俺だけが知っている・・・
本当に多くの方に読んで頂いて光栄です。
なるべく早くに投稿します!
「⎯⎯なら、なんで俺とは話せてるんですか?」
そう俺が先輩に問いかけてから、既に2分の時が経っていた。
俺はその間ずっと後悔の念に苛まれてた。
当初、俺は神倉先輩と必要以上に関わらず、神倉先輩の中で俺という存在は自然と消えていく予定だったのだ。
しかしーーー俺は越えてはいけない一線を自ら飛び越えていってしまった。
なんで、あんな事を聞いてしまったのか……そう後悔に次ぐ後悔を心中で繰返していた。
すると突然、神倉先輩がボソッと小さく呟いた。
「⎯⎯私、にも……分かんない」
俺はその言葉に納得した。
そりゃそうだ。当たり前だ。自分の意思関係なく身体が拒否反応を起こしているのに、何故俺だけは起こらないのかを神倉先輩に聞いたところで分かるわけがない。
(俺はなんて馬鹿な事を……ごめんなさい神倉先輩……)
ーーーしかし、神倉先輩の呟きは終わらなかった。
「……だけど、きっと君だから……なんだろうね」
何の事だかさっぱり分からない、そんな呟き。
俺は要領の得ない呟きに首を傾げる。何の事だろう……そう思い神倉先輩の方を見ると…………神倉先輩はプスプスと煙が出そうなくらい頬を朱色に染めていた。
(ええぇ!?神倉先輩……どうしたの!?)
なんだか俺は、昨日といい今日といい神倉先輩に驚かされっぱなしだ。
俺は、もしかしてまた何かの症状が出たのかも……と不安に思い神倉先輩に問いかけた。
「せ、……神倉さんっ!今度はどうしたんですかっ?」
(……危ねぇ。思わず先輩って言うところだった……)
慌てすぎて、思わぬドジを踏んでしまいそうになった。
こういう時こそ落ち着こう。
すると先輩は真っ赤な顔を俺から逸らしてーーー
「いや、今回のは本当に大丈夫だから。……だから、ちょっとあっち向いててくれない……?」
「あ、は、はい」
そう言われてしまっては俺にはどうすることも出来ない。そうして暫くの間、後ろで深呼吸を繰返している神倉先輩を見ない様にしながら、俺は美味しくカフェラテを飲んだ。
(うん、カフェラテ超旨い)
「⎯⎯⎯それで、本当に大丈夫なんですか?」
神倉先輩が元の様子に戻り、現在は神倉先輩に異常が無いかを確認している。
「うん、もう大丈夫……大丈夫だから」
(どうも大丈夫じゃなさそうなんだけど……)
「さっきも過呼吸になってましたし。さっきも本当に顔中真っ赤でしたけど、大丈夫なんですか?」
ぐいぐいと先輩に迫る俺。
我ながら中々ウザいとは思うが、そのくらい今の俺には心配なのだ。
「うん、熱は無いと思うよ?……それにさっきのは熱とかじゃなくてね……その…………や、やっぱり、なんでもない………」
(そこまで言ったのなら教えてくれても良いんじゃ……?)
そう思いもしたが。とはいえ熱では無いのなら良しとしよう。
しかし、俺は少し心配し過ぎなのだろうか。
……だけど、さっきの事もあるし、あんなに頬を真っ赤にしていたら心配してしまうのも仕方が無いことだと思う。
ーーー俺は意識してトーンを落とす。
「⎯⎯⎯なら、今のは男の人が怖いというのとは関係ないって事で良いんですよね……?」
「……うん」
「そっか。なら良かった……」
安堵の息を吐く。
だが何も問題は解決していない。
俺は最初制服とセーターを取りにきただけだった筈が、今は………神倉先輩が心配で仕方がない。
(当たり前だよな……俺だって昨日の現場を見たんだから。先輩がどんなに怯えていたのか知っているんだから……)
そう。俺は他の誰よりも、昨日の先輩の恐怖を知っている。だからこそ今の先輩をほうってはおけなかった。
「⎯⎯⎯ありがとね」
神倉先輩の突然の感謝の言葉に俺の胸がドクンッと鳴り響いた。
そしてーーー
「神倉さん、俺も協力します……だから。心配しないで下さい、怯えないで下さい、絶対に、絶対に大丈夫ですから」
気が付いた時にはそう口から溢れていた。
自分でも何を言っているのか良く分からなかった。理解できなかった。だけど、これが俺の本音なんだという事はすぐに分かった。
(まあ、俺に何が出来るのかって話なんだけども………)
「⎯⎯⎯うん、頼るね」
そんな俺の考えは、先輩の瞳から零れ落ちた涙を見た瞬間、どうでも良く思えてしまった。
涙を流しながら微笑んだ先輩の美しさは、神々しくて神秘的で、とにかく綺麗だった。
ーーーこの人の為に何かをしてあげたい。
何が出来るのかは分からないが、もしもこの人の力になれるなら例えどんなに微力でも頑張ろうと俺は心に誓った。
次で一応プロローグの様なモノは終わります。
そしてその次からは本編、いわゆる主人公と神倉先輩の学校生活が始まる予定です!