、アレルって何してるんだ」
「俺か? よくぞ聞いてれたぜ、俺は、工房の職人だ。と言ってもまだ見ならないだけどな」
「へぇ、工房ね、何か作ってるのか?」
「俺はまだ見習いだからな、まだ作ってねぇ、それに城内の工房っていうのは主に修理が基本だからな」
「修理?」
「ああ、王族や貴族、騎士たちが使うものなら壊れれば新しいのを買うけど、俺たちや兵士たちは違う壊れればそれを修理してほんとに使えなくなるまで使い続けなきゃいけねぇ」
「要は平民ってことか」
「そうだ、平民は金がないからな」
「なるほどなぁ、じゃぁ、俺も何か壊れたらアレルに頼めばいいのか」
「そうだな、でも、お前は姫様の従者だからな、ほとんどのものは備品ってことで姫様が用意してくださるんじゃないか」
「そうなのか?」
「たぶんな」
「たぶんかよ、まぁ、いいや、その時は頼むぜ」
「ああ、任せろ」
その後俺はあれるに城内で注意することなどをいろいろレクチャーされた。
夕飯を食べ終え俺はソフィアの下へと戻った。俺が戻るとソフィアは何やら本を読んでいた。
「戻ったのですね」
「ああ、ん、何読んでるんだ」
ソフィアは自分が持っていた本をもう一度見直してから答えた。
「これは、王女が騎士と身分違いの恋をするお話なのですよ」
「へぇ、ソフィアはそう言う話が好きなのか?」
俺は少し意外な気がした。っていうか王女がそんな下賤なものを読んでいいのかとも思ってしまった。
「ふふっ、そうですね、確かに嫌いではないですね。ただ、実際してしまえば大変なことになってしまいますから」
どうやらソフィアはそれぐらいの分別発供養で少しほっとした。
「そ、そうか、まぁ、いいけど、本か? 俺、この世界の文字読めないからな」
「そうでしたね、あっ、そうだ、ユキ殿」
「ん、なに」
ソフィアは名案と言わんばかりに言った。
「明日、お勉強の時間がるのですが、ユキ殿も一緒にいかがですか?」
「勉強か? 俺あんまり好きじゃないんだよなぁ」
「ふふふっ、私もあまり好きではありませんよ。ですが、王女としての教養は必要ですから」
「まぁ、そうだろうな、王女が無知ってわけにもいかないもんな」
「ええ、その通りです。あっ、でも、それについてはユキ殿も同じですよ」
「はっ、どういうことだ」
「ユキ殿は私の従者、ですので、読み書きもできないというわけにはいきませんよ」
「マジでか!」
俺はその現実に少し気を落としていた。でも、考えようによってはいいかもしれない、文字が読めるようになればいろいろ、便利だからな、こうして俺はソフィアとともに読み書きの勉強をすることとなった。




