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思春期フットボーラー  作者: kasic
1章 立ち上がる少女
14/54

スパイラル

 さて、試合当日、今日は45分のゲームが三本行われ、私は二本目からの出場と告げられた。というわけで一本目の今はピッチ脇で体を動かしつつ、戦況を見守っている。Aチームにとって総体予選敗北から初めての試合なのだが、あのバタバタしていた試合とは異なり、今日はしっかりと試合に入っていっている。どうやらあの試合の結果が相当悔しかったようで、しっかりと練習してきていたらしい。


「ラインしっかり揃えて!マーク確認!」


 渥美先輩のコーチングの声がよく響いている。目下の競争相手である小柄な先輩はその熱い性格を生かしてしっかりとDF陣を統率していた。


「はい!私が出ます!」


 何度かあったセットプレーのピンチでもココアちゃんが長い手でガッチリ危なげなくキャッチをしていた。キーパーにとって前に出るのは勇気がいるらしいのだが、ココアちゃんはそれを難なくこなしている。


「この前の練習試合の時から思ってたけど、ココアちゃんってやっぱり一年生にしてはすごいよね。やっぱり、中学時代から有名だったの?」


 近くで体を動かしていた仁美先輩が私に聞いてくる。


「いや、私はクラブチームに居たので、中学の部活動の選手はよく知らないんですけど、あそこまでのキーパーは見たことが無かったです。なんで他の強豪校に行かなかったのかっていうレベルですね」

「そっかー、クラブチームでも居なかったか…………ってあ!!」


 そんなことを話しているとペナルティエリア少し外でボールを受けた藤堂さんがそのまま足を振り抜き、ボールをゴールネットに突き刺した。相変わらず惚れ惚れとするミドルシュートだった。


「いやー、やっぱり活きがいいねえ、今年の一年は。って由香、どうしたの?なんかむくれてるじゃん」

「別に、なんでもないわよ」


 みんなが歓声をあげる中、二年生フォワードの高野たかの 由香ゆか先輩が腕を組んで納得がいっていない様子でピッチを見ている。


「どうしたも何も、あの子がゴールしたのが気に入らないんでしょ?愛しの五十鈴先輩の活躍の機会が奪われるから」


 どことなく冷めた様子で同じく二年生で主にボランチを務める新谷しんたに 夏美なつみ先輩が口を挟む。


「別に、そんな子供じみた理由じゃないわよ!あんなシュート早々決まるわけじゃないし、今も五十鈴先輩がマークを外して裏に走ってたんだから、そこを使った方が確実だったんじゃないかって思っただけ」

「ああ、確かにそれは分かるかなあ。私だったら見えてたらパスの方を選択したかも。けど、あそこでシュートを撃って決めちゃう辺り、ストライカーって感じだよね」

「どこが?ただの自分勝手なプレーじゃないの」


 仁美先輩が苦笑いしながら高野先輩の方を見ている。この三人と姫花先輩は同じ中学校を卒業しているらしく、仲が良さそうだ。

 先程の高野先輩の言葉からも分かるように、ウチのフォワード陣はこのように仲が良いとは言えないのだ。どうしてこうフォワードというのはこう面倒くさい性格をしているのか。


 そんな風にグダグダ話していると審判が笛を三回鳴らした。一本目が終わったようだ。


「二本目出場のみんな、ウォーミングアップに行くよ!」

「よし、じゃあ気合い入れていくかあ」

「ほら、いつまでもふて腐れてないで、行くよ」

「ふて腐れてなんかない!」


 私も皆さんに続くように一本目を終えた皆さんとハイタッチをしながらピッチに入った。


「お疲れ、ココアちゃん。すごく良かったよ」

「ありがとうございます、メイちゃんも頑張ってくださいね」

「ああ、うん」


 すぐ後ろから藤堂さんも高野先輩と一悶着を起こしながら歩いてきた。


「……藤堂さんも、お疲れ」

「……どうも」


 そっと一度手のひらを合わせた。


(一年生が二人とも存在感を見せてた。私も、あんな風にプレーができるのかな?)


