第14話 滅亡
ショウドウを作ってからしばらく忙しかった俺たちだったが最近ようやく落ち着いてきた。
「ふぅ、まさか、あそこまでになるとは思わなかったな」
「ふふ、ご苦労様です、ユキ殿」
そういいながらソフィアは俺の肩を揉んでいた。
「ユキ、あんた、なに、王女様に肩なんてもませているのよ、ばち当たるわよ」
「いいのですよ、サオリ様、私がしてさしあげたいのですから」
「ソフィアは本当に優しいのね」
「い、いえ、そのようなことは」
俺とソフィア、そして、姉ちゃんは久しぶりにソフィアの私室で会話を楽しんでいた。
コンコンコン
そのとき突然ノック音が聞こえた。
「姫様、火急の知らせが届いております」
するとソフィアの騎士の一人が扉の外から言った。
それを聞いたソフィアは俺に目で合図をした。
俺はうなずくと扉に向かい、一応警戒しながら扉を開けた。
入ってきた騎士はいつもと違い真面目な様子で報告をしてきた。それを見た俺とソフィアの顔に緊張が走った。
「何事ですか」
「はっ、我が国と友好であり、貿易のかなめとなっていた。ジャポニ国が滅亡いたしました」
「!!」
ソフィアと俺の顔が固まった。
「そ、それは、誠ですか」
「はい、間違いございません」
「な、なぜ、ジャポニが?」
「ねぇ、どうしたの」
それまで黙っていた姉ちゃんが俺たちのただならぬ雰囲気を察して訪ねてきた。
「ん、ああ、えっと、実はさ……」
俺は姉ちゃんにジャポニ国について話した。
ジャポニ国とは、トリタニア王国の北東部にある唯一の港町から十時の方角に大型船で一週間の距離にある小さな島国のとこだ。
この国の歴史は古く、ひとつの一族が八千年も主君を名乗り続けた国だ。
実はこの八千年というのはこの世界でもトップクラスだそうだ。トリタニアもソフィアの一族が王家となって五千年ぐらいらしい、俺としてはこれでもすごいと思ったが、この世界ではこれが標準だそうだ。
しかも、実はこの国で俺が一番驚いたことがある。それは、名前もそうだけど、聞けば聞くほど、ジャポニという国は、日本によく似ていた。
まず、主君は自らを神の子孫と名乗っているらしい、日本の天皇と同じだ。
そして、この主君はある時、武勲を上げた将軍に政治を任せていた。その将軍は一千年もの間政治を司っていた。これも日本の征夷大将軍と同じ、しかもその将軍が政治をするためには激しい内乱が起きていた。いわゆる戦国時代があった。さらに、将軍が収めた世が終わると今度は民が投票で選び、選ばれたものが政治を行うといういわゆる大統領制となったそうだ。
さらに、ジャポニは千年前まで激しい戦争をしていた。そのとき海を挟んだ隣国、そう、ちょうど日本と朝鮮ぐらいの関係の国、チャルム王国があった。
ジャポニはこのチャルム王国に戦争を仕掛け国民を蹂躙し、勝利をおさめた。
そこでチャルムは滅んでしまった。しかし、勝利の美酒に酔うジャポニはスキを突かれモメルア連合国に敗北した。
そして敗北したジャポニは軍を解体する羽目となり、その代りモメルア連合国の軍が配備されることなった。まぁ、簡単に言えば第二次世界大戦後の日本とアメリカみたいなものだけど、その敗北でチャルムの民はジャポニから解放された。しかし、チャルムの民はジャポニに対して恨みを強く持っていたが、恨みを晴らすべくジャポニはモメリアにより武器を取り上げられ丸腰となっており、さらにジャポニに手を出すということは大国であるモメリア連合国に敵対するということでもあることで手が出せない状況となっていた。聞けば聞くほど日本に酷似していて、俺は驚愕を通り越して茫然としていしまった。
「という国なんだ、驚いただろ」
「……え、ええ、ほんとに、そっくりね」
「ああ、それだけじゃなくてさ、技術も高くて、実は工房で使っている道具とかジャポニ製のものとか結構あるんだ。職人たちもジャポニ出身者多いし」
「そうなの、それじゃ、その人たち」
「ええ、故郷を失ってしまいました」
急に部屋の空気が重くなった。
「……連中のためにもなんでほろんだのか調べないとな」
俺のつぶやきにソフィアと姉ちゃんが同意した。
「そうね、それがいいでしょうね」
「はい、そう思います」
それから俺とソフィアは姉ちゃんと別れてジャポニ滅亡の真相を知るために国王のところへ向かった。
「お父様、お忙しいところ申し訳ありません」
ソフィアはアポもとらずに国王のもとへ言ったためにまずそうわびた。
「おお、ソフィアか、よくぞ参った。して、何ようかな」
