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終焉の本を読んでいた男  作者: 帽子屋 黒兎
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新世界の噺.2

先週と昨日分がうまく更新できていなかったようです。すみませんでした。

・新世界の噺.2

「あなたの話が事実の場合、おそらくあなたは『男』でしょう。ただ、『男』は終焉の英雄のなかで最も人気も期待値も低い人物です。それはまず、いたことは確かで、終焉という危機に対して、ほかのどなたよりも『男』は何もしていません。学者たちの中でも『男』の評価は『終焉を前に現実から逃げ出した腰抜け』です。一応英雄のくくりで呼ばれていますが、扱い的には罪人みたいなものです」

英雄の世話係と罪人の世話係では給料も天と地の差です。とメイド少女は締めくくった。だが、だからどうしろというのだろうか。過去に戻って働けニートとでも言って来いと?

「なので、あなたには謁見までの間に別の身分とそのストーリーを作ってください。わたくしの給料のために」

できれば強そうな肩書がいいです。と付け加えてきたが、そもそも僕にメリットがそんなにない気がする。むしろ謁見ということは王族に会うわけで、王族相手に嘘を吐くってそれデメリットのほうがおおきくないか?」

「『男』君、また心の声が出てるよ」

「わかりました、私の減給対策に妙案が出たらこれをあなたに返却します」

 そう言ってメイド少女がエプロンのポケットから取り出したのは、擦れてボロボロになった、僕の黒いネクタイだった。

「『書記官』でずっと職場を離れなかった……いやこれは『男』に近すぎる。なら『筆者』で作品を執筆していて気付かなかった、流石に無理がある。なら『暗器使い』は? でも『暗殺者』とほぼ同じだ。『死にたがり』はどうだ、絶対に雇いたくないなそれ。『侍』とか『忍者』……ここの文化どう考えても西洋的だから通じないかもしれないな。いっそのこと『殺人鬼』とか、犯罪者じゃないか。それなら……」

「うわ、すっごい考えだしたよ」

「思ったよりも効果てきめんでしたね、これ。 ほかのお召し物は着古してはいてもここまでボロボロではなかったので何かあるのでは? とは思っていましたが」

うるさいな、僕は本来一人じゃないと集中できないんだ。 やっぱりファンタジー系の小説の称号とか二つ名からもらってくるのがいいだろう。それで刀使いなら、そうだな、

 「『剣聖』でどうだ。人里離れた場所で暮らしていたから異変に気付けず、またもともと時代錯誤な生活を送っていたから情報にも弱かった」

 「姫様たちの前で私に負けてたけど」

 「気が動転していたとでもしておけば、襲い掛かったのにもついでに言い訳ができるだろう」

 ふむふむと二人がうなづき、メイド少女が「まぁそれでいいでしょう」と言ったことで、少なくとも僕とこのメイド少女は共犯ということになった。

 「ねぇねぇ、それ何?」

 「説明してもいいが、その代わり僕は『剣聖』ということにしてくれよ」

 「黙ってる黙ってる。で、そのネクタイは何なの?」

 この『勇者』、見た目は真面目そうなのに頭軽そうだが大丈夫なのか?

 「親父の形見だよ。ことあるごとに僕がつけてて、親父はあまり使わない奴だったからくれたんだ。終焉以降、ほとんど毎日つけてたからこんな風になったけどな」

 そう答えながらメイド少女が持っているネクタイに手を伸ばすとスッとポケットの中にしまわれてしまった。

 「ちょっ」

 「えー!  返してあげなよ、形見なんだよ~?」

 英雄二人に非難の目を向けられたメイド少女は毅然として、

 「この状態ではそう遠くないうちにちぎれてしまいます。後ほど補強してお返ししますので、今はお預かりします」

 まぁそれなら……という雰囲気になって気づく。

 「僕って、この格好で謁見していいのか?」

 スラックス、シャツ、ベスト、ジャケット、コートと。終焉の前は十分正装で通った格好だが、はたして大丈夫なのか……。

 「うーん、大丈夫じゃない? 別に帯刀してないし。体も昨日拭いてもらったみたいだし」

 え、そうなの? どおりでにおわないわけだ。って、

 「そうだ、僕の刀は?」

 「今は保管室のほうにあると思います。後日、返却されると思いますが」

 まぁ、模造刀だしいいか。と、三度扉が叩かれた。メイド少女が扉を開けると、扉の前にいた別のメイドと何やら話してからメイド少女だけが戻ってきた。

「謁見の準備が整いましたので、玉座の間にお通しするように。とのことです」「わかった、ちょっと待ってくれ」

 そう言うと衣類の入っているほうのカバンから替えのネクタイを締めて、その中に隠していた短刀を取り出し、剣帯を巻いて腰に下げた。

 「結局帯刀はしていくんだ……」

 勇者のあきれた声が聞こえてくるが、僕はまだここには人間がいるとは信じ切れていない。


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