第10話 達人、達人を知る
ようやくけがが治って、俺は早速ソルダさんに会うために旅の計画を立てるためにあちこち調べまわった。
ソルダさんのいる場所は、事前にソフィアから聞いていた。それによると、王都のある王領から東隣にあるダルクースにあるガルバ山脈の一つサルブ山の山頂に住んでいるようだ。
そこまでの行程は騎士や食堂で出会った仲間たちに聞いた。それをまとめると、まず王都から乗合馬車を乗り継いで三日ぐらいでダルクース一番の街ダルクまで行く。そこから、馬車か馬で移動するわけだが、俺は当然馬に乗れないだから自然と馬車となる。そして、馬を変えながら三日かけてようやくサルブ山のふもとの村まで行くと、そこからは登山となる。行程を考えただけでかなり気が重くなった。
「もっと楽になる方法ないのかよ、ほんと、こればっかりはなんとかしたいよな」
そんなことを考えながらソフィアの私室に向かった。
ソフィアの私室に入るとソフィアと姉ちゃんが談笑していた。
いくら俺が従者といっても一日中ソフィアと一緒にいるわけじゃない、時には別行動をとる、といってもそれはソフィアになんの予定もない時がほとんどで、そういう時は、ソフィアは私室で本を読むか騎士たちを連れて散歩に行くか、今日のように姉ちゃんと談笑をしている。話す内容は俺が聞こえるときに限って俺の話をしてるようだ。そのためか俺の知らないところでソフィアが俺の小さい時の話を知っているように言ったときはかなり驚いた。まったく姉ちゃん、まさか今日も話しているんじゃないだろうな。俺はそう心配しながら声をかけた。
「姉ちゃん、また変なことをソフィアに言わないでくれよ」
「ユキ殿」
「あら、ユキ、どうしたの、まだ時間じゃないわよ」
「ああ、実はそろそろソルダさんのところに行ってみようかと思ってさ、そのためには、また休みをもらう必要があるからな」
「そうですか、ですが、ユキ殿、実は、その必要はなくなりました」
俺はソフィアが何を言い出したのかと思った。
「どういうことだ」
「はい、実は、私も同行させていただくことになりました」
「同行、なんでまた」
俺は驚きでそう聞き返した。
「私もソルダ殿に会いたくなったのです。そこで、お父様にお頼みしたところ、ちょうどお父様もソルダ殿にお渡ししたいものがあるとのことでしたので、それを私が引き受けたのです」
「そ、そういうことか、でも、ソルダさんって貴族じゃなくて平民なんだろ、そんな人に国王が渡すものって」
俺は普通に不思議に思った、なぜなら確かに国王は貴族と平民をあまり区別はしていない。でも、貴族連中は違う、そのため国王も区別せざるを負えないはずだった。
「ええ、確かにソルダ殿は平民です、ですが彼の国への貢献は多大なものです。これを無視しては今後の国が危ぶまれます。お父様はソルダ殿が引退された後も、貴族の方々を説得していまして、先ごろようやくその説得が終わったのです」
「なるほどね、それで、何を渡すんだ」
「はい、勲章です」
この国でも平民が勲章を授与されるなんてことはありえない、だからこんなに時間がかかったんだろうと思った。
「そっか、それじゃ、そのための行程を考えないとな」
「はい、よろしくお願いいたします」
「ああ、わかった」
俺はまた、行程の洗い出しをすることになった。
しかし、ソフィアが同行することで行程自体はかなり楽なものになった。まず、ソフィア専用の馬車が使える。そのため、用意するの替え馬だけ、さらにソフィアの騎士たちも連れていくことになるので多少危険な道でも問題なく進める。といっても、街道は基本的に安全でたまに魔物や山賊が現れる程度らしい、そのくらいなら騎士たちで全く問題ない。何せ、ソフィアは国王にかなりかわいがられていて、騎士たちも精鋭ぞろい、話によるとなんでも国王の騎士たちよりも精鋭を集めたらしい。
というわけで俺が行った準備は主に替え馬の手配や、それぞれの宿になる町や村に手紙を出し準備をさせることだけだった。
「ふぅ、まぁ、こんなもんか、あとは現地で何とかすればいいだろう」
こうして何とか準備を整えた俺たちは早速城を立つことにした。
「姉ちゃん、そろそろ行ってくるよ」
「沙織様、行ってまいります」
「ええ、行ってらっしゃい、ちゃんと帰ってくるのよ」
「ああ、わかってるって、騎士たちもいるし、問題ないって」
「油断しないようにね、それからソルダさんに失礼のないようにしなさいよ」
「ああ、それじゃ、行ってくる」
こうして俺たちは出発した。
旅の仲間は、俺とソフィア、それからソフィアの騎士たちだ。