「どうしたの?元気、無いみたい」


 私が物思いに耽っていると前から姫花先輩が来て顔を覗き込んでいた。


「ああ、大丈夫です。心配してくれて、ありがとうございます」

「……そう。それならいいんだけど……」


 そう言いつつも、姫花先輩は私の方を見て口を開けたり閉じたりして何か言いたげだ。


「あの、まだ何か?」

「ごめん、うまく、言えない。けど、いつも通りに見えないから、ちょっと心配で」


 イマイチ何を言おうとしているのかは分からないが、内気な先輩が一生懸命自分の気持ちを伝えようと頑張っているのは伝わってくる。


「ありがとうございます。私はいつも通りですよ。試合、頑張ってきますね」

「……うん、頑張って」


 姫花先輩は釈然としない顔をしていたが、最後にはベンチに引き上げて行った。

 ウォーミングアップでは各自シュート練習やパス回しなどで自分の体の調子を確認していく。大丈夫だ。体はいつも通り動く。

 ウォーミングアップを終え、水分補給も終えた辺りで審判の皆さんが笛を吹いてピッチに入った。


「よーし、みんな練習通りね。リラックス、リラックス」


 このように声をかけてくる監督ともハイタッチをして、いつものように芝生に手を置き、ピッチに入った。円陣を組み、右CBの位置にポジションを取った。今日コンビを組むのはキャプテンの長瀬先輩だ。胸に手を置いて深呼吸をした。大丈夫、そんなに緊張はしていないようだ。


 二本目開始の笛が吹かれた。ボールを受けたボランチの綾乃先輩が長いボールを蹴った。そのボールを相手が外に出し、そのスローインのボールを受けた仁美先輩が強引に切れ込んでシュートを撃った。うまくミートしなかったのか、あさっての方向にボールは飛んで行ってしまった。仁美先輩は頭を抱えている。一本目の藤堂さんのゴールに触発でもされたのだろうか。

 しかし、試合早々にシュートを撃てて中々良いスタートを切れたのではないか。


(あ、マッチアップする相手、確認しないと)


 相手は一本目から選手を替えてきていないようだ。私の相手はツートップの一角の九番の選手である。


(一本目はあんまりボールを触ってなかったな。どういうプレーが得意なのかは分かんないけど、足はあんまり速くなかった)


最初は確かに少し緊張していたが大分余裕が出てきた。この調子でうまくボールを捌くことができたら完璧に調子が出てくる気がする。

 相手がサイドでボールを持ち、私の裏へボールを蹴ってきた。九番を独走させないように体を入れた。


(よし、大丈夫。このままボールに追いつけば……)


 そう思った瞬間、手で掴まれた感覚が私の肩に一瞬残った。そして次の瞬間、私の視界は夏の青空で一杯になった。


(何が……起こったの?私、ちゃんと体ぶつけて、それで、間違いは無かったはずなのに……)


 上半身を起こしてゴール前を見ると、既にキーパーとフォワードが一対一になり、ネットが揺らされている光景が私の目に映った。審判が相手の陣地を指さし、副審も同じく相手の陣地をフラッグで指している。


(え?失点?なんで?だって、私、倒されたんじゃ……)


 仁美先輩や長瀬キャプテンが審判に詰め寄っているのも見える。今何が起こっているのかイマイチ理解はできないが、それでも私がマッチアップしていた相手がゴールを決めたことだけはハッキリと理解できた。


「ほーら、メイちゃん、いつまでも座ってないで立とう?また取り返しにいくよ」


 ボランチの綾乃先輩が穏やかな笑顔で手を差し出してきている。うまく考えがまとまらない。私の対応に間違いは無かったはずなのに、なんでチームは失点しているのか。


「あの、綾乃先輩、これって、私のせいですか?」


 思わず綾乃先輩にこんなことを聞いてしまった。今の私はさぞかし情けない顔をしていることだろう。


「そんなことを考えるのは後だよ。ほら、お姉さんにつかまって?」


 その言い方が綾乃先輩が私のせいだと行っているようで、少し聞かなければ良かったかと後悔した。

 しかし、確かにいつまでもこうしているわけにも行かないので大人しく起こされた。どうやら私は審判に見えないように引き倒され、そのまま独走を許してしまったようだ。


「切り替えて!始まったばっかりだよ!ディフェンス陣!練習通りにライン高く保つようにね!」


 監督からも指示が飛んでいる。失点は気にせずにいつも通りに守っていこうということだろうか。

 リスタートの笛が吹かれた。ボールを受けた漣先輩が今度は優しいボールを私に出した。


(え?私?)


