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終焉の本を読んでいた男  作者: 帽子屋 黒兎
10/13

王とエイユウ

「『勇者』、『剣聖』、両名入場!」

 大きく、派手で緻密な細工の施された大扉が開かれると、その奥の一段高くなっているところにはすでに壮年の男性と石の部屋で見た女性が座っている。呼び方どおり姫なのだとしたら、その横の男性は王なのだろう。

 玉座に向かって真っすぐに伸びる上等そうなカーペットの上を、安全靴で踏みしめながら僕は勇者の左斜め半歩後ろを進んだ。そしてその位置取りのまま玉座の前方で立ち止まった。勇者はその場に片膝を立て頭を下げる、いわゆる臣下の礼を取った。僕はその半歩後ろで立ったままだ。

 勇者の動作に対して満足げにうなずいたり笑みを浮かべたりしていた周りの貴族だろう連中は、なぜか僕が立ったままなのを見るとざわめきだした。

 「ゴホン、あー、これより、『終焉の英雄』である『勇者』および『剣聖』の謁見の議を執り行う。皆の者、静粛に!」

 玉座の段の下がったところにいた進行係らしい男が大声を張り上げて言ったことで、ひとまずざわめきは収まった。

 「よく来てくれた、『終焉の英雄』よ。まずは礼を言わせてもらおう」

 玉座に座った男性はちらちらとこちらを見ながら、一応マニュアル通りに進めるつもりらしい。まぁ、マニュアルがあるのかは知らないが。

 「貴殿らには我が国直々の依頼を果たしてもらうため、遠い時間を超えてやってきてもらった、の、だが……」

 男性はセリフをしりすぼみにしながら僕と勇者を見ている。ついでに勇者も何かおかしなものを見るようにこちらを下から見てくる。

 一応直立不動を心掛けていたのだが、どうやらこのままだと話が進みそうにないと思い、とりあえず勇者の腕をつかんで無理やり立ち上がらせた。

 「ねぇ、こういう場合ってさっきの私みたいにするのが普通なんじゃないの?」

 勇者はうろたえたようにこちらに声を潜めながら話しかけてきたが、僕はそれに対して少し声を張って答えることにした。

 「勇者殿、貴殿の話が確かなら、ここにいる者たちは貴殿、あるいは貴殿の友の子孫なのであろう? であれば、どちらの方が目上のものであるかなど考えるまでもないのではないかな? まして、どこの誰とも知らぬ男に頭を下げることもありますまい」

 僕の言葉の後半部分をとらえて、また周りの男たちが騒ぎ出す。それを進行役の男が諫めるが、先ほどと違いなかなかおさまらない。と、石の部屋にいた女性が立ち上がったことにより、静まっていく。そして静かになったところで石の部屋にいた女性が口を開いた。

 「剣聖殿、先ほどの言葉の意味をお伺いしても?」

 「なんということはない。僕は一体あなたたちが何であるかも知らない身だ。であるために、同じ立場にある勇者殿の話を最も有力な仮説であると考えただけのこと。それに、私はこの場にいるもののなかで何者かを名乗られたのは勇者殿だけで、ほかのものは何者であるかを知らぬ。どこの馬の骨とも知らぬものに下げるような頭は、生憎と持ち合わせがないものでね」

 意識して慇懃無礼な態度を取り、相手の出方をうかがう。やはりというか、警備の騎士だろう鎧から感じる敵意は増したが、玉座にいる男性と石の部屋にいた女性は胸をなでおろしたようで、先ほどよりもはっきりとした話し方で続けた。

 「これは失礼を。 余はこの国を治めている者で、こちらにいるのは余の娘だ。非礼の詫びというわけでは無いが、『勇者』殿、『剣聖』殿。両者とも立ったままでよいので、余の話を聞いてくれ」

「わかりました。して、我々にたいする依頼とは」

怒気がひしひしと感じられているが、国王や姫と連動している気配はないので、ひとまず人間、少なくともそれと同じくらいには信頼していいだろうと僕は考えながら、国王の依頼を聞いていた。

 「勇者殿はもう聞いているようだが、この時間には現在、『勇者』殿、『剣聖』殿のほかに『終焉の英雄』が二人いるが、実はその二人……『神子』と『聖女』は現在敵対関係にある教国にいるのだ」

 「それはつまり、神子と聖女を私たちでどうにかしろってこと?」

 勇者が国王の言葉に食い気味に反応した。それに国王は少し微妙な表情で答えた。

 「どうにかしてくれ、という表現であれば間違いではないが、別に殺して来いとか、拘束して来いとか言っているわけでもなければ、どちらも、というのも間違いだ」

 つまり、どういうことだろう。

 「貴殿らには、『聖女』を説得して、暴走しているであろう教皇の討伐に協力してほしいのだ」


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