騎士たちとは最初、剣を突き付けられるという衝撃的な出会いをしたが、今ではすっかり仲良くなっている。基本的に全員二十台らしく俺より年上だ。だから、弟のようにかわいがられている気がする。
そして王女の騎士だけあって、男ばかりではない、女騎士もいた。こんなのゲームやファンタジー物のラノベくらいしかいないものと思っていただけに最初見たときは何かの冗談かと思った。しかし、彼女たちは間違いなく騎士だった。しかも俺でもわかる程の手練れだった。まぁ、おかげで俺は従者とはいえ男の俺ができないことを彼女たちがやってくれるので助かっている。
ちなみに騎士たちは俺がソフィアのことを呼び捨てにしていることも言葉遣いのことも知っている数少ないものたちだ。だから、道中はソフィアに姫様とか言わないで済むのでそこは楽だった。
そして、出発から数時間、早速予期せぬ問題が起きた。
「うぷっ、き、気持ち悪い、うっ」
俺は思いっきり車酔いをしていた。
「大丈夫ですか、ユキ殿」
ソフィアが心配そうに俺の背中をさすってくれていた。
「だ、だい、大丈夫、だ」
「しかし、ユキ、お前情けなさすぎだぞ」
「全くだ、姫様に介抱されるなんて羨ましすぎるぞ」
「う、うるせぇ、俺だって、車に酔うなんて思わなかった」
そう、俺は生まれてから車酔いなんてしたことなかった。
しかし、考えてみれば車と違って馬車にはサスペンションが付いてないし、道は舗装されていないため、がたがた道、つまり、揺れまくっている。
「帰ったら、今度はサスペンションでも考えるか」
そんなことを考えていた。
「そういえば」
ソフィアがそういいながら自分の荷物の一つを取り出した。
「沙織様がユキ殿に何かあったら開けるようにとおっしゃっていたものがあるのですが」
「ね、姉ちゃんが、な、なに」
俺はなんだろうと思いながらソフィアのほうを向いた。
すると袋の中から出てきたのはペットボトルが数本と酔い止めの薬だった。
「さ、さすが姉ちゃん、こうなることを読んでいたか」
「ユキ殿これは?」
「ああ、これは、こういう時に飲む薬だよ、くれるか」
「は、はい、どうぞ」
そういってソフィアは差し出してくれた。
俺はその中から水のペットボトルと薬をとりだし飲んだ。
「ふぅ、これで何とか、なるだろう」
「大丈夫なのですか」
「ああ、これは俺の世界の薬だからな、大丈夫だよ」
「そうですか」
「さて、再出発と行くか」
それから俺たちは再び出発したのだった。
あれから酔い止めの効果か、あまり酔っていない、といっても軽くは酔っていたが馬車を止めるほどのことでもなかった。姉ちゃんに感謝だなこれは、帰ったら言っておくか。
そんなこんなで旅も進み通る町通る村で大歓迎を受けながら進んでいた。
そして、ようやくの思いでサルブ山のふもとにたどり着いた。
「やっと、着いたか、あとは、明日あの山を登るってことか」
「ああ、そうだな、ユキ、お前大丈夫か」
「姫様の邪魔をするんじゃないぞ」
「わ、わかってるって、ただ、すげぇ、疲れた」
「まぁ、それだけ姫様の人気があるってことだ。うれしいことじゃないか」
「そうだぞ、ユキ」
ソフィアは今村長と話をしているため、護衛に二人が付いて行ってグロッキー状態の俺と残りの騎士たちで談笑していた。
「ああ、そうだな、それは同感だ」
俺がそういうとなぜか頭を撫でられた。
俺の頭を撫でたのは女騎士の一人でどうやら実際に弟がいるらしく、俺のことを弟の代わりかのようにかわいがっている。
「お、おい、ミラ、頭を、撫でるなって」
俺は照れ臭くなってそういった。
「あはは、まぁ、いいじゃない……」
すると突然ミラが身震いした。
「どうした、ミラ」
ほかの騎士がそう尋ねた。
「い、いや、まさか、こんなところまで、いや、でも、ありうる」
なんだかわけのわからないことを言い出した。
「おい、大丈夫か」
俺が心配して聞くと少しひきつった笑顔で答えた。
「あ、ああ、大丈夫だ、たぶん気のせいだろう」
しかし、その後は何かを考え込んだように俺の頭から手を放した。
なんだったんだと俺が思っているとソフィアが帰ってきて、そこからまた宴会が始まった。
ちなみに俺は宴会を遠慮した。っていうか、軽く酔っているうえに精神的な疲れが合わさっていてそれどころではなかった。
そのため部屋についたとたん俺は死んだように眠った。
そして次の日、何とか起き上がるとさすがに俺以外はみんな元気いっぱいで起きていた。
なんでそんなに元気があるんだこいつら、それにソフィアまでも元気だった。つまりは俺だけが疲れ果てていた。
「ほら、ユキ、しっかりしろ」
「あ、ああ、わかってるって、今日はこれからこの山を登るんだからな」
