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思春期フットボーラー  作者: kasic
2章 足掻く少女
43/54

緊張感

「芳都野高校さん、入場開始までこちらで待機でお願いします!」

「はい、列広がらないようにね!」


 いよいよ準々決勝の日がやってきた。ここからは会場はプロの公式戦も開催される立派な陸上競技場となり、ネットを通じて全国で配信もされるようで、気持ちも昂ぶってくる。


「みんな、相手のメンバー表届いてるよ!各自確認して!」


 キックオフ2時間前に伴い、室谷高校からも私達にメンバー表が届けられた。先発メンバーやベンチ入りメンバーにも何人か見知った面々が名前を連ねている。


「前回と同じね。あの三人もいる」


 CBの位置に同級生の華音ちゃん、中盤の底の位置に九条彩澄さん、FWの位置に日吉美琴さんが名前を連ねていた。


「ビッグガールズ出身の三人ですか?日吉選手と九条選手は主将と副主将で不動のスタメンですけど、松永選手はこの選手権からスタメンですよね。やっぱり昔から良い選手なんですか?」


 私達の後ろにいたココアちゃんが上から覗き込みながら聞いてくる。相変わらず身長が高くてキーパーとして頼もしい。


「うん、華音ちゃんはもちろん対人も強くて、ゴール前の判断とかも的確だったんだけど、何よりよく声出してディフェンス陣を統率してたんだよね」


 そして、その統率能力という長所は私の数少ない特徴と丸かぶりであった。そのこともあり、中学時代の私はCBに転向して三日もすれば彼女には敵わないと思ってしまった。

 ……考えていると気持ちが暗くなってしまう。話を変えよう。


「先輩達の方は一緒にやってたケイの方が詳しいんじゃない?」

「ええ、九条さんの方は今と同じ、危機察知能力が高くてこぼれ球を拾うのがうまいし、左足でも右足でも攻撃の起点になるパスも出してくれた。日吉さんの方は中学時代もキャプテンで……正直あんまり上手かった記憶はないんだけど、あの人には何故かボールが集まってたのよね」

「それは、ポジショニングが上手いとか、そういうこと?」

「それもあるけど、……何というか変な人だったわね。そのおかげなのかしら」


 ケイは少し考え込んで、プレーではない性格面のことを話した。確かになんか癖が強い人だったような。


「久しぶりだな、藤堂恵!」

「え……」


 妙に芝居がかった声が聞こえ、私達はそちらを向いた。


「よくぞ私達がいる舞台まで上がってきたものだ。一次トーナメントからお前のことは注目していたぞ」

「えっと、日吉さんですか?」

「いかにも。室谷高校の救世主、ゴール前の魔術師日吉とは私のことだ!」

「いえ、二つ名までは聞いてないですけど」


 えらく抑揚のついた言葉で髪をかき上げながら話し、彼女は高らかに宣言した。


「……確かに癖強い方ですね」

「うん、なんか思い出した」



 若干顔を引きつらせながらココアちゃんが耳打ちをしてきた。私も何となく思い出してきた。


「うっさいわ。困ってるでしょうが!」

「おっと、誰かと思えばア・ズーミ。見ろ、中学時代の後輩だぞ。背も伸びて見違えてるだろ」

「確かに、言われてみれば藤堂さんじゃない、懐かしいわね」


(あの、私もいるんですけど……)


 二つも上の先輩とは全体練習も別で行っており、あまり接点がなかったためか、私はどうやら気付かれていないらしかった。


(まあ、特別に話したいわけでもないし、私は気配を消して……)


「あ、メイいた!!」

(げ、華音ちゃん)


