今の俺に出来ること
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ガヤガヤと喧騒に満ちた空間。
全校の生徒が集まったこの空間には少しのピリッとした緊張感が漂っており、これから始まる事への緊張なのだと分かる。
(……俺ら、全く関係ないのに、それでも緊張するんだな)
しかし、あくまでも少しだけだ。基本的には緩い雰囲気に包まれておりどの生徒も楽しんでいる。
そして、それは俺の隣の友人も例外では無く……。
どこか興奮したそれでいて期待に満ち溢れた表情で俺に話し掛けてきた。
(うおっ……目が輝いてる。眩しっ!)
「なあなあ高利っ?なんか緊張するな!」
「え、そう?……うん、いや、ちょっと緊張するかも」
この激励会という行事において、どこかソワソワする様な独特な緊張感は誰もが感じた事があるのではないだろうか。
まあ、無いかもだけど。
「それでさ、今メッセージが来たんだけど……なんか少し遅れるらしいぞ」
「は?あ、え……激励会のこと?」
「そうそう、なんか揉め事?的なのが選手達の間で起こってるらしい……って書いてある」
「なんで最後、微妙に弱気なんだよ。……え、てか誰からメッセージが来たの?」
俺は、春雨のそこそこ整った顔立ちを見ながらそう問い掛ける。すると、何でも無いかのように春雨はあっさりと告げた。
「金堂先輩だな」
「………………はぁっ!?」
思わず大声を出してしまった俺に、周りの生徒の視線が集まる。
だが、大声を発したのが俺という全く知らない陰キャラだと分かった瞬間、興味を無くしたかのように元の会話に戻っていく生徒たち。
俺はゴホンと咳払いをすると、再度春雨に問い掛ける。
「金堂先輩って……あの?」
「あのも何も無いだろ……?」
「いや、まあ。……そうだよね」
(……そりゃあ金堂先輩といったら一人しかいないんだけどさ)
「お前……金堂先輩とメッセージを取り合う仲なの?」
「ああ、そうだな。つっても、大抵は金堂先輩が、<今、暇なんだけど>とか言ってきて、それに俺が答えるかんじだな」
(おいおい、なんか今、超スゴイ事聞いちゃったよ!?)
(……え、アノ金堂先輩だぞ?そんな乙女らしい一面が)
俺が困惑した表情をしていると、春雨がそんな俺に話し掛けてきた。
「おいおい、どうしたんだよ?」
「…………いや、何でもない」
(本音は、めっちゃ聞きたい。けど今はそれよりも)
俺は本音を押し殺し、友人にいつも通りを装って聞いてみる。
「で、……選手達の間で何が起こってるの?」
「ん~?それがな。俺も詳しい事は…………
って、おおっ、またメッセージが来たわ。えーっと、<男子バスケ部と女子バスケ部が揉めてて遅れている>……らしいぞ?」
「⎯⎯バスケ部」
背中がゾワリとした。
俺の頭に最悪の状況が浮かんできた。
ごくり。
最悪の状況を想定した上で、俺はこれから何をすれば良いか。何が出来るかを考える。
(……もし、そういう事だとしたら、今の俺に何が出来る?)
「おい、おーい。高利、お前大丈夫か?」
友人の声にハッとする。
俺は春雨の方を見ると、勢いよく。
「頼むっ!その金堂先輩にもっと詳しい状況を教えてくれるように頼んでくれないかっ?」
「お、おう。どうしたんだよ……でも、まあ高利がそんな必死なら何か理由があんだろうな。了解、聞いてみるわ」
そう言いながらスマホでメッセージを打ち込む春雨。
(ほんっとコイツ……イケメンだな)
こういうキッパリとした所とか、俺なんかとも仲良くしてくれる人付き合いの良さとか、コミュニケーションの高さとか。単純に顔面の格好良さとか。
(⎯⎯あと、単純にイイ奴なところとか)
「一応送っておいたけど、すぐに来るかは分か⎯⎯⎯」
ピロン。
春雨のスマホがそう音をあげた。
「え、もう来たの?」
「ああ、そうみたいだな。金堂先輩、相変わらず早いな」
「なんて書いてあった……?」
「<私にも状況がいまいち理解できていないんだけど。男子バスケ部が女子バスケ部に何かしたみたい>……って、なんだそれ?」
「いや、俺に聞かれても……。でも、何かしたみたいって」
(……なんだよそれ。なんなんだよそれ)
俺はあの人の顔を思い浮かべる。
そして、その場で突然立ち上がると。
「⎯⎯⎯ちょっと、様子見てくるわ」
そう春雨に一言だけ言い残し。
俺は、本当にあの人の事になると自分らしく無くなるな……と自分で呆れながら、未だに喧騒に満ちている体育館を出て、選手達が集まっている場所へと向かった。
まさかの激励会編、もう少し続きます!