偽りの『剣聖』と模擬戦.1
与えられた部屋で刀と暗器の手入れをしていると、扉がノックされた。教国に行くのに必要な手続きを済ませるまでは一応自由行動だったはずなのだが。
扉の向こうにいた男は近衛騎士の騎士団長だと名乗った。
「今暇なんだろ? ちょっと訓練に付き合ってくれよ」
とのことだ。
わけを聞いてみると、この国の近衛騎士は貴族の子息から出ているのだが、その中でも天狗になっている者がいるので、その鼻を折ってくれ。ということらしい。
ゲームだったらチュートリアルといったところだろうと疑いもしないのだが、正直すごく怪しい。なぜ僕なのか。
まぁ、疑われているだけなんだろうけど。何せ僕は伝説にないぽっと出の『剣聖』なのだから。
「よーし、喜べお前ら。噂の剣聖サマが来てくれたぞ」
ところ変わってここは練兵場……らしい。僕にはアレに見える、ローマのコロッセウム。砂煙舞ってるけど整備とか大丈夫なのかな。まぁ、近衛騎士団専用ではなく普通に軍での演習とかするならむしろ狭いのかもしれないけど。でも今回戦うことになっているのは、僕と近衛騎士三人の四人だ。すっごくフィールドが広い。と思っていたら四角い区切りの中に連れてこられた。ここから出たら負け、ということらしい。
「剣聖とか言ってるけど、こいつあれだろ? 女に負けたへなちょこだろ?」
正直に言えば勝算は低いと言わざる負えない。かたや平和な世界から外敵のいない世界に変わっただけの終焉で生きてきた、知識だけしかないような『自称剣聖』、かたや現在戦時中の国のエリート騎士、それが三人だ。
「女っつても勇者様だからな。お前らそこまで言うんなら負けんなよ~」
一言でまとめるなら、「過大評価つらい」ってところだ。
向こうでは三人組が何か話をしているが、僕は一人なので作戦会議は必要ないから、今の装備を確認することにした。
といっても、服装は謁見に出た時とそう変わっていない。変わった点は腰に差しているのが短刀から太刀と脇差になったくらいだろう。なぜか妙に頑丈になった黒鞘の太刀と、合口の朱鞘の脇差だ。
「それでは、試合のルールを説明する。相手をこの枠の外に出すか、降参だと言わせた者の勝ちだ。以上!」
ルール雑ゥ!
とりあえず、枠の外で審判役を務める近衛騎士団長に一礼して、決戦場になる枠内に向かって一礼、枠に入ってから三人組に向かっても一礼してから、太刀の反りを返した。剣道と他に卒業式とかの式典も混ざっている気がするけど、気にしない気にしない。どうせわかりゃしないんだから。
なぜって三人組は枠に入るなり抜剣してじりじりとこちらを囲み始めたのだから。まだはじまってないぞー。これには近衛騎士団長もため息。
「あー、始めていいぞ」
合図も雑ゥ!
三人組は合図と同時に踏み込んできた。ので、とりあえず足元の砂を眼前の奴に向かって蹴り上げた。馬鹿正直に突っ込んだ近衛騎士Aは普通に目つぶしを食らった。剣の軌道は三人とも上段からの降り下ろしのようだったので、僕は近衛騎士Aの横をすり抜けてついでに背中に蹴りを叩きこむ。兜被ってれば問題なかったはずなのにねー。見た目を気にするからこうなる。人のこと言えないけど。
近衛騎士Aの取り巻きらしいBとCは、今剣を振り下ろすとAに当たってしまうので振り下ろせず、Aは砂をはいている。口に入ってたのか。
「おまえらぁ!早くあいつを何とかしろぉ!」
Aは人任せを使った! BとCはAを守るようにこちらに向きなおった。向こうが足を浮かせた瞬間に大きく抜刀することで向こうの調子をずらし、左手側にいたCに十字手裏剣を投げつける。Cがそれに注意が言っているうちにBのもとに踏み込んで刃を寝かせた突きを出す。突きは軌道が読まれやすいが繰り出すまでが早い。剣道のものと同じで首を狙ったものなので、Bはとっさに首を振って突きをかわした。僕はすかさず刀をBの首に向けて振りながら跳んだ。全力で振りぬきながら跳ぶことで体の位置を無理やり動かすわけであるが、普通こんなことはやらない。こんな使い方をしたら刀は折れるし、相手の首を飛ばすまでには至らない可能性があるからだ。でもやった。僕の模造刀はなぜかとても頑丈で、しかも切るものではなく殴るものだからだ。
その結果として、僕はBの左に移動して、首に人一人分の体重が移動するだけの負荷がかかったBは倒れてしまった。そこに奇襲を狙っていたCの降り下ろしが来たからまぁたいへん。BはCの一撃を受けて医務室送り、Cはそれに驚いて腰が引けていたところを思いっきり蹴って場外になってしまった。
で、のこったのはAだけなんだが、
「チッ、役立たずどもが」
さっきまでで誰が役立たずかってーと、真っ先に目つぶし食らってたこいつだと思うんだけど」
「おい、声に出てるぞ」
こりゃ失敬。
新生活が始まりまして、そのドタバタのさなかで先週の更新をし損ねてしまいました。後ほどもう一話投稿します