「そうだ、あともう少しだ」
そういう騎士たちは旅の途中はいつもの甲冑をつけていたが、今は山に登るということで軽装になっていた。それでも俺だったらたぶん歩けないほどだったが、しかもそこに俺とソフィアの荷物まで手に持っていた。
「悪いな、俺の荷物まで」
「まぁ、気にするな」
そういってくれるのがありがたかった。
その後の登山も案の定俺だけがグロッキーとなり、ソフィアはちょっと息切れを起こしていた。ほんとこの世界のやつらってどういう体力してるんだかうらやましいかった。
こうして何とか山頂までたどり着いてようやく目的の建物が見えてきた。
「や、やっと、あれが、ソルダさんの家か」
「はい、そのようです、ユキ殿、あと少しですよ」
「あ、ああ、何とか頑張ってみるよ」
そういって俺はゆっくりと歩き出した。
そしてようやく扉の前についた。これで留守だったらショック死しそうだ。
しかし、ノックするとありがたくも返事が返ってきた。
中から出てきたのはがっちりした体つきの白髪でひげを生やした老人だった。
「ひ、姫様、それに、お前たちは」
「ご無沙汰しております、ソルダ殿」
ソフィアがそういうとソルダさんが跪いた。
「ソフィア姫殿下、お美しくなられ、さらにこのおいぼれのためにわざわざお越しいただき、このソルダうれしゅうございます」
ソフィアはそれを見て嬉しそうに微笑んだ。
その後俺たちはソルダさんになかに入れてもらった。
「ところで、姫様、そこのものは」
さすがにグロッキー状態の俺は目立っていたらしい。
「彼は、私の従者でユキといいます」
「ユキ、ですか、変わった名ですな、それに容姿も、どこの出身ですかな」
これは途中から俺へと質問が移った。
「日本というところです」
俺は正直に答えた。そのほうが後につなぎやすいからだ。
「日本、聞きなれないな、どこにある」
「それについてはのちほどでいいですか、今は先にすることがあるので」
「おお、そうか、そうであったな」
それまで黙ってみていたソフィアが話を始めた。
「ソルダ殿、本日はあなたにお父様よりお預かりしたものをお渡しに参りました」
「陛下からですか」
「ええ……」
そういうとソフィアは後ろに控えていた騎士、ダリルに目配せをするとすっとダリルはメダルのようなものを取り出した。
「これを、どうぞ」
「こ、これは、勲章? まさか、そんな」
ソフィアが差し出したのはどうやら勲章のようだ。
「い、いけません、姫様、これは、私のような平民のおいぼれに渡されてはならないものです」
「はい、確かに我が国では平民の方に勲章を与えることはありません。ですが、これは貴族の方々がそういっているだけで、実際には法律で定まれているわけではありません。ですが、貴族の方々を無視するわけにも参りませんので、お父様は説得をされたのです」
どうやらそのかいあってようやくソルダさんに勲章を与えることができるようになったようだ。
「そうですか、わかりました、姫様、このソルダ、謹んでお受けいたします」
どうやらソルダさんはその勲章を受けるようだ。
「そうですか、それでは、略式ではありますが、国王の名代として勲章を捧げます」
そういうとソフィアは深呼吸をしてソルダさんは跪いた。
「では、トリタニア王国、元国王近衛騎士隊隊長ソルダ殿、そなたの功績に応じ、トリタニア王国名代、第二王女ソフィア・ドゥ・トリタニアの名において、英雄タイランドを関する、タイランド部勲章を授けます」
そういってソフィアは細かな細工を施された銅製のメダルを差し出した。
それを恭しくソルダさんは受け取った。
「お受けいたします」
こうして勲章の授与は滞りなく行われた。
「おめでとうございます、ソルダ様、我らの誇りです」
するとそれを見ていた、騎士の一人ビルクスが、ソルダさんに賛辞を述べた。
「ああ、感謝する」
それにソルダさんも答えていた。
「さて、私の用事は済みました。これからはユキ殿ですね」
「あ、ああ、そうだな」
俺はそういうとグロッキーな体に鞭を打ってソルダさんに向かい話し始めた。
「ソルダさん、実は俺個人として、あなたに聞きたいことがあります」
「聞きたいこと、何かな、従者殿」
「いえ、俺のことはユキでいいですよ」
「そうか、では、ユキ聞きたいこととは?」
「はい、ソルダさんは相当な剣の使い手だと聞きました」
「うむ、まだまだ修行中だが、それでも、そこらのものには負けるつもりはない」
「ええ、そう思います、俺は剣の才能は皆無ですが、周りに達人が多かったせいか、見る目はあるつもりですから」
「ほう、それで」
ソルダさんは少し俺の話に興味を持ってくれた。
