第19話 霧丸を求めて パートⅢ
霧丸を探して、虎作さんのところに行けば領主に奪われていて、領主のところに行けば、今度は国王に献上したという、たらい回しみたいな旅になってきた。
俺たちは今後どうするか宿の一階の酒場で緊急会議をすることになった。
そこで、同行しているソフィアの騎士ムルダが言った。
「ユキ、これは、姫様のお力をお借りすべき時ではないか」
という、これは、俺が旅に出るときに預かったものを使うということだ。
「ユキ殿、これを」
そう言ってソフィアが俺に手紙のようなものを手渡した。
「なんだこれ」
「はい、それは、ユキ殿の身元を保証するものです。もし、キリマルがバルノール王国の宝となっている場合、いくらコスケ殿の子孫が渡すといったとしてもバルノール王国がそれを許さないでしょう、その場合、国王陛下に謁見する必要があります。これはそのときにお使いください」
「いや、これは俺の、松堂家の問題だ。ソフィアに迷惑をかけるわけにはいかない」
「いいえ、ユキ殿とサオリ様の問題は私の問題でもあります。遠慮なくぜひお使いください」
というものだった。
俺はカバンの中からソフィアから受け取った封書を手に考えた。
「これは最終手段だ」
「だが、それしか方法はないだろ、それに、お前は知らないだろうがバルノールの王妃は陛下の姉君、つまり、姫様の伯母にあたるんだ。話せばわかってくださる」
「確かにそれは初めて聞いたけど、いや、でもな」
俺はまだ抵抗があった。
「ユキ、それしかない以上、使わせてもらうしかないんじゃない」
姉ちゃんまで言ってきた。
「幸仁って本当に従者なんだ」
虎凛がなんだか感心していた。
「わかった、一晩考えさせてくれ」
「そうね、そうしなさい、明日になれば理美ちゃんも帰ってくるし、あの子の意見も聞いてみてからでもいいんじゃない」
「そ、そうだな、そうするよ」
こうして会議を終え俺たちはのんびりとティナルの街を散策して過ごした。
その間に俺は一応ソフィアに事の顛末を報告するために手紙を書いて送った。
次の日になり、理美が帰ってきたことで改めて会議を開いた。
「というわけで、ソフィアの力を使うかどうか、理美はどう思う」
「そうね、まぁ、それしかないと思う、私もあの後フェリスと少し考えてみたけど、思いつかなかったからね」
「そっか、それしかないか……仕方ない、それじゃ、ソフィア力を借りるぞ」
俺はそう決意した。
それからまた俺たちは予定になかったバルノールの王都に向かうことになった。
王都は、ここティナルから馬車でも十日ほどの長旅だ。
急ぎではないが、なるべく早く旅を終えたいので心なしか急いだ旅路となった。
そして二日たったところで、姉ちゃんと虎凛、ムルダの三人がそれぞれ何かを感じたようだった。
「この旅はじめての客みたい、理美ちゃん、ユキ隠れてなさい」
「盗賊か何か」
俺がそう尋ねるとムルダが答えた。
「おそらくな、それもかなりの手練れぞろいだ」
「そうね、でも、まぁ、こっちは私たちがいるから、安心しなさい」
そう言いながら初めての実践だっていうのに姉ちゃんは緊張もしていなかった。
「サオリ殿は、本当に実戦は初めてなのですか」
その様子にムルダが驚いていた。
「ええ、はじめてよ、真剣はね」
するとあっという間に俺たちは複数人に囲まれたらしい。
俺と理美はどうなるんだと恐る恐るあたりを見ていたが、姉ちゃんんと虎凛が手早く外に出て行った。
「おいおい、かなり上玉じゃねぇか、こいつらなら高く売れるぜ」
ゲスな声が聞こえてきた。
「お前たち、命がほしければここを立ち去れ」
威勢よく言ったのはムルダだった。
「はっ、去るのはお前のほうだぜ、へへっ」
「警告はしたぞ」
ムルダがそう言って構えた。それに応じて盗賊たちも構えだした。
「ムルダさん、ここは私に任せて」
そう言って前に出たのは姉ちゃんだった。
「しかし、サオリ殿」
「私も実践を経験しておかないとね」
姉ちゃんはやる気いっぱいだった。
「わかりました、ここはお願いします」
「任せて」
そう言って姉ちゃんは腰の日本刀を抜刀に構えた。
「なんだ、姉ちゃんが相手してくれんのか」
盗賊たちはこれからの自分たちの運命をまだわかっていないようだった。
「ねぇユキ、沙織さん大丈夫なの」
「あ、ああ、大丈夫だよ、姉ちゃんの強さはばけものなみだからな」
俺がそういうと理美は違うことを思ったようだった。
「そうじゃなくて」
「ああ、人を斬ることか」