「はい、実は、先ほどジャポニ国が滅亡したと小耳にはさみました。私の工房にはジャポニ国出身のものもおりますれば、ぜひ詳細をお聞かせ願えませんでしょうか?」
「そうか、うむ、いいだろう」
こうして簡単であるが国王からジャポニ滅亡の話を聞いた。
それによるとモメリアがジャポニに軍を再編するようにと打診し、それを受けたジャポニ政府は国民の反対を押し切ってこれを遂行、それによりジャポニに置いていたモメリア軍はジャポニから撤退した。
それからしばらくは今まで通りの平和な日々が続いていたが、或る時突然チャルムがジャポニに侵攻ジャポニの新制軍はもともと自衛のための部隊を軍にしただけだったこともあり、実戦経験は全くなかった。それに対してチャルムの軍は自国の周辺の国々と実戦経験を積んでいたために、その戦力は歴然、あっという間に都まで侵略を受けた。
しかも、政府の連中は我が身可愛さに、八千年続いたジャポニの主君をチャルム軍に差し出したのだった。
もちろんこれにも国民は怒り心頭となったが、国民はみなチャルム政府にとらえられていたために何もすることもできず、主君は処刑された。
これにより八千年続いたジャポニがほろんだのだった。
ちなみに政府の連中も全員残らず処刑されたらしい。
「ひどい」
「うむ、昔の戦争ではよくあることを一千年も恨み続け、それをその間戦争とは無縁だった国に実行するとは、人道的とは思えん」
「はい、すぐにでもチャルムに抗議をするべきです」
「そうだな、しかし、それもできん」
「なぜですか?」
俺もソフィアもわからなかった。いくら国交がないとはいえそれぐらいはできると思ったからだった。
「チャルムもまた、もうすでにほろんでおるからだ」
俺とソフィアに再び衝撃が走った。
「ほろんで、ってどういうことですか?」
「実はな……」
話によると、ジャポニがほろんだ直後急にもメリア軍が引き返してきて、チャルム軍を攻撃、これもやはり錬度の違いが出た。チャルムは確かに実戦経験をある程度積んでいた。しかし、モメリアは積極的に戦争をしていて、最近までも同じ大陸の国と戦争をしていた。つまり常に戦い続けている国だ。そのためチャルムでは相手にもならなかった。
そしてモメリアはその勢いのままチャルム本国まで攻め入り、ついにチャルムもほろんだということだった。しかし、ジャポニは政府も主君も処刑され、国民もほとんどが獄中で拷問死か虐殺されていたりたため、国としての再起は不可能に近かった。そのため、モメリアがジャポニとチャルムの領土を手にいれた形なってしまったらしい。
「そ、そんな、まさか」
さすがのソフィアは言葉も出なかった。
俺のほうも顔面を蒼白にしながら国王の話を聞いていた。なんだか、将来の日本の話を聞いているようで人ごとに思えなかったからだった。
「まことじゃ、しかし、わしが思うにこれらは、おそらくモメリアの謀略だろう」
そこに来て国王は衝撃的なことを言った。
「謀略? どういうことですか?」
「この戦いでモメリアはジャポニとチャルムの両国を手に入れることができた。実はこれによりモメリアは別大陸侵攻の足がかりができたということだ」
「足がかりですか?」
「うむ、モメリアはすでに一つの大陸を手に入れつつある、そこで、次の大陸に目を向けたのだろう」
つまり、モメリアは丸腰だったジャポニに軍という武器を持たせることで、チャルムに攻撃をさせる。そのうえでジャポニを助けるという名目でチャルムと交戦、そのままチャルム侵攻をするということだ。
しかし、モメリアが思っていたよりもジャポニが弱くあっという間に滅んでしまったのだろうと、国王は推理した。
実は俺も話を聞いていて俺もそう思った。
国王の話を聞き終わり俺とソフィアは続いて聞いた話を職人たちにするために工房に向かっていた。
「気が重いよな」
「はい、ですが、話さなければなりません」
「そうだな」
俺たちが工房につくと職人たちはいつも通り仕事をしていた。
「これは、姫様、いかがなされました」
俺たちに気が付いたアレルが走り寄ってきた。
「アレル、問題が起きた。とりあえず、お前と理美、あとはゼベル爺さんをお前の部屋へ」
「わかった、おい、誰かゼベル爺さんを呼んでくれ」
「はい」
職人の一人がアレルの命令ですぐにゼベル爺さんを呼びに行った。
「リミは自分の部屋にいる」
「そうか、それじゃ、行くか」
俺たちはこぞって歩き出した。
工房室につくとすぐに理美を呼びに行った。
