『役目』を終えた
向き合ったマイクとノース卿をはたで眺めるように距離をとり立ったままの男は、冷めた眼を城の主へとむけていた。
コレクションをかね?と聞き返す男の声には、幾分かのいらだちが含まれていた。
「あそこは、ふだんあけない保管室だから、警察から連絡がくるまで、まったく気づけなかったよ。 《 ほんとうだ 》 」
最後の言葉がなぜか違う人間の声のようにきこえ、思わずノース卿をみる。
筋張った手を額にかざすようにして言葉をつづけた。
「・・・才能があると思って世話をしたんだが、手癖がわるくて、嘘をつく癖のある男だとわかってね。いつか直るだろうと思ったけれど、十年たってもその見込みがなくて、しかたなく出て行ってもらったのだが、こんなかたちで仇をかえされるとは・・・」
やるせなさそうに訴える声は、元の、張りのある声だった。
「こちらは、しばらく警察でお預かりすることになります」
証拠品として預かっている譜面の写真を渡そうとすれば、片手で払われる。
「返してくれなくとも結構だ。 ―― それはもう、役目 を終えた」
「は?」
どういう意味かを聞き返す前にまた、低い声が割り入る。
「ここからの景色とよく似た風景画をみた」
バートは窓の外をにらみ、そのままノース卿をふりむいた。
「絵を描く女をここに呼んだことは?」