「う、うん」
俺があっさりとそう答えたので理美はあっけにとられていた。
「それなら問題ないよ、信じられないかもしれないけど、これが松堂家なんだ。松堂家の人間は昔からそういったことに抵抗がないんだ。まぁ、だからといって、斬りたいわけじゃなけどな、俺でもたぶんその時が来れば抵抗なく斬れると思う」
「やっぱり、ユキも普通ではないんだね」
「これ以外は普通だと思うけどな」
俺たちがそんな会話をしている間にどうやら外では姉ちゃんが敵をほとんど斬り捨てていたようだ。外から悲鳴が聞こえてきた。
「姉ちゃんやっているみたいだな」
すると少しして悲鳴が遠くなっていた。
「逃げてったわ」
そう言って姉ちゃんが馬車の中に入ってきた。
「さすがは沙織ほんとに強い」
「うふふ、ありがと」
帰ってきた姉ちゃんは返り血一つ浴びていなかったが、持っていた刀には血がべっとりとついていた。
「ちゃんと整備しないとね」
そう言って平然と血をぬぐい手入れを始めた。その様子を見た理美は顔を蒼くしていた。
「姉ちゃん、理美が引いてるぜ」
「えっ、あら、ごめんね、理美ちゃん、怖かった」
「え、えっと、はい、でも、沙織さんだからいいです」
俺はなんだそれと心で突っ込んだ。
それからしばらくするとまた盗賊が現れて、今度は虎凛んが撃退した。
「なんだか、ここら辺治安悪いな」
「バルノールでもここら辺は悪いほうなのよ。この辺りは昔、大盗賊がいたらしくて、その影響らしいけど、国も何度も討伐隊を送っているんだけど、数が多くて」
「なるほど、そういうことか」
俺たちはなんだか納得していた。
こうして俺たちの旅は血なまぐさいものとなりつつ王都に向かった。たどり着いたころにはいい加減疲れていた。
「ふぅ、やっと着いたな」
「そうね、さすがに疲れたわ」
「なんか、精神的に疲れたよ、数多すぎ」
「だよね」
「これではバルノールも苦労するな」
俺たちは思い思いの感想を述べていた。
「今日はもう宿をとって休みましょう、明日、謁見の約束をとるってことでいいわよね」
姉ちゃんの意見だった。
疲れ果てていたみんなはその意見に賛成した。
次の日、疲れもようやく取れて俺たちは城に行くことにした。
国王への謁見はいつになるかわからないので、のんびりすることにした。
「すみません」
俺は門番に話しかけた。
「なんだ」
「国王陛下に謁見を賜りたいのですが」
「なに、謁見だと、ふざけるな、ここをどこだと思っている、さぁ、邪魔だ帰れ帰れ」
どこの門番も似たようなものだなと思った。
「いや、実はこういうものを持っているんだけど」
そう言って俺はソフィアの封書を手に取って見せた。
「なんだ、これは」
門番が無造作に手を伸ばしてきたので俺はあわてて手を引いた。
握るつぶれたらたまらないからな。
「そんな無造作につかみに来ないでもらいたいな、これは、トリタニア王国第二王女ソフィア殿下の封書、然るべく方に見て抱く必要がある」
そう言って俺は蜜蝋の模様を見せた。
すると門番は驚愕の顔をした。
「そ、それは、確かにトリタニアの紋章、貴様、どこでそれを」
「この方は、ソフィア殿下の従者だ」
そういったのはムルダだった。
「従者、本当か」
まだ怪しんでいるようだった。
「そういう貴様は?」
「俺は、ソフィア殿下の騎士ムルダだ」
そう言ってムルダはその騎士のあかしを掲げた。
「むっ、確かにそれはソフィア殿下の、では本当にこの者は……」
「まぁ、一応、それで、頼めますか」
「お待ちください」
そう言って門番は奥へと引っ込んでいった。
しばらくして一人の壮年の男性が出てきた。
「お待たせいたしました、私は、イリーナ様の執事をしております。モリスと申します」
どうやらいきなり王妃の執事が現れたようだ。
「初めまして、ソフィア殿下の従者、ユキと申します」
俺もそこでたたずまいを直して従者らしくあいさつした。
「本日はどういったご用向きでしょうか」
「お忙しいところ申し訳ない、実は私用での訪問でして、まずはこちらを姫様からこのために預かったものです」
「拝見いたします」
そう言ってモリスさんは俺から封書を受け取った。
「確かにこれはトリタニアの紋章、間違いございません」
「陛下に伺いたいことがあります、謁見を願えませんか」
「謁見ですか、わかりました、確認してまいりましょう、宿はどちらでしょうか?」
「はい、トリス・ナルバという宿です」
「トリス・ナルバですか、かしこ参りました、結果は追ってお知らせいたします」
