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風車のある風景  作者: 神奈
本文
29/46

地動説

 静寂なんてものは、この世界のどこを探したって見つからないだろう。

とめどなく風は吹き、風車は回る。

 羽根の立てる騒音も、立ち並ぶ家の隙間を抜ける風の音も、途切れるという言葉を忘れたかのように鳴き続ける。

 雲の中の夜は、それでも思いのほか静かだった。高い湿度と、数の少ない風車のおかげだろうか。

 部屋に閉じこもり静かにすれば、そこにはこの世界できっと一番静かなひとときが訪れる。

 静寂は嫌いじゃない。

 だからこそなおのこと、この静寂は耐え難かった。

 嫌いになりそうで。


 わざと音を立てて口の中に溜まった唾を飲み込む。

 体の中で響く音に、少しだけ安心する。

 家にいたら、はしたないと怒られるに違いない、そんなことをリグは思いながら目の前の人物を盗み見る。

 呼吸は荒い。

 信じられないことがあまりにも多すぎた。

 だがリグは、その半分以上が信憑性のある仮説以上の確度を伴っているのだ、とそう分かってしまった。

「馬鹿じゃないの? 動いてるわけないじゃない」

 頭の上で、上ずった声で反論するファル。

 そう、自分だってそう言いたかった。叫びたかった。

 ありえるはず、ないではないか。

 どうやって動いているというのか。叫んで何もかも否定してしまえば楽だ。

 だが理解できた。納得なんてしたくないのに。

 心のどこかで、それが真実だと誰かが確信している。


 きっかけは、簡単な疑問だった。


 何故一日が約二三時間かという疑問。


 簡単な問題である。

 日が昇って、沈んで、また昇るときを二三等分したのだ。

 人が決めた時間だ、別にそこに疑問を挟む余地はない。そうであるから、そうなのだというほかない。

 ないのだが。

 ではなぜ、二三時間なのか。二〇時間ではいけなかったのか。約数が多い二四時間ではだめなのか。

 なぜ二三という素数に分けたのか。そのくせ六〇進数で分秒は進む。

 おかしいではないか。

 ならば日も六〇分割、ないし三〇分割だってよかったはずである。

 そもそも偶数でなければ、一日の中央が分かりづらい。

 二三時間で一日なら、半日は一一時間三〇分となる。

 まぁ実際それであったら問題ないのだ。

 それでよかった。誰かがそう決めたのだ、といえた。

 

 だがちょうど正午。

 一日の真ん中は一二時だ。昔からそう決まっている。

 おかしい。それなら一日は二四時間のはずである。

 なぜこんな齟齬がでるのか。

 もしかしたら、本来は二三ではなく二四なのではないか。


 もしくは、二四時間であったが何かがあって二三時間に縮まったのではないか。

 疑問。

 素朴な疑問だ。

 りんごが落ちるのを不思議に思ったり、空が青いことに理由を求めたり。

 そういった、子供が思う素朴な疑問。

 でも、もしだ。

 もし、昔の人は二四時間で過ごしていて半日を一二時間としていたとしたら。

 何かの理由で二三時間になったとしたら、結果として一日を二三時間と数えているとしたら

 

 ――ひとつの理由を簡単に思いついた。

 