「それで、ソルダさん、虎助という名をご存じありませんか。おそらく剣の達人として知られているはずです、といっても百年前のことですが」
「百年前のコスケ……」
ソルダさんは少し考えてから答えた。
「ユキといったな、お前さんどこでその名を、確かに昔コスケという剣の達人がいた。変わった名だし、俺が子供のころは多くの武勇伝を作っていた方だ」
「!!」
俺は驚愕した、まさかと思っていたが本当にそうだったとは思ってもみなかった。
「ほ、本当ですか、本当に、虎助さんはここに」
「あ、ああ、そうだ。間違いない」
俺の豹変にソルダさんは少し引いていた。
「よかったですね、ユキ殿」
「あ、ああ、まさか、本当に、こっちに来ていたとはな、ということは……」
俺はそこで霧丸のこと考えた。
「ソルダさん、その虎助さんが持っていた剣、今どこにあるかわかりますか」
「なに、剣だと、それはどういうことだ。いくら従者殿でも、ことと次第によっては……」
急にソルダさんから殺気を感じた。
「あ、いえ、そうですね、ちょっと焦りすぎました。実は、俺は、その虎助さんの身内のものです」
「身内だと」
そこでソルダさんは怪訝な顔をした。
「はい、まぁ、正確には、俺の曽祖父に当たる人の弟が虎助さんなんです」
「ほう」
「俺の正式な名は、松堂幸仁といいます」
「ショウドウ?」
「はい、虎助さんは松堂虎助と名乗っていませんでしたか」
「た、確かに、そのような名だったような気がするが、何せ昔の記憶あいまいだ」
そうだろうと思った。
「わかりました、では、ちょっと外に出てもらえますか」
「いいだろう」
俺は騎士に預けていた荷物の中から、姉ちゃんから預かった霧丸の代わりに継承につかってきた一振りの刀を受け取った。
「それは!」
どうやら刀に見覚えがあるようだった。
「この形に見覚えがあるようですね」
「うむ、それはコスケ殿が使っていた。ものと酷似しているようだ」
「そうです、これは日本刀といって俺の国で使われていたものです」
「それで、それで何をするつもりだ」
さすがにソルダさんと戦うわけではない、ソルダさんも俺のダメさ加減を感じ取っているようで、俺がまさかそんなことを言い出さないと思ってくれているようだった。
「はい、今から、俺の家に伝わる、剣術、松堂無念流の剣技をお見せします。あなたなら俺のつたない技でも虎助さんと同じものだと気が付くはずですから」
「うむ、確かに同門である証拠には十分だな」
「はい、それでは行きます」
俺は刀を腰に差して構え、深呼吸をしてから、松堂無念流抜刀術一ノ型虎舞を出した。
その瞬間ソルダさんは気が付いたようだった。
「その技は、確かにコスケ殿の技」
俺はほっと胸をなでおろして言った。
「そうです、この技は虎助さんも得意だったと記述がありますから、俺もこれだけはできるので良かったですよ」
「しかしそれでも同門としか証拠がないようだが」
「いえ、この松堂無念流の技は親から子へ受け継がれるもの、他家のものには扱えません、まぁ、今のは、一番簡単なものなので誰でも使えますけど、複雑な技になると松堂家のものしか扱えないんですよ」
「そうなのか」
そこでソフィアから助け船が入った。
「ソルダ殿、ユキ殿が言っていることは私が保証いたしますよ」
「姫様がですか」
そこでソルダさんも驚愕しながらも俺を見て言った。
「あ、いや、すまない、なにせ、コスケ殿は俺にとってあこがれ、いまだに追いかけている存在だったのでな」
「そうですか、身内としてお礼を言います」
「しかし、なぜ今頃、コスケ殿は帰れない故郷があると嘆いておられたが」
「ええ、そうです、俺たちの故郷は帰るに帰れないところにあるからです」
「どういうことだ」
俺はその後異世界のことについて話した。
「……なんと、そのような世界が、まさか、姫様もそれを信じておられるのか」
ソフィアにソルダさんがそう尋ねた。
「はい、ユキ殿の姉君である沙織様のお部屋とつながったのは私の私室、城にいるときは毎夜話し相手をしていただいておりますから」
「……」
さすがのソルダさんも黙ってしまった。しかし、これでソルダさんは俺を信用してくれたようだ。
「そうか、わかった、ユキ話してやろう」
「ありがとうございます」
その後ソルダさんから虎助さんのことを聞いた。といってもソルダさんも子供ころの話でしかも虎助さんに会ったのもほんの短い時間だったことからあまり多くを聞けなかった。
「……と、こんなものでいいか」
「はい、ありがとうございます」
こうして俺たちのたびは終わった。また帰りも同じように疲れ果てていた。