「よろしくお願いします」
こうして俺はソフィアの封書をモリスさんに渡して、国王との謁見を願えることができた。
「あとは運に任せるしかないか」
「そうね」
それから二日後ダメだったかとあきらめかけたときようやく返事が来た。その内容はひとまず会いたいという王妃からの答えだった。しかも、俺一人で来いとのことだった。
「どうする、行くの」
姉ちゃんが心配そうに聞いてきた。
「ああ、それしかないからね、まぁ、ソフィアの伯母だっていうし、大丈夫だろ、ソフィアも優しい人だって言ってたし」
「そう、まぁ、何かあったらすぐに駆け付けるから行ってきなさい」
「ああ、ないと思うけど、そのときは頼むよ姉ちゃん」
俺はそう言って使者とともに城に向かった。
城につくと早速身体検査が行われた。
といっても俺は武器になるものは持っていなかったのですぐに通された。
城の中は豪華絢爛だった。俺も普段城に住んでいるから少しくらい豪華なものには慣れているつもりだった。しかし、今思うとトリタニアの城はずいぶん質素だったんだなと思いたくなるほどの豪華さだった。
そういえば、アレルが言ってたな、バルノールは見栄っ張りが多いって、カスパル公爵の屋敷もかなり豪華だった、そう思いながら俺はあたりをきょろきょろと田舎者みたいに見てしまい、通りかかった貴族風のおばさんににらまれた。
「こちらです。どうぞ」
「あ、はい、ありがとうございます」
俺は丁寧に通された。
俺も城勤めをしているので、今通された応接間がどんな部屋かはわかる。
城には客によって応接間を変える習慣がある。
俺が通されたのはおそらく一番程度の低い部屋だ。
まぁ、それでもかなり豪華なんだけど、たぶん王妃が呼んだ客でしかも平民だからだと思う。俺はそう思いながらソファに座ってあたりを見ていると、扉がノックされた。
「失礼します」
俺はすぐさま立ち上がり頭を下げた。
「お待たせいたしましたわ、あなたがユキ殿ですね」
なんだか優しそうな声がした。
「はい、そうですが、なぜ、俺の名を」
「ふふ、あなたが持参したソフィアからの手紙に書いてありました。ソフィアは相当あなたを信頼しているようですね。ここにはあなたに協力をするようにと書かれてありましたよ」
俺はそれを聞いてソフィアならそんなことを書くんじゃないかと思い少し微笑みながら答えた。
「ありがとうございます、姫様はどこの誰かもわからない俺を従者に下くださいましたから」
「そのようですね。さて、ここにはあなたが剣を探しているとありますが」
「はい、霧丸という剣です。霧丸は俺の先祖が天皇、まぁ、国王に相当する方ですが授かったのもです」
「まぁ、国王様からですか」
「はい、それ以来我が家の家宝として大切にしてきたものなのですが、故あって、百年前失われてしまいました」
「そうですか、それは残念ですね」
イリーナ王妃は同情するような表情をした。
「はい、ですが、その剣がこのバルノールにあることが分かったのです。そこで、姫様の許しを得て、探しに来たというわけです」
イリーナ王妃は黙って俺の話を聞いてくれた。
「イリーナ様はご存知ですか、カスパル公爵閣下の領地に剣の達人がいるということを、彼は数多くの戦役で活躍したと聞いております」
「ええ、存じております。確か、コサク殿と申されたと思いますが」
「はい、そうです、彼は、我が一族の人間です。彼の祖父に当たる虎助というものが霧丸持ったまま行くへ知れずとなりまして、我々も探していたのですが、先ごろバルノールにいることが分かったのです」
「そうでしたか、それで、お会いになれたのですか」
「はい、ですが、霧丸は、先代のカスパル公爵閣下により接収されてしまっていたのですそこで、たまたま共にカスパル公爵のご令嬢の友人がおりまして、会えたのですが、そこで、今度は先代がデュランダルと名付け陛下へ献上されと聞きまして、こうして、謁見をたまりたいと願ったのです」
「そうでしたか、それはご苦労様ですね」
「いえ、これは俺の次期当主としての役目ですから」
「そうですか、わかりました、ソフィアからの頼みでもありますし、協力いたしましょう」
それからイリーナ王妃は部屋から出て行った。
俺はお礼を言ってからその後姿を見送った。
そのあとモリスさんにまた宿に連絡をするということで俺はその場を後にした。
それから宿に戻った俺は姉ちゃんたちにそのことを報告した。
「というわけで、また連絡が来るのを待つしかないってわけ」
