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思春期フットボーラー  作者: kasic
2章 足掻く少女
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込み上げる想い

(奪えたと思った、なのに股抜かれてズドンか。……何やってんだか)


 沢渡さんに股を抜かれてゴールまで決められ、控え選手も一緒にチーム全体で喜び合っている姿を見て、私は一人自嘲する。後半も残り10分少し、一番気をつける時間帯で感覚だけでボールを奪いに行く軽率なプレーだった。


(でも、ボールは見えてて死角から足を出せたし、今までの感覚だと確かに奪えるタイミングだった。だけど、沢渡さんは私の位置が分かっていたかのようにアウトサイドでタイミング良く股を抜いた。……華音があれだけ言ってたのに、まだ甘く見てたな)


 華音は沢渡さんのことを、調子が良い時はピッチの全部が見えているようなプレーをする、と言っていた。一緒にプレーしてた選手がそこまで言うのだから警戒しないといけなかったのに、中学時のクラブの後輩、しかも控えの選手だったという浅はかな理由で私よりも下の選手と位置づけてしまっていたのは事実だ。


「彩澄、リスタートだ。みんなを集めてくれ」

「あ、うん、みんな集まって!……華音もね!」

「ぁ、すみません!」


 失点後はリスタートの前でみんなで集まって方針の整理をする。今年のルーティーンだったが、さすがに顔つきが暗い。特に華音は昔のチームメイトにやられたからなのか、顔を少し俯かせている。


「ふふ。ふーはははっははは!」

「なに、どうしたの?気持ち悪い」


 この重苦しい雰囲気にも関わらず、私達のキャプテン日吉美琴は何時にも増して気味の悪い笑い声を上げてみんなの注目を集めた。そのおかげか雰囲気も多少和らいだ気がする。


「いやなに、さすがは選手権のベスト8だと思ってな。先制もされたし、一筋縄じゃいかんな。私もPKを外してしまった」

「確かに、キャプテンがPK決めてたらもっと楽に進んだ気がするわね」

「……いや、そこは気にしてない的な雰囲気出すのが普通じゃない?」


 美琴の突っ込みに少しみんなからも笑いが起こった。とは言っても前半終わり間際のPK失敗がこの流れに影響を与えているのは間違いなく、責任は感じているはずだ。


(それも表に出さずに雰囲気良くできて……たいしたキャプテンシーだわ)


 そんな所に惹かれて私は彼女と同じ高校に進んだ。そして、強豪校の中でFWでありながら周りを活かすプレースタイルでみんなに認められて、キャプテンとして奮闘してきた姿も見てきている。

 

(こんな所で終わるわけにはいかないわね)


「まあ我々にもまだまだ課題はたくさんあるということだ」

「そうね、ここで負けるわけにはいかない。みんなもそうよね!」

「おう!」「当たり前!」

「よし!延長になったらウチらが有利だ!ゴール狙ってくぞ!」

「おお!!」


 何とか雰囲気を持ち直してキックオフのために勢いよくポジションに散っていった。見ると相手の方も自陣に戻り、得点者の沢渡さんがボランチコンビの漣さんと抱き合って喜びながらポジションに着いていた。


(得点だけじゃない、試合全体の流れもあの子に作られたわね。これも華音が言ってたか)


 前半終了時はこの世の終わりのような顔面蒼白でベンチに戻っていったが、後半はポジションを変えてアグレッシブにプレーしてきた。

 後半開始直後の私へのプレス、あの強度が相手チームの基準になって流れを押し戻されてる。この流れは彼女の気合いが周りに伝染して産み出された物だ。


(沢渡鳴さん、良い選手ね。もし同じチームだったら楽しかっただろうな)


 リスタートを間近に控え、鋭い目でこちらを見つめてくる沢渡さんの姿を見ながら、そんな意味の無い仮定を考えてしまった。




  ◇  ◇  ◇




(あれ、日吉さんが中盤に残ってる?)


