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9の魔法 誰がためにエンジェルは舞い降りる


          ☆



「やった!やりましたよルリちゃん!」

 パチパチパチ、とネコ三郎が両の前足を叩き合わせ、拍手らしきものをしながら歓声を上げた。

「素晴らしいです!これこそまさしくボクが夢見た魔法天使そのものです!」


 魔法の光に包まれ、

 私は変身した。


 魔法天使フラワーエンジェルとなった。



 ──のだけれど。


 無事に変身には成功したんだけど。


「やっぱりあなたを選んで正解でした!ボクの目に狂いはありませんでしたよ!」


 ……………………


 何だろう。

 この……違和感のようなものは。


 そこはかとなく感じる、

 とてつもなくイヤな予感は。



「……ねぇネコ三郎」

「ネココです」

「鏡とか持ってない?」

 問いかける。


「鏡でしたら……確かエンジェチャームの中に」

 さっきの変身コンパクトのことか。

 いつの間にか肩がけの小さなバッグの中に収納されていたそれを取り出すと、再度パカッと開く。


 フタの裏側に小さな鏡。

 ちょっと小さいな、これじゃ見づらいなと思ってあちこちチョンチョンやってみたら、不意に大きな鏡が飛び出した。私の全身像をそこに映し出す。

 なるほどこれなら見やすい……って、



 その瞬間。

 私の目は点になった。



「──なっ」


 なっ…………


 なっっ…………………



 なんじゃあああぁあぁぁこりゃああああぁああああぁぁぁ━━━っっっ!!!!!



 その昔、何かのテレビで見た、昭和の懐かしの刑事ドラマみたいな男気あふれる絶叫が、私の脳内にこだました。


「どうかしましたか?ルリちゃん」

「どうかしましたかルリちゃんじゃないわよっ!」


 改めて説明しよう。


 プリーツのついた短めのスカート。

 いわゆるどこかの制服みたいな感じ。


 淡いブルーの丈の短い上着。

 小さなえりがついていて、大きめの前ボタンいくつかで留まっている。

 ふわっとゆったり余裕のある両そで。そで口の部分だけがキュッとしまっている。


 肩口から袈裟がけにかけられた長めのひも。その先についた小さな可愛らしい、イエローのバッグ。


 頭に同じイエローの帽子。つばの短いハットのような、布製の柔らかな感じの。

 天使の輪のように白いラインが走っている。



 ……これは……


 ………これは…………っ


 いわゆるその…………

 何というかアレだ…………


 一言でざっくり表現すると…………



 ()()()()()()()って奴じゃないのかっ?



 ……いや間違いない。

 幼稚園児だ。

 幼稚園児だろ。


 幼稚園児のコスプレだろこれっ!



 私はものの見事に、

 幼稚園児の姿に変身していた。


「どういうことっ!?」

「何がですか」

()()()()()()()()()っっ!?」

「大丈夫。すごく可愛いですよルリちゃん。とてもよくお似合いです」

「そういうこと言ってんじゃないわよっ!」


 そう。

 非常に言いにくいことなのだが……


 悲しいかな、

 とても残念なお知らせなのだけど、

 何というかこう……


 わりと、似合っている。


 私の顔に。ボディサイズに。

 無理なくフィットしてしまっている。

 よくお似合いである。

 似合ってどうすんだこんなもんっ。


 100パー小学生にしか見てもらえない、と嘆いていた赤いランドセル姿のかつての私は、どこにもいなかった。


 もう小学生には見えない。


 どう見ても、

 ちゃんと、しっかり、

 100パー、


 幼稚園児に見える。


 ……………………


 ……………………



 年齢後退しとるやないかいっ!!!



 より下がってどうするっ!

 より子供に近づいてどうすんだっ!

 そうじゃないってのっ!


 阿呆かっ!


 阿呆かっっ!!!


 ドアホぉっっ!!!!



「どうしたんですかルリちゃん。まるでケダモノのような形相で」

「るさいっ!」

 ケダモノそのものであるこいつに言われる筋合いはなかったが、実際そう言われても仕方のない顔を私はしていたのだと思う。

 それほどの衝撃だった。


 がっくりとその場に崩れ落ちる。



 なぜだ………

 なぜ、こうなった………?



 ちゃんとリサーチしたはずなのに。

 万が一を考慮して、細心の注意を払いに払って、いろいろ調べた上で決断したはずなのに。

 何度も何度も念を押し、確認して、絶対に大丈夫と確信して臨んだはずなのに。

 間違いなかったはずなのに。


 どうしてこうなるっ。


 フラワーエンジェルじゃなかったのか。

 フラワーはどうした。

 エンジェルはどこ行った。


 改めて、おぞましい己が全身をチェックしてみる。

 フラワーは……ある。

 恐らく一番のフラワー的要素と思われたあのタンポポのブローチ──フラワッペンは、薄いプレート状のエンブレムとして左胸に輝いていた。

 私が刻んだ「るりこ」の三文字が鮮やかに浮かび上がっている。


 これは……アレだ。

 タンポポの魔法使いってよりは……



 「たんぽぽぐみ おさないるりこ」



 そう。

 そんな感じ。


 見事なまでに幼児感に拍車をかけている。



 ……エンジェルはっ。

 エンジェルはどうしたっ?


 よくよく見たら、背中に小さな羽根がついていた。

 帽子には天使の輪のようなラインがある。


 まさか……これだけでエンジェルだと言い張るつもりかお前らはっ。

 ちょっとムリヤリが過ぎやしないかっ。


 やっぱり、子供のこと天使って呼ぶからなのか。

 まるで天使のようって、いかにも子供みたいってそう言いたいだけなのか。

 だからって何も幼稚園児である必要はないじゃないか。この格好に限定する意味なんてないじゃないか。別のコスチュームとかじゃダメだったのか?


 エンジェルって仮にも名乗るからには、もっとこうエンジェルらしい──



 ……あ。



 唐突に気づいた。


 まさか……

 よもやとは思うけど……


 エンジェルってのは──


 つまり要するに──


 「()()()()、ってこと?


 …………

 ……………………


 …………………………



 ダジャレか━━━━いっっ!!!



「どうしたんですかルリちゃん。まるで地獄の悪鬼のような形相で」

「やかましいわっ!」


 こんな……

 こんなオチがあるか。


 私が何をした。

 何をしたってんだ。

 前世の私が、何か許されざる大罪でもやらかしたとでもいうのだろうか。

 てか何をしたらこんな罰が下るんだ。


 ひどいよ。

 あんまりですよ魔法の神様っ!



 私の人生を何だと思ってんだっっ!!



 ……だが。

 既に契約は成されてしまった。


 さっき自分でも言った。

 もう後戻りはできない。

 このアイテムを使って変身することは──フラワーエンジェルになることは、私以外の誰にもできない。

 私がタンポポの魔法天使をやるしかない。


 自分で決めたこと。

 自分で選んだ答え。


 それが正しかろうと間違っていようと。


 一度決まってしまったものを、個人の極めて勝手な都合で叩き返すようなことはできないし許されない。

 人間として。

 まぎれもない、大人として。

 子供ではないのだから。



 ならば──そう。


 答えは、

 私のやるべきことは、

 やらなければならないことは。


 たった1つしか、ない。   



 それはもちろん──




  

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