 背後から聞き馴染みのある懐かしい声が聞こえ、振り向くと私と同じぐらいの背丈で紙を短く切りそろえた、いかにも快活そうな少女が小走りで近づいてきた。


「メイ!久しぶり!一年から試合に出てて、さすがだね!」

「……うん、久しぶり」

「む、君が沢渡さんか。すまない、気付いていなかった」

「華音から聞いてたけど、背が伸びて大人っぽくなったわね」

「や、いえ、それほどでも……」

「おい、対戦校にあまり迷惑かけるな。そろそろ入場だし、列に戻れ!」


 室谷高校の顧問らしき先生が彼女たちを呼び戻す声が聞こえた。私にとっては救いの声だ。


「おっと、そろそろ入場か。では、良い勝負をしよう!」

「また試合でね」

「あ、メイ!」


 日吉さんと九条さんは戻っていったが、華音ちゃんの方は私の方に向き直り、一歩近づいて小声で話しかけてきた。


「メイと試合できるの、ホントに楽しみにしてたんだ。上がってきてくれて嬉しかった」

「うん、と言っても、私はベンチスタートだけど」

「メイは絶対出ることになる。いや、私達が引きずり出すわ」

「……えっと」


 華音ちゃんは後ろ手を組みながら更に顔を近づけ、私にだけ聞こえるように囁いてきた。その迫力ある雰囲気に思わずたじろいでしまう。


「……なんてね、それじゃ、良い試合にしようね」


 顔をいつもの親しみやすい笑顔に戻すと、冗談めかすしてそう呟き、小走りで二人の下に向かっていく。

 しかし、意図の分からないことだけ言って去って行き、なんと勝手なやつだ。


「確かに、トーナメントも後半になってみんな疲れもたまってる。遅かれ早かれメイの出番は来るわ。しっかり準備しておいて」

「……うん、そうだね」


 しかし、彼女たちがなぜわざわざ集団を抜けてまでこちらに来たのか。本当に旧交を温めにきただけなのかな?












「いやあ、メイ、何も変わってなかったなあ」


 一年生DFの松永華音が嬉しそうに鼻歌を鳴らしながらこちらに戻ってきた。この一週間彼女はずっとこんな調子だ。よほど沢渡鳴との対戦を意識しているらしい。


「あの子のこと、そんなに気になるの?華音の控えだっただけでしょ?ビデオで見ても今のところそこまで印象に残るプレーしてるわけでもないし」


 呆れながらそう話すのは九条彩澄だ。確かに今大会は先発出場は一つだけ、運動量はあるようだが、ミーティングで名前が挙がるようなプレーはなく、今日の先発リストに名前もなかった。


「メイを絶対甘く見ないでください」

「えっと……」


 先程までの笑顔を突如として変え、少し声を震わせながら話す。その変わり具合は明らかにおかしく、思わず彼女の肩を掴んだ。


「おい、どうした。意識しすぎじゃないのか?」

「……すみません。メイのすごい所ってプレーだけじゃないんですよ。いつも気持ち全開でぶつかってきて、それがチーム全体に伝染するんです。控え組に負けるパターンは大体それでした。あと……」


 華音は少し顔を下げ、息を整えてからまた話す。


「うまく言えないんですけど、偶に妙に雰囲気ある時があって、その時のプレーはホントに凄いんです。ピッチの見えてないところまで全部見てるじゃないかってぐらい動きも早くて。そのプレーを常に見せられたら、私なんかすぐに追い抜かれるってずっと恐ろしかった」

「視野が広いってことなの?」

「部分的に見たらそういうことなんでしょうけど……なんかもっと、思考とか全部読まれてるっていうか、とにかく他の選手にはないプレーをするんです」


 あまり要領を得ないが、沢渡鳴の長所は身体能力や技術の所以外にあるということか。一緒にプレーした選手がそこまで言うのだから、彼女には確かに何かあるのだろう。


「もしメイが出てきたら、プレーが乗る前に叩いてください。そうすれば、私達が勝てます」

「……分かった。意識しておこう。一年で中学時代は控え、試合経験は豊富ではない。もし出てくれば崩すのは彼女だ」

「了解。配球も考えとく」


 私達にとって最後の大会。ここで負けるわけにはいかない。


「あと、意識しすぎはアンタの方もでしょ。わざわざケイちゃんにちょっかいかけに行ってさ」

「むう、少し大人げなかったか。あまり気にしてないようではあったが」


 中学時代、彼女が入るまでは私がエースで、自分が特別な選手だと思っていた。だが、二つも下の彼女が入ってきて、エースは瞬く間に藤堂恵に移り、当時の実力や伸びしろ、ピッチ内での立ち振る舞いも含めて選手としての格の違いを思い知らされたのだ。