 いよいよリスタートの笛が鳴った。日吉さんのキックオフで再開されたが、ワントップの日吉さんがキックオフの後もセンターサークル付近をちょっと出た所で止まっていることに気づいた。確かにゼロトップのような役割で中盤まで下りてくることはあったが、最初から中盤の位置まで止まっていることは今までなかった。


(こっち来た!考えてても仕方ないか!)


 リスタートの流れで相手CBが中盤の選手にボールを返した。怪訝に思う気持ちを押し込め、私はボールを頭に当ててクリアする。

 そして、そのボールを高城先輩が横に流した所でボールにいち早く反応した日吉さんがボールを収め、反転してドリブルを始める。


(中盤から仕掛け始めるのか。ここまで自由に動かれたらマークにしづらいぞ)


 プレスに来た仁美さんをワンフェイクで交わし、サイドを上がろうとしてきたため、私は急いでフォローに入る。何とかタッチライン際に追い込むが、それでも日吉さんは笑みを浮かべ、余裕すら漂わてボールを晒す。


(逆に迂闊に足出せない……あ、中盤が飛び出してきた!)


 私と戻ってきた仁美さんの間を通し、パスを出した先はなんとアンカーの筈の九条さんだ。一点ビハインドを受けてもしかしたらポジションを変えてきたのかもしれない。


(そんなことはどうでもいい!人数かけて守ろう!)

「私が行きます!皆さんは中を守ってください!」


 私は抜け出した九条さんを追いながら後ろの味方に向かって走った。点を獲らなければいけない相手は中に入ってくる人数を増やしてくるはず。後ろにいるはずの九条さんが上がってくるのもその狙いがあるからだ。


(ここは私がボールホルダーに行って中の人数を増やす!距離感まちがえず、簡単に上げさせないように!)


 九条さんと対峙し、振り切られないように縦へのスペースを切って近づいた。


(中に来い!……来た!)

 

 九条さんがカットインした所ですかさず距離感をつめ、クロスに対して足を出したことで、ボールに足を当てることができた。


「ココアちゃん!」


 ボールは足に当たったことで勢いを失い、軌道も変わったことでフラフラ舞い上がるが、いち早く反応したココアちゃんが飛び出している。


(ココアちゃんならキャッチできる!周りの様子は……ケイがいる!前行っちゃえ!)


 前方を見ると、私の逆サイドにいるケイがハーフウェイライン手前でフリーでボールを待っていた。それを見て私も逆サイドに向かって斜め前に走り出した。


「ココアちゃん、ケイに出して!」


 キャッチしたココアちゃんにケイを指差しながら指示を出す。これを聞いたココアちゃんもすぐに前に走り、ケイに向かってボールを投げた。

 フリーになっていたケイは半身の状態でボールを受け、スムーズに前に向かってドリブルを始めた。しかも、ゴール前ではなく時間を使うべくコーナーフラッグ方向へ膨らみながらボールを運ぶ。


「メイ!早く来なさい!」

「分かってるっつの!」


 いよいよ相手も寄せてきた所で、ケイは上がってきている私を見つけ、叫ぶ。そしていち早く駆けつけた私にボールを渡してくれた。その私に向かって相手のCBもプレッシャーに来る。そこで私はあえて挑発するようにボールを跨ぐフェイントを入れて相手とマッチアップした。


(焦れさせて、相手が食いついた所で、……よし!)

「ケイ!」

「はいよ!」


 ボールがほしい相手が焦れて足を出してきた所でケイにボールを流し、コーナーフラッグに向かって走る。そのスペースにケイが浮き球で相手の頭を越すボールを送ってくれた。


(ここはキープ!最低でもゴールキック、理想はファールかコーナー)


 コーナーフラッグ手前でボールに追いつき、すぐに背中でボールを隠した。相手のCBとSBが体を当ててくるが、何とかボールを隠して時間を稼ぐ。


(いや、でもさすが室谷のCB、当たり強い!なんとかファールもらわないと……よし、ここだ!)