 さっきゴールを決めた九番の選手も勢いをもって私にプレスをかけてくる。


「メイちゃん大丈夫!前にロングボール!」

「沢渡さん!大きく蹴って!」


 綾乃先輩と長瀬先輩から指示が出た。ここぞとばかりに厳しくプレスを掛けられるが、なんとか前に蹴り出し、難を逃れたが、そのボールは相手に渡り、息をつく暇がない。

 しばらくするとまた相手からロングボールが来た。私はボールの落下点に入った。しかし、ここでこっちに走ってきている九番が目に入る。


(あれ?こういう時、外に出せばいいんだっけ?それとも、前に返せばいいんだっけ?)


 判断に迷いが出る。そして、次の瞬間だった。


(あ……やばっ)


 私の頭にかすったボールは私の後ろのペナルティエリアに転がっていく。それを狙って相手の九番が走って行った。


「オッケー!!」


 カバーに来ていた長瀬先輩が相手と交錯しながらも外に蹴り出した。足を蹴られたらしい長瀬先輩は倒れこんでいる。


「すいません長瀬先輩、私のせいで……、大丈夫ですか?」

「いってて、大丈夫だよ、沢渡さん。それより、沢渡さんも、さっきのこと、気にしてるの?大丈夫、もっと落ち着いて、いつも通りやろう」


 立ち上がった長瀬先輩は私の肩に手を置きながら話し、自分のポジションに戻った。


(いつも通り……か。そうだ、いつも通りにやれば…………いつも通りってなんだ?どういうプレーだ?そもそもいつも通りにやった結果が最初の失点なんじゃないのか?)


 もはやどう動けばいいのか分からない。しかし試合は容赦なく進んでいく。中学までの練習試合とはプレースピードがまるで違う。相手の右サイドハーフがボールを持つと、相手の九番がサイドに走り、ペナルティエリ端のゴールライン付近でボールを受けられた。私も追いかけるがPKが怖くて強く当たることができない。


「メイ!しっかり中を切って!」


 ベンチから大きな声が聞こえてきた。相手九番はなんと私を背負ってボールをキープすると見せかけ、そのまま体を預けながらターンして上手く体を入れ、そのままサイドを破ってきた。

腕でうまく体を抑えられ、うまくボールを隠しながらドリブルをしているので、下手にボールを奪おうとすると足に引っかかってPKになる恐れがある。


(PK覚悟で強く当たった方がいいの?分からない、私はどうすれば…………)


その迷いが命取りだったののか、そのまま早いクロスを送られ、ゴール前に詰めていた選手に落ち着いてゴールに流し込まれた。

今度こそ事故でもなんでもない私が原因での失点で、私はその光景をただ立ち尽くして呆然と見ていた。


「芳都野高校、沢渡さん(12番)、交代です!」


リスタートしてすぐに私の番号が呼ばれた。審判の横ではセンターバックの先輩が立っている。すぐに駆け足でピッチを出る。この早い時間帯での交代は確かに悔しいが、それよりも早くここから逃げたい気持ちの方が強かった。


ベンチに戻ると、コーチは一言声をかけてくれたが、監督は私の方は一瞥もせず、ピッチの選手達に指示を出し続けていた。


(また、同じこと繰り返すのか。今度はどこのポジションに変えられるのかな?)



  中学時代とまるで同じである。少し試され、そこで失格の烙印を押され、試合には起用されなくなる。もっとも、今回のプレーは本当に酷い物だったが。


「あの、ちょっと外走ってきていいですか?」


 この場に居るのが苦しくて、ベンチに座ってみんながサッカーをしているのを見たくなくて、出迎えてくれたコーチにそう話した。


「分かった。試合終了までには帰ってきてね」

「はい」


 そう言うと足早にグラウンドを出た。こんな申し出が許可されるとは思っていなかったが、気を遣ってくれたのだろうか。グラウンドを出る際、ベンチに居たココアちゃんと姫花先輩は何か言いたそうにこっちを見ていたが、それすらも気にする余裕は無かった。


 足を動かせば少しでも気晴らしになるかと思ったが、そんなことは少しも無かった。走っても走ってもゴールネットが揺らされる様が頭から離れない。悔しいというより、自分が情けないという気持ちの方が強い。少し相手にしてやられたぐらいでどうしたらいいか分からなくなり、立て直すことが出来なかった。


(いや、これが私の実力なのかもしれない)