「おい、理美、俺だ、すぐに来てくれ」
「今行く」
中から理美の声が聞こえた。
少しして理美とゼベル爺さんが工房調質に集まった。
「今日はどうしたんだ、問題っていったいなんだ」
アレルが当然俺に聞いてきた。
「ああ、実はな……」
俺はジャポニが滅亡したことをすべて話した。
「おいおい、まじかよ」
「ああ、今さっき国王陛下に確認した」
「そんな、ジャポニが」
理美も青ざめていた。
理美は小三でこっちに来ていたから日本の状況はほとんどわからなかった。しかし、この工房に来て、両親や田中たちに電話で話をしたり、携帯のニュースで見て最近では俺より日本のことを知っていた。だから、理美もまたジャポニが日本と酷似していることを知っているのだ。
「ええ、間違いございません。ですので、早急にジャポニ出身の職人たちに伝えねばならないでしょう」
「そうですな、おつらいでしょうが、これも務めですな」
「はい、アレル殿」
ソフィアがアレルを呼ぶとアレルはすぐに理解し、ジャポニ出身の職人たちを集めた。
「……聞いての通りだ」
ソフィアの説明の後アレルがそう締めた。
「……」
職人たちは絶句していた。どうやら信じられないようだった。
「ジャポニはこの工房にとって重要な国だ。失うことは工房にとっても痛手、そして、何より、お前たちにはいっていなかったが、俺と、ここにいる理美はジャポニと似たような国の出身だ。ジャポニのことは将来の祖国のように思う」
「ええ、そうです、私は幼いころに離れてしまった国だけど、それでも、もし、祖国がジャポニのようになったらと気が気じゃいられない」
「できれば、お前たちの身内、友人たちの安否を調べたいところだが、トリタニアはモメリアとの国交がないため、なかなか調べることができない。本当にすまないと思う」
「……い、いえ、ユキさん、リミさん、俺たちのために涙まで流してくれて、ありがとうございます」
そう、俺と理美は気が付けば涙を流していた。
「工房長、俺、工房をやめます」
「やめてどうする」
アレルはわかり切っている答えを尋ねた。
「ジャポニに帰ります、自分で家族と友人を探します。もしかしたら、もうすでに、やられているかもしれないですが、それでも、探したいんです」
俺たちは考えた。確かに今、ジャポニに帰ってもチャルムが支配しているわけではない、表向きモメリアは治安の悪い国ではない。
「わかった、いいだろう、ただし、やめるのではなく、休みを取っていけ、家族と友人を無事保護して、また戻ってこい」
「ええ、そうですね、トリタニア王国はみなさんの村を作ります。ジャポニの民が生きる場所を作らせてください」
「殿下、この感謝一生忘れません」
こうしてジャポニ出身の職人たちはいっせいにジャポニへと帰っていった。
彼らがいなくなったことで工房も随分と寂しくなった。そして、高い技術力を持った職人たちだったため、今まで作ってきたものは何とかほかの者たちでも作ることはできるが、どうしても生産量が少ない、しかも、以前より時間がかかってしまっていた。
「あいつらに随分と助けられていたんだな、俺らは」
「そうだな」
俺とアレルはしみじみそんな会話をした。
それからしばらくして、新たなジャポニの情報が入った。
しかし、それは、俺たちにとって全くいい話ではなかった。
それは、工房にいた職人たちは無事にジャポニについたそうだ。彼らはそれぞれ家族や友人を探したらしい、しかし、その道中にモメリアに捕まった。そして、モメリアが彼らに要求したのは、俺たちの兵器、ショウドウを作ることだった。
彼らはそれを拒否した。
そこでモメリアはしつこく迫ったそうだ。そこで職人の一人が答えた。
自分たちは外側しか作れない、中身は別の場所で作ったものだと、それを聞いたモメリアはそれならば新兵器を作れと彼らに迫った。
そして彼らはそれも断った。彼らは俺たちソフィア工房の職人としての誇り、殺傷兵器は作らないということを貫いてくれた。
しかし、それを貫いたために彼らは国家反逆罪として、ことごとく処刑された。
俺たちはその知らせを聞いて、モメリアにひどい怒りを覚えた。
「クソッ、モメリアめ、あいつらを、あいつらを……」
アレルも珍しく怒り心頭だった。
「ああ、許せねぇな」
「はい、許せません」
「ええ、本当に」
俺たちはこぶしに力をためながらどうすることもできない怒りを感じていた。
それと同時にあの時行かせるのではなかったと悔やみ、自分に対しても怒りを覚える始末だった。