「意識するのは分かるけどさ、私達にはあの子達が経験してない二年半がある。余裕は崩さないようにしなさいよ?」

「ああ、分かってる」


 この二年間、身体能力が及ばないことは分かりながらも、体の使い方やポジション取り、チーム内で影響を持つこと、ピッチ内外で研究を続けてキャプテンにまでなれた。だが、去年の選手権も今年の総体も決勝まで行って勝てていない。


(今回こそは勝って全国に私の名前を知らしめてみせる!)


 私が卒業してからも藤堂恵は年代別代表に入ったり、順調に成長してきたことは分かっている。だからこそ、勝って私はそれ以上に成長したことを彼女に示したい。

 そんな思いを胸に、私は入場列に向かった。











「はい!スタメンは学校で話した通り、だけど、試合の流れによっては前半からも全然交代はある。とにかく最初からフルパワーで出し切ること」

「はい!」


 ウォーミングアップも終わり、いよいよ入場直前。クロス練習で団結も深まったおかげか、チームの雰囲気も過去最高潮だ。二次リーグ初戦と同じ三強の一角相手だが、雰囲気はあの時と全然違う。

 

「相手のキーマンはワンボランチの6番九条さんとCFの9番日吉さん、彼女たちに好き勝手やらせなければそうはやられない。中盤から下はそこ意識してね」

「はい!」

「よし、それじゃあ、キャプテンお願い!」

「はい、みんな集まって!」


 ベンチ入りの23人、コーチスタッフ陣が全員輪になった。負ければ終わり、しかも三強相手になると、自然と皆さんの肩を組む力が強くなる。


「最初からフルパワーでね!前から行くよ!」

「はい!」

「今日はスタンドからみんなが応援してくれてる!みんなの力で勝つよ!」

「はい!」

「今日勝ったらベスト4!絶対勝つぞ!」

「おお!!」


 円陣が解かれ、スタメンの皆さんは入場列へ向かっていった。ベンチスタートの私は一人一人をハイタッチで送り出す。


「メイちゃん、頑張ってくるね!」

「はい!仁美さんのドリブルならぶち抜けますよ!」


 私達の変更としては、ここまでベンチスタートが目立っていた仁美さんが左サイドハーフでスタメンとなった。同級生で同じタイミングでAチームに昇格した姫花さんがレギュラーとして活躍しており悔しさを抱えていたため、気合いが入っているだろう。


「はい、ベンチスタート組はもうちょっと話を聞いてね」


 私達もベンチに向かおうとすると、監督が一つ手を叩いて語りかけてきた。


「さっきも話したけど、今日からは総力戦だよ。みんなの力がないと絶対に勝ち上がれない。いつでも出られるように準備しておくこと。ヒーローになれるチャンスはみんなに転がってる、いいね?」

「はい!!」

「よし、じゃあ行っておいで!」


 監督の私達にだけ向けた言葉でさらに私達の雰囲気は盛り上がった。こういう所は人の心が分かっている監督だ。


「沢渡さん、少しいいですか?」

「はい、何でしょうか」


 今度こそベンチに向かおうとすると、宮本コーチが更に私だけに声をかけてきた。


「今日はどんな試合展開になるか何時にも増して分かりません。沢渡さんにはメインの中盤の他にも、CBやSBでも出てもらう可能性があります。どのポジションでも自分のプレーを見せてくれれば問題ありませんが、心の準備はしておいてください」

「……分かりました。イメージトレーニングをしておきます」


 どのポジションでも評価されることは素直に嬉しい。それに、私だって今日の試合はチャンスがあればどんな形でも出場したい。


(ビビるな、私の成長を華音ちゃん達に見せてやるんだ)


 バクバクする心臓を深呼吸しながら落ち着かせ、私もピッチサイドに向かった。

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