 星の自転が早まった。というものだ。

 ありえない話じゃない。

 事実、太陽の動きを基準にした一日と二三時間は齟齬が生じていないのだから。

 たとえ、その理由を想像できなくても、そうなってしまったのなら納得はいく。

 偶然ぴったり一時間ずれることだって、あるかもしれない。

 そんなことあるわけないけれど。でもだからといって、

「動いていない、というのなら見てきたのだろうな?」

「別に見てなくても常識として分かるでしょ」

 ニノの体をしたグリフジーンは、物分かりの悪い子供を前にしたような渋い顔でファルをねめつける。

「その常識とやらの証明をしてみせろ。不可能であると証明してみせろ」

「証明する必要なんて――」

 そんなものは、悪魔の証明だ。

 できるわけが、そう口を開こうとして、だが言葉は出ない。

「ならば私が証明してやろう」

 ため息混じりに、彼は紙を広げペンを持った。

 書き連ねられていく文字は、子供の筆跡ではなく、年老い使い古され癖だらけで読みづらい筆記体。

 一瞬、その手すら皺だらけに見えた気がした。

「すでに星は活動をやめてる。雲下のことは俺ももう昔のことだからあまり覚えていないが、まだ地上に人間が住んでいた頃の話だ」

 聞きたくない、リグは思わず耳を塞ぎそうになる。

 だが、意識が吸い寄せられるように言葉に傾く。

「どっから証明したものかな。簡単な話をしよう。光速は不変であるが、この柱に残っている光年をメートル法に合わせて計算すると分かる。秒速は二億九千九百七十九万二千四五十八m。時速なら六〇を掛けるな?」

「!」

 決定的だった。

 脳内で計算された数字の答えが、まるで槍のように体に突き刺さる気がした。

 反論のしようがない答え。

 リグは俯き、もうグリフジーンの顔を見ることができない。

「百七十九億八千七百五十四万七千四百八十m。さて、一日で進む距離は、掛けることの?」

「二三でしょ」

「そうだな? ふむ。だがここに記されている数字は四千三百十七億とんで百十三万九千五百二十m。二四倍だ。二三倍なら四千百三十七億三千五百九十二万四十mにならなければいけない。さすがにこの差を誤差と言うには無理がありすぎる。つまり本来の一日は二四時間だった。そして今は二三時間だ。むろん星の自転が都合よく一時間早くなる、なんてことはほぼありえない」

「やめて!」

 思わず声を上げて叫ぶ。

「……否定して、なにか不都合があるのか?」

 ゆっくりと指をさされ、ファルは思わず身構える。

「お前たちは妖精などと呼称されているが、人間に使役されるための小間使いとして作られた、自動人形オートマトンだ。ゴーレムだ。この事実の方が信じたくない現実だと思うのだが、どうだ? そこまで柱が動いていることが信じたくない事実なのか?」

「……水精族も妖精族も人のために存在してることぐらい、みんな知ってるよ。でもだからって」

「話が大きすぎて戸惑っているだけです。明日、柱が崩れると言われた方がまだ信じられるぐらい」

 吐き出すようにリグが言うと、得心がいったとばかりにグリフジーンは手を叩く。

「なるほど。昔は星だって止まってると思われていた時期もあったらしい。気持ちは分からないが、そういうこともあるのだろう。理解はした。それで、話を続けていいか? それとも、証明をもっとはっきりした方がいいか?」