 少しやられたぐらいで簡単に動揺するぐらいのメンタルの持ち主なのだ。そもそもスポーツをするのに向いてないのかも知れない。いっそのことそう思ってしまった方が気分的には楽に違いない。

 しかし、そう思おうとしても、いつもどこか自分に期待してしまう。小学校ではキャプテンもやって強豪相手にも点がとれた。中学校でも練習試合ではどこのポジションでも自分なりのプレーはできた。この前の練習試合だって、良いプレーができた。だから次こそは……そんな風に考えてしまう。

 こんな惨めな気持ちでも涙は出てこない。そういえば、昔はよく泣いていた気がするが、いつからかサッカーのことで涙を流すことは無くなっていた。


 


 グラウンドに戻ると、まだ二本目の試合が続いていた。スコアはあのまま2対0のままのようだ。戻ってくる私に気がついたココアちゃんと姫花先輩が渡しに駆け寄ってきた。


「メイちゃん、おかえりなさい」

「……おかえり」

「それで、あの……その……」


 二人は何やら何かを言おうと言葉を選んでいる。


「ああ、うん、大丈夫。ちょっと走ってたらスッキリした。心配かけて、ごめんね」

「本当に、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫、大丈夫」


 私はできるだけ笑顔で返事をした。それでうまく取り繕えているかどうか、自信が無いけれど。


「メイ、お疲れ。今回はコーチに許可をとったってことで見逃すけど、次からは私に言ってからそういう行動をとるようにね」


 監督が私に声をかけてきた。怒っている様子は特にない。あんなプレーを見せた後だとむしろ厳しく言ってくれた方が楽なのに、ある意味で意地の悪い監督である。




 


「はい、皆さん、今日の試合、お疲れ様でした。細かい所はまた明日、ビデオを見ながら話すけど、着いていきなりの試合だった割に、全体的には私が皆をボロクソに貶した春の試合よりは格段に良かったと思います。とはいえ、久しぶりの試合だった影響もあったと思うけど、ミスが多くて、そこはいただけなかったね。あと二試合練習試合もあるし、そういう所も意識して修正していきましょう!」

「はい!」

「よし!良い返事だね!さて、それでは今日の宿題を発表します」

「えー、監督、学校じゃないのに、宿題があるんですか?」


 綾乃先輩が絶妙な所で横やりを入れ、少し笑いが起き、少し雰囲気がなごんだ。


「まあ、大した話じゃないよ。各自今日は良いプレーができた、思うようにプレーできなかった、色々あると思う。けど、それで終わるんじゃなくて、今日のプレーの反省点、みんなあるよね。どうして今日みたいな内容になったのか、次はどうやったらもっとうまくできるか、それを各自で考えてみて。何でもかんでも監督とかコーチに頼るんじゃなくて、自分で考えて動いてみましょう。その過程で分からないことがあったら私に聞いてくれればいいし、何かおかしいと思ったら、私達も声をかけます。分かった?」

「はい!」

「よろしい。じゃあ今日は解散、夕食は7時からだから、各自それまでにシャワー浴びちゃってね、じゃあ今日はお疲れ様でした!」

「「「「「「「「お疲れ様でした!」」」」」」」


 やっと今日のスケジュールが終了した。なんだか今日ほど長い日はいままで無かったような気がする。


「戻りましょうか、メイちゃん」

「うん」

「有希ちゃんももう終わりましたかね?」

「んー、どうだろ?」

「沢渡さん」


 後ろから声をかけられた。声がした先には、今日も点を決めた中学時代のチームメイト、藤堂さんが立っていた。


「少し話があるんだけど、ちょっと来てくれない?」

「ここじゃあダメなの?」

「うん、二人で話したいから」

「そっか、ココアちゃん、ちょっといい?」

「はい、私は大丈夫です」

「そっか、じゃあ、ちょっとごめんね」


 私と藤堂さんはグラウンドから出て、人通りの少ない用具室の陰に向かう。それにしても藤堂さんの様子に少し凄みを感じる。


「それで、何の話?」


 言いたいことは大体分かっているのだが、形式的に質問した。


「分かってるでしょ?やる気が無いなら、帰ってくれない?今日のあなたは見てるだけで腹が立つの」


 整った顔をしかめ、大体予想通りの言葉を発した。


「やる気が無いわけじゃないんだけどね、あれが私の実力ってだけだよ」

「プレーのことじゃないわ。まあ、プレーのこともあるけど、私が言ってるのは試合後のこと、そういえば去年も言ったわね。あんなプレーして、ヘラヘラ笑って、どんな神経してるの?」