「そう、まぁ、しょうがないわね」
それから俺たちは宿に必ず一人以上が残るように交代で街の散策をすることにした。
その際必ず一人は松堂の人間、つまり俺と姉ちゃんと虎凛の誰かがいることにした。
連絡は次の日にやってきた。
そのとき偶然にも俺以外の全員が出かけていた。
しかも連絡係はモリスさんだった。
ちょうど俺がいたので俺が対応できた。
「モリスさん、自ら来られるとは思いもせず、すみません」
「いえ、突然の訪問をお許しください」
「それではご報告させていただきます。謁見の件ですがそれは申し訳ありませんができません」
俺はやはりと思うと同時に少し残念だった。
「そ、そうですか、仕方ありません」
「ですが、謁見はできないのではなく必要がないからです」
俺はモリスさんの次の言葉に驚愕した。
「ど、どういうことですか」
「はい、あの後イリーナ様は陛下にお尋ねになられました。すると、デュランダルのことは陛下も覚えておられたようです。陛下によりますと、トリタニア王国と同盟を結んだ際、友好の品として贈られたとのことです」
「えっ、そ、それは、本当ですか」
俺は驚愕を通り越して叫びそうになった。
「はい、間違いございません、そのあと、調べましたので」
「そ、そうですか、わかりました、イリーナ王妃と陛下にお騒がしたことへの詫びと、お礼をお伝えください。それから、モリスさんもわざわざありがとうございます」
俺はちょっとしたショックから無理やり立ち直りつつそういった。
「ええ、では、私はこれで失礼いたします」
こうしてモリスさんは帰っていった。
残された俺はショックが再びやってきてうなだれていた。
「まじかよ、まさかトリタニアにあるとはな」
そこに姉ちゃんと理美が帰ってきた。
「ユキどうしたの、何かあった」
さすが姉ちゃん俺の様子の違いに気が付いたようだ。
一方理美ははてなマークを出していた。
「ああ、さっきモリスさんが来たんだ」
「それで、謁見はできるの」
「いや、できない、というかその必要もなくなったよ」
「どういうこと」
「まぁ、あとは、みんな帰ったら説明するよ」
それから俺たちは虎凛とムルダを待った。
しばらくしてようやく全員がそろった。
「それで、なんだったの」
理美が最初に尋ねてきた。
「ああ、虎凛とムルダにはまだ言ってないけど、謁見は必要なくなった」
「どういうこと」
虎凛も不思議に思ったようだ。
「イリーナ王妃があの後国王に尋ねてくれてな、そうしたら、トリタニアとの同盟の際に友好の品として霧丸を送ったらしい、モリスさんの調べでも間違いなく送っている。つまり、俺たちが苦労してここまで来たのは無駄だったってことだ」
「そ、そんな」
「ちょっと、なんでそれわからなかったの」
そういったの虎凛、当然のことだった。
「俺もまさか、ずっと同じ場所にあるとは思わなかったし、何より名前も変わっているしな」
「そうね、私もわからなかったし、想像もしていなかったわ」
「ああ、俺もだ、確かにあの時友好の品が送られてきたが、俺はその品を見てないからな」
そう答えたのはムルダだ。
「それじゃ、もうここにいる理由もないってこと」
「そういうことだな、といってもなんだか今日は疲れたからな、帰るのは明日にしよう」
「そうね、それがいいわね」
「確かに、疲れたわね」
「う、うん」
「そうだな」
それぞれが疲れたようだった。
それから、少し休んだのち、俺たちは全員で街に繰り出した。
こっちの世界にはないようだが俺と姉ちゃんの提案で土産を買うことにしたのだ。
土産は、ソフィアやアレルなど、工房の連中と騎士連中に買った。
数が多いので結構な額となっていた。
姉ちゃんは日本の友達に買ったようだ。
そのあとは食料などを買ってその日は早めに解散した。
次の日、用の亡くなったティナルを離れてトリタニアに向かうことになった。
ここティナルから、トリタニアの王都に向かうには、来た道ではなく、直接街道ができている。といってもかなり遠いので行程は半月ほどだ。それでも来た道を変えるのに比べれば数日早く着くことができる。
昨日の段階で今日帰ることをアレルに手紙を出した。
アレルに出した理由はそのほうが早く着くからだ。ソフィアに出せば面倒な手順が増えるからだ。これでアレルから騎士に話が通りソフィアに届くということだ。
行きとは違って虎凛が増えたことでにぎやかにトリタニアに帰っていった。
途中虎凛は故郷に思いを巡らせていた。