 たまりかねて相手のSBが勢いよくぶつかりに来たのに合わせて、私も前方に倒れた。そこで副審は一連の流れに旗を上げて揺らし、それを見た主審は笛を吹いて相手側のファールを宣告してくれた。


「なんでですか!正当なチャージですよね?」

「良いから!早く始めるよ!」


 相手選手は不服そうにしているが、私の半分演技の行動が上手くいったのだろう。


「メイ!ナイス!」

「うん、我ながらナイスキープだったよ!」


 ケイがフリーキックに備えてこちらに寄ってきた所で手を交わして称え合う。ケイの方もチャンスにできそうな所をよく我慢してボールキープの判断にしてくれた物だ。


「よくゴール前行かなかったね。ビックリしちゃった」


 私達も選手交代でさらに時間を稼ぐらしく、少し試合が止まったタイミングでケイに話しかけた。すると、彼女は得意気に笑いながら返してくれる。


「だって、あなたの高校生活初ゴールの試合よ?絶対あなたの決勝点で勝ちたいじゃない。こんなに負けられないって思ったの初めてかも」

「そっか、ありがと」


 彼女は満面の笑みで躊躇いもなくそう話してくれ、何だかこちらがむず痒くなってしまう。


「ほら、二人ともボーッとしてないで、ボールセットしよ。監督からの伝言、あと5分ぐらいだって。このまま勝つよ!」

「はい!」


 変な雰囲気になりかけた所で、姫花さんと交代で入ったナツさんが割って入ってくれ、私はポジションを取り直す。


(あと5分かあ、長いなあ)


 何とかボールをキープしながら時間を稼いでいくが、室谷の時にはバックラインがドリブルで仕掛けてくるパワープレーにこちらも徐々に押し込まれてきた。


「奪いに行くよ!何となく組織で守らないで!」


 何となく守備ラインが下がり始めていたこの時間帯に監督から檄が飛ばされた。相手DFのパス出しにプレッシャーをかけ続けていた前線二人も疲れが溜まってきていて、プレッシャーが緩くなり始めている。ここは踏ん張りどころだろう。


(全員が後ろにいたって攻められるだけ。私は前向きに、皆さんを引っ張るように守備に行こう)


 何とかクリアしたボールを相手CBに拾われ、それがアンカーの九条さんに出される所が見える。


「前行きます!皆さんも着いてきてください!」


 私はボールを自由に持たせないため、九条さんに当たりに行った。だが、後半の始めには似たような形で裏返されてピンチを招いてしまった。今度はあの時よりも強めにいかなくてはいけない。


「27が来てる!」

(ファールでもいい!強く当たって一回流れを切って……ダイレクト!?)


 九条さんはこちらを見ず、周りのかけ声だけで私の動きを察知し、倒される直前にダイレクト逆サイドに展開してきた。審判はアドバンテージを取って私のファールを流し、ボールを拾った相手CBは空いている前方のスペースに走る。


「オッケー!人数足りてる!私が当たりに行く!」


 しかし、ここは私のカバーに入ってスペースを埋めていたナツさんが対峙し、相手のドリブルが長くなったタイミングでスピードを上げ、すかさずボールを外に蹴り出した。しかし、そのタイミングで相手と交錯し、倒れ込んでしまった。


「ナツさん、大丈夫ですか?」

「いっつつ、大丈夫。けど、沢ちゃんもまだまだだね。ボランチのディフェンスってこうやってやるんだよ?」

「すみません、フォローありがとうございます。大丈夫で良かった」


 後半最初と同じく、またしてもボランチの先輩に助けてもらった。

 しかし、攻撃を食い止めるだけでなくマイボールにしてしまうとは、さすがナツさんだ。大会当初はレギュラーだったのに、今はサイドハーフで途中出場となっても自分のやるべき仕事をこなしている。


(私が変なことしてもみんながフォローしてくれる。私も最後の最後まで全力でプレーするぞ)


 このように何とかサンドバッグ状態になるのを回避しながら試合を進め、いよいよロスタイムに突入した。室谷高校側はロングボールを増やし、こちらのゴール前でのプレーを増やそうとしている。

 相手のSBの選手が私達の右SBとCBの間のスペースを狙ってロングボールを出す。そのパスもこの土壇場で性格に出され、ライン際でキープされた。


「ライン揃えて!マーク外さないように!」


 しかし、今の私達はここで慌てるようなチームじゃない。中に入ってくる日吉さんや中盤の選手をボールウォッチャーにならず、ゾーンを整えてしっかりと確認する。ボール保持者にも厳しくプレッシャーに行き、クロスボールは合わず、サイドに流れる。しかし、そこも上がってきていた右SBの選手に拾われてしまう。


「まだだよ!マーク再確認!」


 逆サイドに振られるとどうしてもマークを確認するのが難しくなってしまうが、それでもクロスに備えて体制を整える。


(ヤバい!相手の狙いはクロスじゃない!)