 子供のように笑う。引きつって伸び切って歪んだニノの顔が、それでも笑顔を作るように口角を上げる。

 もうこの顔にも慣れてしまった。

 リグは、胸の辺りで感じる痛みを、気が付かない振りでやり過ごす。

「実際見せてくれるっていうなら、見てみたい」

「ファルちゃん……」

「そりゃ、あんたが作ろうとしてるロケットの話を進める上で別に証明する必要がないのも分かってるけど」

「理由の提示や、納得を得ようとすることを蔑むほど落ちぶれてはいない。いいだろう、見せてやる」

 グリフジーンが、手を二人に向けて振った。鼻に届いたのは、水の匂い。水精の活動する匂いだ。


 ■


 世界はふたつの柱しかない。

 雲海に突き出た二本の柱は、真っ白な雲の上に影を落とす。

 夜、日の光がまったくなくてもそれは変わらない。

 月明かりと星明りでかすかにだが、たしかに柱は陰影を描き出す。

 そして街には少ないが、明かりが点いていた。

 ぽつぽつと小さな明かりは、さらに柱の形を夜の闇に浮き上がらせている。風上の柱には、大きな風車が付いていて、雲を巻き上げながらゆっくりと回っている。

 二kmの羽を持つ巨大風車。羽は一枚落ちていてバランスの悪い三枚羽。

「今は柱に座標を合わせている」

 声が聞こえ、これが映像だと、リグは思い出す。

 千理眼だ、とグリフジーンは言っていた。私の娘にも与えてある、と自慢げに言った顔は相変わらず歪んでいた。

「何を以って動いているとするか、という証明は面倒なので省略するぞ。今はとりあえず相対的なものとしよう。つまり何を基準にするか。ということだな」

 柱にしがみついて生きている私たちは、柱が基準。ということだろう。リグはとりあえず頷きを作る。

 世界は柱しかなく、その世界にしがみついて生きている。人はここにしかなく、ここだけしかない。

「だが衛星単位の軌道計算をするならば柱ではなく星を基準に考える必要がある。ゆえに」

 視界が切り替わった。見た目が変わったわけではない。

 信じたくないものが目の前に叩き付けられる衝撃。

 悲鳴を必死でこらえる。

「基準を星にすればこうなる」


 二本の柱は、雲海を掻き分けて走っていた。


「何のことはない、柱が動いていたから風は常に一方向だったわけだ。そして風速もほぼ変わらない。風速が変わらない時点で、おかしいと考えるべきだったな」

「もしかして、風精が外の風にいないのって」

 ファルの呟きに、グリフジーンが当たり前のように軽く頷く気配がした。

「風精は気圧差、温度差にしか現れない。相対的な動きの外の風には発生しない」

「雲の下も見てみるか?」

 言うが否や、雲の中に視界が突き進む。

 そのまま雲を突き抜けて暗闇が視界を覆う。

「感度をゆっくり上げるぞ」

 真っ暗な視界の中、グリフジーンの声だけが聞こえた。

 そして同時に視界がゆっくりと開けていった。

 光を増幅でもしているのか、色ははっきりとしないが輪郭が浮き彫りになっていく。

「生きている人間で、これを見るのはお前が初めてだ。飛び降りれば、墜落死する前に一瞬見ることはできるが。まぁ、ほぼあの雲の中で死ぬ」

 視界を振れば、地平線まで続くまっすぐな線路が見える。

 そして、その線路に乗っているのは、

「電車……」

 直径二キロの柱は円錐形を逆にしたように下に行くほど細くなり、その先端はよくある普通の電車の上に突き刺さっていた。

 それが柱であるのだと分かったのは、たぶん二本並んでいたからにほかならない。

「何あれ……あんな細くなって……杭?」

「星の赤道線を一周する、柱を乗せて走る列車だ。己の足元がこんな脆弱なものだと恐怖したか? だが言わせてもらえばな、柱に街を作ってることこそが、そもそもおかしいのだ」

「どういう、こと?」

「この柱は、錬金術によって作り上げられたものだ。私が王の願いを叶えるために。だというのに、貴様らの先祖が勝手に住み着いたのだ。住むのには安全性が足りない、などと言われる方が私としては心外だ。そもそもそんな運用は想定していない」

 視界が戻る。

 目の前にはニノの姿をしたグリフジーン。

 視線をめぐらせれば古ぼけた家が一望できる。そしてここが家として使われていないこともよく分かった。

 散らばった工具、壁には所狭しと張り付けられている設計図や資料。

 向き合っている机は、机というよりは頑丈で分厚く揺れないようにと誂えられた作業台だ。

 生前からグリフジーンが使っていたのだろう。飲み物をこぼしてできた染みや、金属を削るときに出る削りかす、重たいものを落としたときにできる床の凹み。

 どれもがリグにとって馴染みのあるものだった。

 まるで自分の部屋みたいだ。

 染み込んだ油と埃の匂い。古ぼけた本の匂いもする。

「柱がこうして動いている理由は、星に漂うエリクシルを集めるためという目的と、電精の発精が風の抵抗で消費する熱量を上回るシステムができたからだ。まぁ小さい円をグルグル回っていてもよかったのだが、衛星の軌道をその円に合わせる調整をするならば、赤道を一周させてしまえば楽だと考えてこうした」

