違和感
何故だ。納得がいかない。道理がいかない。どうしてなのか分からない。
ーーー『もう帰ってもいいっすよ』だったか?
何と言われたのか正確には忘れてしまったが、それでもそんなニュアンスの言葉だったのは覚えている。
しかし、だ。
その言葉だけを見れば、その言葉は、いかにも面倒くさそうに、隅に一人でいた俺を気遣ってのことの様に思える。
ーーーただ、あの男子生徒の目は違った。その男子生徒から醸し出される雰囲気が違った。
あれは、下を見る目だ。
明確に、それでいて的確に判断し、そして自身の中で絶対的な物差しを使い、そしてーーー俺を下に見たのだと思う。
(まあ……俺も確かに、あの態度はなかったよな)
と、ここまで色々言ってきたが、俺にも十分に非はあるのだ。
例え、俺以外に遊んでいる人や話している人たちが数多く居る中で、俺に『だけ』、そんな言葉を言ってきたとしても、だ。
(そこはきちんと反省しよう、そしてーーー)
ーーー今日からは、しっかりと働くんだ。
そんな決意を胸に、俺は今日も、自分のクラスが属する連合の体育祭実行委員が集合する教室を目指す。
ドクン。ドクン。ドクン。
あ、やばい。なんか吐きそう。
(俺のメンタル弱すぎでしょう? 豆腐なの?)
なんて心のなかでぶつぶつと独り言を言うように話し、緊張を紛らわす。
そしてそんな事を考えているうちに、いつの間にやらついてしまった。
俺は中の様子をチラリと覗き見る。
……どうやら、昨日の男子生徒はいないようだ。
「ーーーあれ? 今日も来たんすか?」
悪意、というよりかは、敵意の篭った言葉。
それを後ろ側から突如として掛けられた。
勿論、ビクンッと身体を揺らして、ビビる俺。
「ぃーーー」
何か、何か話さなければ。
そう考えた俺は、まず口を動かそうとする。
ーーーが、
「 まあ、別に居てもらっても全然いいんすけどね」
俺の言葉に対して、この男子生徒は思いっきり被せてきた。
わざとかどうかは分からないし、判断のしようもない。別にするつもりもない。
けれど、なんだか、久しぶりだった。
ここまで明確な敵意をぶつけられたのは。
悪意の類は、今までも数多くぶつけられては転げて立ち上がれなくなってきたが、それにしても、敵意とは久しぶりだ。
俺が何かやっただろうか。
そう思いながら、もう一度しっかりと、眼前にいる男子生徒を見る。
身長は俺よりも高い。身体も引き締まっている。顔は中の上で、目はかなり鋭いが、全体的な雰囲気がイケメンな感じを出している。
(これは、典型的なスポーツ型リア充だな……)
「あのー邪魔なんで。そこ、どいてもらえます?」
「あ、悪……ごめん」
どんな言葉使いをすればいいのか分からなくなってしまった。
こういう時の対応が分からない。
しかしだ、考えれば考えるほど分からない。俺は一体この男子生徒に、何か敵対心を抱かせるような事をしただろうか?
全く覚えがない。
何にも普段から目立った行動をせず、しかもこんな生徒達とは関わり合いすらないのだ。
何か、憂さ晴らしに使われているのだろうか?
そう考えれば、少しは納得できるが……。
俺は教室に入った後も、相変わらずそんな思考を延々と続けていた。
ーーーすると、突然、廊下の方から悲鳴に似た声が聞こえてきた。
女子の高い声だった。いや、より正確に言うならば、数人の女子達の声だ。
(なんだ……? なんかあったのか……?)
ーーーしかし、その悲鳴の様な声の原因は直ぐに判明することになる。
ガヤガヤとした教室の扉が突如として開かれ、そしてーーーその扉から入ってきたのは、
「あのう、体育祭実行委員長としてきました。神倉です!」
そう。扉を開けて入ってきたのは、この高校の超有名人である神倉先輩だったのだ。