 クロスを警戒しすぎたことでハーフスペースがぽっかり空いており、そこに中盤の選手が飛び出してきた。そこに向かってパスが出され、私も急いでスペースを埋め、シュートやドリブルのコースを空けないように努める。

 しかし、そんな私をあざ笑うようにヒールで後ろにパスを落とし、ワンツーの形で中に入ってきた右SBの選手が横にボールを流した。そのコースに走り込んでくるのは中盤の底の九条さんだ。


「だいじょぶ!私が行くよ!」


 そこには綾乃先輩がマークに行き、九条さんがシュートモーションに入るような走り込み方を見て、シュートコースを消すように体を広げて身構える。


「違う!シュートじゃない!」


 シュートモーションはフェイントであり、九条さんはループパスで綾乃先輩の体を越すパスをゴール前の日吉さんに送った。

 急いでキャプテンもマークに向かうが、前を向く一瞬の隙を与え、ボールを突かれる前にガラ空きとなっているゴール前斜め45度のスペースに優しいボールを出した。


「キーパー!!」


 ココアちゃんは慌てず走り込んできた選手に静かに正対し、正面に飛んできたシュートを弾き出した。


(こぼれも撃たれる!コースを消そう!)


 方向からしてまだ相手にシュートを撃たれることを確信し、シュートブロックに向かう。予想通りシュートを撃たれ、ボールは私の体の外を通っていった。


(やられた!?)


 しかし、そこにはSBの位置からゴールをカバーしていた木村先輩がボールを跳ね返す。しかし、まだボールはピンポン球のように前線に残っている九条さんにこぼれる。そこには最前線から戻ってきたケイが対峙した。


「私が守る!マーク見失わないで!」


 エースの頼もしい言葉を受け、私達はカバーの一人を除いては全員自陣の相手選手に着く。言葉通りケイは九条さんの切り返しを読んで対応し、シュートを足に当ててブロックした。


「よおっし!!」

「ナイスケイちゃん!」


 枠を外してコーナーキックとなるのを確認し、拳を握りしめて一つ雄叫びを上げた。気合いの入ったプレーにこちらも盛り上がっている!


(ここだ、ここさえ凌げれば勝てる!!)


 もう時間もほとんどない。だが、ここで前半やられたセットプレーだ。九条さんが私達から見て右側のコーナーフラッグに向かい、リフティングをしてボールの感触を確かめている。相手側もここを勝負と見ているのは同じで、ポジション獲りにも熱が入る。

 私の前にはここも華音ちゃんが入ってきて、一瞬目を合わせて睨み合う。


______ピーーーーーーーーッ______


 笛が鳴り、一瞬の静寂の中、九条さんは左手を挙げ、ボールを中に蹴り込んだ。


(速い!狙いはニアだ!)


 私よりも外にいた選手が斜めに前に入っていった。そしてゴール前に入ろうとする華音ちゃんを何とか体を使って妨害する。


(先にコースに入る!)


 ニアに入った選手がボールの軌道を逸らし、流れてくるボールに私と華音ちゃんは足を伸ばす。


「くっ……」


 双方ボールには触れず、ボールは外に流れる。そのボールを味方が外に蹴り出し、今度は逆サイドでのコーナーキックとなる。


「もう一回!!集中!!」

「先に触れてる!次は獲れるぞ!」


 今度は左側でのコーナーキックだ。また同じようにボールの感触を確かめ、ボールをセットした。


(なんだ?なんかイヤな予感がする……。)


 九条さんのキックの感覚はここに来て研ぎ澄まされてる。そこへ来てさっきは速いボールをニアに蹴ってきて決定機を生み出した。


(この状況で一番怖いのは何?どういうキック?)