 ほかに質問はあるか? そう言ってグリフジーンは一息つくように机に肘を掛ける。

「あの、質問が」

 リグがおずおずと手を上げる。

「何だ。貴様とは約束をしている、私の知っていることであれば何でも答えよう」

 約束を破ればどうなっても知らない。そう聞こえた。

「衛星と完全な同期を取る必要性って何ですか? それから、星を再生するって言ってましたけど。具体的にはどうやって……」

 もしも大地に人が住めるようになるのなら、リグは喜んで手を貸そうと、そう思った。メルとの約束は、その後ゆっくり果たせばいい。そう思っていた。

 思っていたのだ。

 グリフジーンの無邪気に己の技術を話す姿も、こうして自分と同じような部屋にいることにも、親近感はあった。

 別にニノを亡き者にした張本人だということを忘れたわけではない。

 だが、話しているうちに目の前のグリフジーンと名乗る男が、そんなに極悪な人間ではないのではないか、そんなことを考えてしまっていることはたしかだ。

 ほんの少しだけど、心を許しかけている自分に反吐が出そうにもなる。

 新しい知識、知らない情報、小躍りしそうなほど今リグは楽しんでいる。

 楽しんでいた。


 楽しんでいたのだ。

「星に、この柱を打ち込む。柱などと言っているが、実際は杭と表現するべきだな。この杭は軌道エレベーターなどではない、星を再生するための燃料棒だ」

 楽しんでいたのに。

「あの。……打ち込むって」

「衛星は現在、大量の熱量を保存している。本来なら、必要な量を集めたらすぐにでも柱を打ち込むはずだったのだが、手違いで起動しなかったらしい。熱量の保存は問題ないが、実際に熱量を柱に打ち込むためのトリガーが落ちていない。だから私は衛星に行かなければならない」

 先程見た、柱の終端。根元。電車に接続されていた部分を思い出す。

 円錐を逆さまにしたような。


 それは、

 まるで杭そのもの。


 体中が粟立つ。恐怖が体中を駆け巡る。

 できれば杞憂であってほしい。そう思って、リグは口を開く。

「柱に住んでる人は……」

「知るか」

 決定的だった。

 視界が真っ黒に染まっていく。

「本来この柱には、柱の状態を保つためのいくつかの自動人形と、管理権限を持たせた少数の人間だけがいるはずだった。柱の歪みを直すために、光で育つ金属でできた植物や、その植物を食べて柱を強化補修する動物に似せたゴーレム――」

「え、もしかして壁牛って……」

「呼称など知らないがな。たぶんそれだろう。ほかにも似たような生態をしたゴーレムがいるはずだ。垂直の壁を住処にするものたちだ。管理者が生活するために、体内で蛋白質や脂質なども生成する食用ゴーレムだ。ほかには下水を浄化し、浄水にする水質管理のゴーレム、管理者たちを補佐する小間使いのゴーレムもそうだ。そんなものだった。管理者以外の人間が街を作って生活していたとして、なぜそれを俺が気にしなければいけない」

「ちょっと待って! ってことは、柱を打ち込まれたら」

「壊れるな。そもそも柱は星に打ち込まれる前にかなり温度を上げる。星の岩盤を溶かすほどの熱だ、たとえ街の崩壊に巻き込まれなくても生きていられる者はいないだろう。初期段階で三〇〇〇度は超える。最終的には圧力も加わるから一〇億度ぐらいまでは上がるはずだ」