「あんなプレーだからこそ、笑うしかないんだよ。藤堂さんはそんな気持ち、分からないんだろうけどね。話はそれだけ?じゃあ、私、戻るね?」


 そう言って話を切りあげようとすると、手首を掴まれた。痛いぐらいの力で。


「……離してよ」

「あなたは、いつからそうなってしまったの?昔のあなたは、そんな人じゃなかった!」

「昔からそうだよ。離してってば!」


 掴んでいる手を引きはがそうとすると、さらにもう片方の手も掴まれる。


「離さない。あなたは前もそうだった!何も話さないで、うまくいかなくて勝手に諦めて!そんなんでお姉さんみたいな選手になれるわけないじゃない!!」


 痛い所をつかれて少し言葉を失う。しかしすぐに私の頭にも言葉が色々出てくる。


(何も分かってないクセに……そんなに才能があるクセに……)


「何も分かってないのにそんなこと言わないでよ!私がどれだけ、どれだけ頑張ったか、それでダメだったときの気持ちなんてケイには分からないよ!!」

「分かるよ!私は毎日見てた!メイがいつも誰よりも早く練習場に来て、練習後もいっつも居残りで練習して、朝だって一緒に頑張ってたじゃない!!あんなに頑張れる人が、今こんなプレーしてて、それで笑えるなんてあり得ない!!」

「自分の価値観を私に押しつけないで!自分は才能があるからそんなことが言えるんだよ!」


 いつの間にか取っ組み合いになって子供の喧嘩のように動き回っていた。お互い息を切らして何が言いたいのかよく分からなくなっているのではないだろうか。


「メイ、落ち着いて!」

「喧嘩はダメです!」

「ちょっと二人とも、どうしたの?」

「ひとまず少し落ち着こう?」


 この騒ぎを聞きつけたのか、私はココアちゃんに羽交い締めにされ、前から有希に抱きつかれた。藤堂さんの方は長瀬先輩に押さえられ、綾乃先輩が私達の間に入った。


「二人とも離して!」

「イヤだよ!仲間をこんな風に傷つけようとして……私はこんなメイを見たくない!」

「そうです!いつもの優しいメイちゃんに戻ってください!」


 その言葉を聞いてハッと我に返る。私は今まで何をしていたのだろう。うまく行かないからって、発破をかけようとしたチームメイトに八つ当たりをしただけではないのか。


「まあ、少し落ち着いて。こんなに騒いでたら監督が来ちゃうから」

「私がどうしたって?」


 綾乃先輩が私達をなだめるようにそう言っているそばから監督がやって来てしまった。あちゃーと言いながら綾乃先輩は額を抑えている。

 監督は取り押さえられている私達を見ながら眉間にしわを寄せて語りかける。


「二人とも、これはどういうこと?」

「………………」


 私達は何も答えなかった。藤堂さんの方を見たらめずらしくふて腐れたように下を向いていた。私達のその様子を見て監督が一つため息をつき、また話す。


「まあいいよ。また後で二人には話を聞くから。みんな部屋に戻ってはやくシャワー浴びな?大分注目集めてるよ?」


 監督が指差した方向を見ると、サッカー部の皆さんが戦々恐々といった様子でこっちを見ていた。


「メイ、ほら、戻ろう」

「そうです、一旦戻りましょう」

「……分かった」


 藤堂さんはずっと俯いており、今は何を考えているのかは分からない。私達は部屋に戻ってシャワーを浴びるまでずっと無言だった。手首を見ると掴まれた跡が生々しく残っている。


「二人とも、さっきはごめん」


 シャワーを浴び終え、さっきのことを謝ると二人は怒ったように一つ息をついた。


「別に、謝られることは一つもありません。けど、メイちゃんは私に何も言ってくれませんでした」

「そうだよ、内容はよく分かんなかったけどさ、今日の試合が原因であんなことになったんでしょ?だったらさ、教えてよ。メイが今、中学の時から、何に悩んでるのか」

「そうです!私はメイちゃんの友達だと思っています。友達が悩んでたら、力になりたいんです!」


 二人の力強い瞳に、私は心を動かされる。そしてゆっくりと、中学時代のこと、そして今日の試合後の感情のこと、自分の思うままに話してみた。

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