 そうこう考えているウチに笛は鳴らされ、九条さんは助走をつけ始める。


(考えてる暇ない!こんちくしょう!)

『考える必要はないでしょ?あなたが守るのはゴールだよ!』


 脳裏にそんな言葉が浮かんできた瞬間、ボールが飛んできた。

 先程とは違ってフワりとした滞空時間の長いボールだ。


「キーパー!」


 ココアちゃんがボールに触ろうとゴールを空けて出ていく。それを見て華音ちゃんがまたもゴール前に入ってきた。

 いち早く反応した日吉さんがボールを折り返し、華音ちゃんにピッタリ合うのが見えた。


(ゴールを守る!)

「んああああっ!!!」


 ボレーシュートの体勢に入った華音ちゃんを遮るように足を伸ばし、次の瞬間にはボールを受けた強い衝撃を残してボールは高く跳ね上がった。


「クリア!!」

「はい!!」


 すかさず落下地点に入ったケイがサイドラインまでボールを全力で蹴り飛ばした。


「しゃあ!!ナイスクリア!」


 主審が小さく笛を鳴らした瞬間、綾乃先輩が強く頭をはたいてきた。それを皮切りに次々と皆さんとハイタッチをする。


「メイちゃん!ホントにありがとうございます!助かりました!」

「これで貸し借りなしだからね!」

「はい!!やっぱりメイちゃんはすごいです!!」


 ココアちゃんが勢いよく抱きついてきて、私も強く抱き返す。まだ強い衝撃が足に残っており、やっと絶体絶命のピンチを回避した実感が湧いてきた。


「まだロングスローあるよ!キーパー判断はいつも通りね!」

「はい!!」


 私達も気を抜かず相手選手のマークを直す。既に全員が自陣に戻っており、みんなで守る体制だ。

 時間をかけずに相手選手が助走をつけ、ボールを放り投げた。


「キーパー!」


 ふんわりとしたボールに躊躇無く飛び出し、しっかりとボールを抱え込んでそのまま地面に倒れた。


「ナイスキーパー!」

「よし!焦らず時間掛けて!」


 ベンチを見ると監督が審判に時計をアピールしている姿が見える。


______ピッピッピーーーーー______


(お、終わった?)


 ココアちゃんが長いボールを蹴り出した瞬間、主審が長い笛を鳴らして真ん中を両手で指差した。

 その瞬間、腰から力が抜けて座り込んでしまう。


(終わったんだよね?)

「やった!メイ!逆転勝利だよ!!」


 次の瞬間、座り込んだ私に綾乃先輩が目線を合わせて抱きついてきた。


「沢ちゃんやった!」

「ナイスゴール!ナイスクリア!」

「お前がMVPだ!やったぜ!!」


 それを皮切りに皆さんが次々と私に集まり、綾乃先輩に起こされるとすぐさまみんなで輪になって喜び合う。散々頭を乱暴に撫で回され、髪型はメチャクチャだ。


「メイ……」


 ひとしきり騒いで輪から解放されると、ケイが涙を浮かべながらこちらを見ていた。


「メイ、やったね、やっぱりあなたは……すご……っすごい」


 嗚咽を交えながらケイが抱きついてきた。その様子を見て、彼女の背中に腕を回した瞬間、私の目からも何か熱い物が落ちる。


「……もう、なんでケイが……泣くんだよ……」

「だって、ずっとこうやって……あなたと喜び合いたかったから……中学の時からずっと……」


 その言葉を聞いて、やっと私は実感が湧いてきた。

 相手というより、弱い自分に打ち克てたような、そんな感慨深い実感が私の胸の中にあった。

全国高校女子サッカー選手権大会

A地域 決勝トーナメント準々決勝


芳都野高校3-2室谷高校(前半1-2/後半2-0)


得点者(芳都野高校のみ):高城 五十鈴、藤堂 恵、沢渡 鳴

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