 ――三〇〇〇度。

 リグは反応する。

「何度も言うように、この柱に住む者は柱の寄生虫と変わらん。そもそもの存在理由を曲げてまで気を遣う必要性を俺は感じん」

「人殺し!」

 ファルの叫びに、グリフジーンは表情ひとつ変えずにため息をひとつつくだけだった。

「まだ殺してはいないぞ。まぁ殺すことになる、というのはたしかだが。かといって計画をやめるわけにもいかない」

「どうして!? そもそも王様ってのももういないんでしょ、それに柱の下に広がる星にだって、人は住んでないじゃない。今さら再生なんてしなくたって――」

 グリフジーンは視線だけをゆっくりと彼女に合わせる。

「約束は守らねばならない。私は王と約束したのだ、理由はそれだけだ」

「そんな計画に手なんか貸す訳ないじゃん! ふざけないでよ!!」

「貴様がどうしようと勝手だ。だが、邪魔をするなら別だ」

 ゆっくりと腕が上がり、思わずファルは体を硬直させた。

「絶対数が少ない貴様らや水質管理ゴーレムは、柱が本来の役目を果たすまで役に立ってもらわないといけない。殺しはしないが、記憶は壊させてもらうぞ」

「ひっ」

「……ファルちゃん」

 頭にいたファルを優しく掴むと、リグは部屋の隅を指差した。

「!」

 水棲族は、体のほぼすべてが水でできている。では、彼らはどこまでが自分でどこからがそうでないのか、ということをどうやって認識しているか。

 つまりは、そういうことだった。

 最初にファルが入ってきたときに、グリフジーンは二度目だと言った。

 水棲族が来たと言っていた。

 間違いなく、ヘイズのことを言っていた。では、ヘイズはどこに行ったのか。

「私の会社の社長さんよ。水棲族なの」

 水棲族を水棲族たらしめるのは、水精を取り込み稼動する錬金術である。

 それは、言ってみれば中心核。普段は水の中に隠れて見えない、丸い塊。

「――!」

 ファルは叫びを必死で閉じ込めることに成功した。

 体を包むリグの手がかすかに震えていて、それがファルに冷静さをぎりぎりのところで取り戻させた。

 邪魔をするなら。

 つまりは、こういうことになる。ということだ。

「水棲族のコア……」

「死んでる訳ではないがな、あとで手が空いたときに記憶を削除して元に戻しておく。破壊した方が楽だが……助手の精神的ダメージを考慮した結果だ」

 リグの震える手が引きつる。

 ファルは、ぎゅっと彼女の指を握り返した。

「約束ですから。……約束は守ります。あなたが、先輩に手を出さないなら、私はあなたに手を貸します」

 搾り出すように、まるで自分に言い聞かせるように。

 リグの声が部屋に染み込んでいく。

「なに、罪悪感に苛まれる必要はない。どうせ何もかもなくなってしまう。貴様も、貴様の家族も、知り合いも、そして」

 引きつったニノの顔が、口が裂けるように開く。

「その原因になる俺もだ」


 世界はここにはなかった。

 途方もなく大きく広く、そしてすでに死んでしまった世界だけが柱の下に横たわっている。

 静寂を破ったのはリグの小さな声だった。

「――続きを。発射軌道の計算については納得しました。柱が動いているなら、たしかにその結果になります。さぁ、早く続きを。ロケットが飛ぶなら私は何でもしますよ。私は、あそこに行く物を作るためにここに来たんです。あなたも、そのために生き返ったんじゃないんですか?」

「リグちゃん」

「ああ、無論だ。再開しよう。ロケットの構造に話を移す」

「ええ、大丈夫です」

「では講義再開だ。俺が約束を果たすために。そして誰も彼もが死んでいなくなる結果のためにな」

「……狂ってる」

 口の中で呟いたリグの言葉を、ファルは聴く。

「きっと私も。……ごめんね、ファルちゃん」

 手の中から、ファルはリグの顔を見上げる。

 引き結んだ口と、睨みつけるような視線。リグは覚悟をしているのだと、そう思った。

 もう後には引けない。たとえこの先にあるのが柱の崩壊だろうと、もう引き返せない。

 約束を守るためだけに生き返ってきた亡霊は、嬉しそうに自分の技術を話し出す。まだ、どこかでニノがふと帰ってくるんじゃないか、そんなことを思いながら、ファルは震えの止まらないリグの手の中で天井を見上げる。

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